このページでは「おすすめヤクザ映画7選」を東映実録映画の中から厳選して紹介いたします。
東映実録映画は「東映(映画の会社)によって製作された実話をベースにしたヤクザ映画」のことです。
圧倒的なリアルなヤクザの世界が覗けるのが東映実録映画の魅力です。事件の当事者の生々しい証言を反映し作られた世界観は、今の時代は規制によって製作するのは難しいと言えるでしょう。
ぜひ、そんなリアルなヤクザ映画の世界にどっぷり浸かってみてください!
※このページは東映実録映画の大ファンである國谷正明氏による『東映実録映画入門』の内容をWebon編集部がまとめたものです。
▼『東映実録映画入門』(全21ページ)
おすすめヤクザ映画7選!
① 仁義なき戦い
作品名 | 仁義なき戦い |
公開 | 1973年1月13日 |
監督 | 深作欣二 |
脚本 | 笠原和夫 |
上映時間 | 99分 |
出演 | 菅原文太/松方弘樹/渡瀬恒彦/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫 |
暴力団の抗争をリアルに描いた本作は「現代ヤクザ映画の原点」とも称される。日本最古の映画雑誌「キネマ旬報」が選ぶ「70年代日本映画ベスト・テン」の第2位に選出される。シリーズは全5作品ある。 |
【あらすじ】物語は敗戦直後の広島県呉市の闇市からはじまる。広能昌三は殺人を犯して刑務所に入ります。そこで土居組の若杉寛と義兄弟になり、広能は土居組と友好関係にあった山守組の一員になりヤクザの世界に足を踏み入れる。その後、市議会議員選を巡り土居組と山守組は対立関係になる。そして広能は土居組の組長の暗殺をすることに・・・。
「仁義なき戦い」は実際に起きたヤクザの抗争である「広島抗争」がモデルとなっている映画です。
「仁義なき戦い」は美能幸三氏(=ヤクザ。広島抗争の中心人物の一人)が獄中(ろうやの中)で綴った手記をベースにして映画化された作品です。
それまでのヤクザ映画というのは、時代劇の延長線上にあった任侠映画では侠客の生き様を美化して描くような作品でした。
それに対し「仁義なき戦い」では権謀術数の渦巻くヤクザの世界を社会の病巣として批判的に描くことで、ヤクザ映画に新境地を切り開きました。
物語の構成や人間関係が複雑化しており、一見しただけでは物語の全体像を把握しづらいという声も多いです。ただ、現実の人間関係に準じたその複雑怪奇な人間模様こそ「仁義なき戦い」の大きな魅力のひとつであるといえます。
② 実録・私設銀座警察
作品名 | 実録・私設銀座警察 |
公開 | 1973年7月4日 |
監督 | 佐藤純彌 |
脚本 | 神波史男、松田寛夫 |
出演 | 安藤昇、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、葉山良二、室田日出男、内田朝雄、待田京介、郷鍈治、藤浩子、中村英子、小林稔侍ほか |
▼告知の映像
「実録・私設銀座警察」は「仁義なき戦い」シリーズをはるかに凌ぐ混沌とした内容であるため、観ていると思わず実録作品(実話を元にした作品)であることを忘れてしまうほどです。
「実録・私設銀座警察」は実録映画の例に漏れず、実在の人物をモデルにしたキャラクターを軸に物語が展開していきます。
しかし、実在の人物をモデルにとらない架空のキャラクターである「渡海菊夫」の怪物ぶりこそが、本作をカルト的名作に至らしめている要因であることは間違いありません。
本作は渡瀬恒彦演じる渡海が、外国人相手の娼婦(=売春を生業とする女性)に身をやつした妻の許(もと)を訪れるところから始まります。
妻が黒人の子を産んでいることを知った渡海は、激怒のあまりその乳児を二階から水たまりに投げ捨てると、半狂乱で我が子を助けようとする妻に暴行を加え、容赦なく殴り殺してしまいます。
苛烈な暴力シーンが珍しくない実録映画の世界でも、本作は全編を通して暴力描写が濃厚に描かれており、特に冒頭における暴力描写は群を抜いて衝撃的です。
本作は実録映画の枠を超えて評価されるべきカルト映画の傑作であるといえるでしょう。ヤクザ映画好きやカルト映画ファンはもちろん、B級ホラーマニアの方もきっと楽しめるのではないかと思います。
③ 仁義の墓場
公開 | 1975年2月15日 |
監督 | 深作欣二 |
脚本 | 鴨居達比古 |
出演 | 渡哲也、梅宮辰夫、田中邦衛、成田三樹夫、安藤昇、ハナ肇、室田日出男、山城新伍、曽根晴美、郷鍈治、多岐川裕美ほか |
▼予告編
本作では茨城県水戸市出身のヤクザ・石川力夫氏の半生が「仁義なき戦い」シリーズに通ずる荒々しいドキュメントタッチで描かれています。
主人公・石川力夫の厭世的(えんせいてき:人生を儚く捉える精神的な傾向)な破滅的な生き様は他の実録映画の登場人物と比べても比類がなく、実在の人物に基づいているとは俄に信じがたいほどです。
監督である深作欣二氏と石川力夫氏には同じ茨城県水戸市の出身であるという共通点があり、本作が「ヤクザ映画の極北」と称される傑作に仕上がったことと全くの無関係だとは考えられません。
「仁義の墓場」が「仁義なき戦い」シリーズにも劣らないヤクザ映画の金字塔であることは疑う余地がありません。公開した1975年に発表されたキネマ旬報(日本でも最も歴史のある映画雑誌)オールタイム・ベスト100の日本映画篇では第38位にランクインしています。
ただ「仁義の墓場」が「仁義なき戦い」よりもはるかに陰鬱でアンモラルで、観る者を選ぶような内容であり万人受けするような作品ではないことを考えると、ランクインすること自体が驚異的だと言えるでしょう。
凄まじい勢いで転落の一途をたどっていく様子は「壮絶」のひとことで、エンディングまで息をつく暇もない高い密度で物語が展開していきます。
④ 実録外伝 大阪電撃作戦
作品名 | 実録外伝 大阪電撃作戦 |
公開 | 1976年1月31日 |
監督 | 中島貞夫 |
脚本 | 高田宏治 |
出演 | 松方弘樹、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、室田日出男、小林旭、成田三樹夫、伊吹吾郎、丹波哲郎、織本順吉、小松方正、目黒祐樹ほか |
上映時間 | 92分 |
▼予告編
「実録外伝 大阪電撃作戦」は三代目山口組と愚連隊系暴力団・明友会の抗争(通称:明友会事件)を題材に描いた実録映画です。
「明友会事件」とは、大阪を拠点に活動する愚連隊系暴力団「明友会」と「三代目山口組」との抗争事件を指す。 三代目山口組々長と中川組々長は、人気歌手の田端氏の労をねぎらうためにクラブを訪れる。そこに偶然居合わせていた明友会幹部の宋氏は、酔った勢いで歌手の田端氏に歌うことを強要し、仲裁に入った中川氏を殴ってしまう。それが事件の発端となり、山口組はおよそ2週間で明友会を壊滅させた。 明友会事件について以下で詳しく解説!
いくつか実録映画で明友会事件を描いた作品はありますが、実録映画の中では明友会事件の内実をもっとも詳しく描いている作品と言えます。
人間狩りの場面では凄惨な暴力描写が散見されますが、本作も実録映画の例に漏れず膨大な知識と取材を下敷きに組み立てられております。
掌に釘を打ちこんで磔(はりつけ)にするシーンや、ドラム缶にセメントを流し火炙りにするシーンをはじめ、これらの描写はいずれも実際のエピソードを基にしているそうです。
▼ドラム缶にセメントを流し火炙りするイメージ
じつに痛ましい裏話ですが、事実に基づいたリアリティこそ実録映画の大きな魅力のひとつであり、本作は実録映画のひとつの到達点といっても過言ではない高い完成度を誇っています。
⑤ 沖縄やくざ戦争
作品名 | 沖縄やくざ戦争 |
公開 | 1976年9月4日 |
監督 | 中島貞夫 |
脚本 | 高田宏治、神田史男 |
出演 | 松方弘樹、千葉真一、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、室田日出男、成田三樹夫、織本順吉、地井武男、新藤恵美、尾藤イサオ、三上寛ほか |
▼予告編
本作は東映実録路線に連なる作品の中でもひときわ異彩を放っています。
それが沖縄という舞台の特異性に根ざしていることは言うまでもありませんが、実録映画らしくないロック調のBGMや、そして本作の主役である国頭正剛を演じる千葉真一氏の怪演も作品の方向性を決定づけている要因のひとつです。
縄張りを侵した舎弟分に対する制裁や、本土系暴力団に見せつけるような琉球空手の演舞も充分ドン引きするレベルです。(演舞自体よりも、劇中のあの状況でいきなり演舞をするというのがあまりに常識はずれかつ想定外の行動だと思いました。実際にご覧いただければ理解いただけるかと思います。)
また、本土系暴力団の進攻に怯える沖縄連合琉盛会上層部の面々の前で放った戦争を賛美する発言は、実録映画の歴史に残る迷言であるといえます。
千葉真一演じる国頭正剛は死に様も凄まじく、筆者は日頃から実録映画以外にもさまざまな映画を好んで鑑賞していますが、本作の国頭以上にインパクトのある死に様を他に知りません。
2位にダブルスコアをつけたぶっちぎりの1位です。
「仁義なき戦い」シリーズをはじめ、実録映画には随所にブラックユーモアが散りばめられているため、思わず笑ってしまうような場面も少なくないのですが、国頭の死に様はそんなレベルではありません。何回観ても腹を抱えて笑ってしまいます。
こればかりはとても言葉で説明することができませんので、ぜひその目で国頭の壮絶な最期をご覧になってください。
⑥ 日本の首領 三部作
<日本の首領シリーズ一作目>
作品名 | やくざ戦争 日本の首領 |
公開 | 1977年1月22日 |
監督 | 中島貞夫 |
脚本 | 高田宏治 |
出演 | 佐分利信、鶴田浩二、松方弘樹、高橋悦史、西村晃、菅原文太、梅宮辰夫、千葉真一、成田三樹夫、織本順吉、渡瀬恒彦、小池朝雄、田中邦衛、金子信雄、内田朝雄、地井武男、小林稔侍ほか |
▼予告編
「やくざ戦争 日本の首領」「日本の首領 野望篇」「日本の首領 完結篇」は三代目山口組々長・田岡一雄氏率いる山口組の全国制覇を題材にとった実録映画シリーズです。
本作の原作小説「日本の首領」の著者である作家・飯干晃一氏は「仁義なき戦い」の生みの親としても知られており、東映実録映画の誕生に計り知れない影響を与えました。
本シリーズは「和製ゴッドファーザー」をコンセプトに製作されました。
実録映画の先駆である「仁義なき戦い」が企画された際も、当時のプロデューサーである俊藤浩滋氏の念頭には映画「ゴッドファーザー」シリーズのイメージがあったそうです。
「仁義なき戦い」が「ゴッドファーザー」とはかけ離れたドキュメントタッチの作品であるのに対し「日本の首領」三部作はまさに和製ゴッドファーザーと呼ぶに相応しい壮大でドラマチックなシリーズに仕上がっています。
本家「ゴッドファーザー」と同様に、「日本の首領」三部作も1作目≧2作目>3作目の順で完成度が高いように思えます(あくまで筆者の私見です)が、いずれも甲乙つけがたい実録路線末期の名作です。
劇中には「ゴッドファーザー」のオマージュとなっている場面もあるので、未見の方は本家「ゴッドファーザー」三部作を先にご覧になることをおすすめします。
⑦ 北陸代理戦争
作品名 | 北陸代理戦争 |
公開 | 1977年2月26日 |
監督 | 深作欣二 |
脚本 | 高田宏治 |
出演 | 松方弘樹、ハナ肇、野川由美子、高橋洋子、地井武男、遠藤太津朗、織本順吉、千葉真一、成田三樹夫、西村晃、小林稔侍ほか |
▼予告編
「北陸代理戦争」は福井県を舞台に、地元暴力団同士の争いと北陸進攻を目論む大組織との抗争事件を描いた実録映画です。実録路線を終焉に向かわせた「三国事件」の引き金となった作品としても知られています。
三国事件とは映画「北陸代理戦争」の主人公のモデルとなった川内氏が昭和52年4月13日に、行きつけの喫茶店で射殺された事件です。
映画「北陸代理戦争」がこの事件に影響を及ぼしたとされており、映画が現実の事件を引き起こしたとも受け取れる一連の出来事は当時の関係者に大きな衝撃を与えました。
本作の監督を務めた深作欣二氏は「北陸代理戦争」を最後に実録路線から離れることとなります。
興業的には失敗だったかもしれませんが「北陸代理戦争」が「仁義なき戦い」にも劣らない実録映画の名作であることに疑問の余地はありません。
以上、「おすすめヤクザ映画7選」でした。
「東映実録映画入門」では東映実録映画の魅力、歴史、題材となった事件、出演俳優などがわかります!ぜひともご覧ください!
▼『東映実録映画入門』(全21ページ)
はじめに
第1章 東映実録映画の基礎知識
第2章 東映実録映画の題材になった事件
『実録外伝 大阪電撃作戦』のモデルになった【明友会事件】解説
第3章 おすすめ実録映画7選
実録外伝 大阪電撃作戦 【おすすめ実録映画(ヤクザ映画)7選】
第4章 実録映画の魅力的な俳優6選
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」、「エキゾチックアニマル」、「昆虫」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
facebook(國谷)