『読んで楽しい落語の演目と知識 ~人気の演目から泣ける演目まで~』はこちらから!
はじめに
第1章 落語の定番
第2章 とにかく笑える落語演目集
第3章 色んなジャンルの落語演目集
第4章 落語をもっと楽しむ
著者:なかむら治彦
本業は4コマ漫画家兼イラストレーター。学生時代から筋金入りの落語ファン。1998年「第1回新作落語大賞」に落語脚本を投稿し、大賞を受賞。その後は「尾張家はじめ」のペンネームで落語作家兼ライターを副業に。現在、隔月パズル雑誌『漢字道』(イード)で落語4コマを連載中。著書は『落語まんが寄席』(新星出版社)他。
お問い合わせはこちらから
『落語の演目と知識』目次へ (全10ページ)
落語のストーリーには多かれ少なかれ、笑える要素が盛り込まれています。中でもとりわけ笑いの要素が強い落語を「滑稽噺(こっけいばなし)」という呼び方で分類します。
このページでは、数ある滑稽噺の中から、何も考えずにとにかく笑える内容の演目を次々に紹介してまいりましょう。
目次
ドタバタ系滑稽噺
ここでいうドタバタ系滑稽噺とは、ストーリーの中でドタバタ要素が徐々に積み重なり、クライマックスで最も笑いが大きくなる、さながら喜劇の舞台のような落語のことです。
喜劇がお好きな方はドタバタ系滑稽噺の演目を聴いてみるといいでしょう。
そんなドタバタ系滑稽噺の中で身振り手振りのオーバーアクションで笑わせる落語演目をまずは5つご紹介していきます。
1.ちりとてちん
~あらすじ~
知ったかぶりで何でも通な感じを出す男に対して何人かの若い男たちが腐った豆腐を食わせてやろうと企む。腐った豆腐を騙して食わせて、知ったかぶり男は苦悶の表情を浮かべるが・・・
~概要~
江戸(東京)では「酢豆腐」と呼ばれる演目。NHK朝ドラ「ちりとてちん」の由来の一つとなった演目。
知ったかぶりで自慢たらしい男がこらしめられる図式は、ドラマの勧善懲悪に通じます。要は落語版『スカッとジャパン』です。
※スカッとジャパン・・・フジTVで放映中(2019年3月時点)のドラマ型バラエティ番組
最大の笑い所はクライマックスの七転八倒する表情。ここだけ切り取られると、聴いてない人には絶対「いじめだ」なんだと誤解されそうですが。
▼視聴アプリ・サービス
audible | 〇 | spotify | 〇 | 落語のすゝめ | 〇 |
audible・・・プロナレーターの朗読配信サービス。落語も豊富。1冊無料お試しあり。
spotify・・・音楽ストリーミングサービス。無料。(有料版有)
落語のすゝめ・・・落語専門ストリーミングサービス。月額648円。
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
2.反対俥(はんたいぐるま)
~あらすじ~
終電に間に合うように駅に行きたい男が人力車をつかまえる。最初は病弱な男が引く人力車をつかまえる。駅までいけないばかりか時間を食ってしまってさらに急いで駅までいかなければならなくなる。次の人力車は速そうな男をつかまえる事に成功。急いで人力車を走らせてもらい駅に着くが、その人力車を引く男はスピードが速過ぎてあっという間に目的駅を通り越しており遠くの駅に着いてしまう・・・
~概要~
江戸落語(東京)では『反対俥』だが上方落語(関西)では『いらち俥』という名で呼ばれる演目。目的地を通り過ぎてたどり着く地名は落語家によってまちまち。
弱弱しい人力車夫が登場する前半と、超人レベルで脚の速い人力車夫が登場する後半の対比です。加えて後半はひたすらわかりやすいアクションギャグです。光景が想像できたらなお楽しめます。
▼視聴アプリ・サービス
audible | 〇 | spotify | 〇 | 落語のすゝめ | 〇 |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
3.たいこ腹
4.四人癖
5.手水(ちょうず)廻し
これらの演目が、爆笑落語としてはおなじみです。
上記以外のドタバタ系滑稽噺として代表的なものを以下に4つ挙げます。
6.寄合酒
7.猫と金魚
8.代書屋
9.軒付け
これら9の演目が、滑稽噺の代表格でしょう。
ここで紹介した演目は確実に爆笑が取れるため演者も多く、寄席でよく聴けます。
ただし『5.手水廻し』と『9.軒付け』は上方落語(関西の落語)で、東京の落語家は演じません。
落語は「上方落語」「江戸落語」で分けることができ、両者は「言葉遣い」や「演出」などが違う。例えば同じ内容の演目でもタイトルが違ったりする。
▼江戸と上方の違い一覧
江戸落語 | 上方落語 | |
発祥地 | 江戸 | 関西(上方) |
階級制度 | 見習い→前座→二つ目→真打ち | なし |
言葉 | 江戸弁 | 関西弁 |
道具 | 扇子・手ぬぐい | 扇子・手ぬぐい・見台・ひざ隠し・小拍子 |
噺の演出の特徴 | 特になし | ハメモノが入る演目が多い |
著者のおすすめ!
Q. ドタバタ系滑稽噺の中で一番好きな演目はどれですか?
A. 自分が好きな落語と言いますか、笑える落語は全部好きですので、落語初心者に勧めることを前提に考えますと、設定がわかりやすいのは『1.ちりとてちん』ですね。
あと、ドタバタ系ではその光景が容易に想像できることも笑いを倍化する要素ですので、その意味では『7.猫と金魚』もいいかもしれません。
『猫と金魚』はギャグアニメのように軽快なテンポで進行する落語なので、おのおのの頭の中で自分なりのアニメキャラを動かしてもらえればよいかと思います。
▼ちりとてちんを聴く
amazonで探す 楽天で探す
▼猫と金魚を聴く
amazonで探す 楽天で探す
マシンガン系滑稽噺
ここでいうマシンガン系滑稽噺とは、テンポのよいギャグがマシンガンのごとく連続する落語のことです。
登場人物が一人ないし二人で進行することが多いため、ギャグの量が漫才並みに多いのが特徴です。
マシンガン系滑稽噺と漫才の共通点は「笑わせ所の数とテンポの早さ」です。
漫才がお好きな方は以下に紹介する演目を聴いてみると楽しめるかもしれません。
まずは新作落語を7つご紹介していきます。
古典落語と新作落語の定義は諸説あるため、一概には言えませんが、理解しやすい基準としましては、作者が明確なのが新作落語で、長年にわたり不特定多数の作者の手が加わって出来上がったのが古典落語という考え方です。
その一方で、一代限りで演者が途絶えるのが新作落語、何代もの演者によって口伝され継承されるのが古典落語、という考え方もあります。その意味では、昭和に完成した新作落語の中にも、多くの演者に受け継がれて既に古典化した演目もあります。2015年に亡くなった桂米朝師匠が1950年代に自作した新作落語『一文笛』などはその好例でしょう。
10.結婚式風景
~あらすじ~
とある結婚式で仲人や来賓がスピーチをするがそのスピーチがめちゃくちゃなものばかり・・・
~概要~
春風亭柳昇(しゅんぷうてい りゅうしょう:故人)師匠の自作。春風亭柳昇師匠は1960年代から2000年ごろまで活躍した落語家。
結婚式のスピーチを徹底的にギャグにしています。パロディ構造(結婚式のスピーチのパロディ)は無条件に笑えるものです。
聴く人の脳内にスピーチとはどんなものかの情報がインプットされていればより楽しめるでしょう。
▼視聴アプリ・サービス
audible | – | spotify | – | 落語のすゝめ | – |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
11.金満家族
12.受験家族
13.お見合い中
14.宴会の花道
15.力士の春
16.愛犬チャッピー
続いて古典落語のマシンガン系滑稽噺を4つご紹介します。
17.堀の内
18.大安売り
~あらすじ~
街で若い衆が前から歩いてきた相撲取りへ声をかける。「関取さん、この前の場所はどうだった?」「勝ったり負けたりです。」このように会話が始まるがよくよく聞いてみると・・・
~概要~
テレビタレントとしても有名な六代目桂文枝(かつらぶんし)もかつて演じていた。
▼六代目 桂文枝
By Ogiyoshisan – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link
▼視聴アプリ・サービス
audible | – | spotify | 〇 | 落語のすゝめ | – |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
19.色事根問
また、春になると寄席で必ず演じられる『長屋の花見』は、登場人物こそ多数ですが(2人の掛け合いではないですが)ギャグの連射具合では引けを取りません。
20.長屋の花見
著者のおすすめ!
Q. マシンガン系滑稽噺の中で一番好きな演目はどれですか?
A. 春風亭昇太師匠の新作『15.力士の春』または『16.愛犬チャッピー』でしょうか。初心者が誰にするか迷ったら「とりあえず知っている人から」といつも伝えています。(昇太師匠が『笑点』の司会者であることを知っている前提で書いていますが)
両方とも10分弱の短い落語なので、聴きやすいと思います。
▼力士の春を聴く
amazonで探す 楽天で探す
▼愛犬チャッピーを聴く
amazonで探す 楽天で探す
リズムネタ系滑稽噺
リズムネタ芸は現在のテレビでよく見かけますが、古典落語にもリズムネタと呼べる演目は存在します。
リズムネタの定義の前に、かいつまんで落語を「上手く口演する」ということと、それを聴いて何を「上手い」と評価するかの関係についてご説明します。
落語は言葉を使う芸ですので、たとえばスラスラしゃべるのと、噛み噛みでしゃべるのとでは聴く側の印象度が天地ほど違います。かといって、早口すぎても聴く側に意味が伝わらないのでよくありません。
心地よいスピードで、イントネーションも明確で、さらに声のトーンの耳あたりがよいのが理想形です。これに落語の場合は「お話の内容」が加わりますから、前記の3つのポイントを上手にこなして「お話の内容」を伝えられる人が、すなわち優れた落語家さんとなるわけです。
以上をふまえまして、「リズムネタとは」です。
名人や達人と呼ばれる落語家さんは、いずれもスピードとイントネーションとトーンが優れていて、聴いていると音楽のBGMのような心地よさを感じられます。
加えて、落語では言葉を繰り返す演目と、息もつかずに言葉を一気に長々としゃべる「言い立て」と呼ばれる部分を含む演目があります。
『日本語ラップ』を想像して頂ければ、共通点が見つかると思いますが、心地よさから派生するリラックス感、そしてそこに盛り込まれる言葉や仕草のちょっとしたギャグが、笑いにつながるのです。
これから紹介する演目でいうと、前者(言葉を繰り返す演目)が『松竹梅』『高砂や』『平林』『紙屑屋』で、後者(「言い立て」と呼ばれる部分を含む演目)には『がまの油』が該当します。
それ以外に、『豊竹屋』は浄瑠璃と三味線の物真似で、浄瑠璃自体にメロディーがあります。
また『小言念仏』『夢八』はお話自体がリズムをきざんでいるので、聴いていてリズムと言葉や仕草が同化する楽しさを感じられます。
他にも三味線や太鼓によるお囃子をBGMにした落語も上方(関西)には数十種類あり、これなどはそのものズバリ、楽器演奏のリズムを使ったネタですが、カテゴリーが増えすぎるため今回は省略しました。
以上のように、聴いて心地よさを感じる落語の種類は多岐にわたり、分類すれば内容は全然違いますが、今回はこれらの演目を「リズムネタ系」ということですべてひとまとめにした次第です。
21.がまの油
~あらすじ~
がまの油を売る男が口上を演じる。怪しい口上ではあるがその口上で大儲けした男は飲み屋でべろべろになる。帰りがけに橋の上で口上を始めるが酔っている為変な口上を演じてしまう・・・
~概要~
元々は『両国八景』という長編落語の後半部分。ちなみに「がまの油」とは江戸時代に売られた傷などに塗る軟膏。「がま」はガマガエルの事だが「がまの油」の主成分はワセリン。
前述(コラム)のように息もつかずに言葉を一気に長々としゃべる「言い立て」が特徴的です。がまの油売りの口上は、笑いとは別に話芸としても聴く価値があります。
▼視聴アプリ・サービス
audible | – | spotify | 〇 | 落語のすゝめ | – |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
22.松竹梅
~あらすじ~
松五郎、梅吉、竹蔵という3人が出入り先(取引先のようなもの)のお店の娘の結婚式に「名前がめでたい」という事で呼ばれた。飲み食いするだけでは失礼だと思い、何かを披露しようと考えるが・・・
~概要~
現・笑点メンバー林家木久扇(はやしや きくおう)も演じる。
謡曲とか、お座敷で結婚式の余興をする生活習慣とか、現代の人には想像しにくいかもしれませんが、時代劇映画のコメディシーンと思って聴いてもらえれば楽しめるかもしれません。「昔の長屋の婚礼はこんな感じだったのか」と想像しつつ。
▼視聴アプリ・サービス
audible | – | spotify | – | 落語のすゝめ | – |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
23.高砂や
24.豊竹屋
25.小言念仏
26.夢八
以下、紹介する『平林』『紙屑屋』(別題『浮かれの屑より』)は同じ言葉を連発しているうちに言葉のリズムが快感になって、それが次第に笑いを生みます。
27.平林
28.紙屑屋(別題:浮かれの屑より)
さらに以下の『野ざらし』のように途中で歌が入る演目を含めれば、リズムネタ系落語は結構な数に及びます。
29.野ざらし
~あらすじ~
夜、八五郎の隣の部屋に住む女性が嫌いな清十郎の部屋から女の声が聞こえてくる。次の日清十郎に問いただしてみると「あれは幽霊だ」と言う。清十郎が言うには川で釣りをしていたところ頭蓋骨が落ちていたため酒をかけたら夜にその頭蓋骨の幽霊が訪ねて来たらしい。八五郎は幽霊でも綺麗な女性ならと川に頭蓋骨を探しにいくがなかなか見つからない・・・
~概要~
別題『手向の酒(たむけのさけ)』、上方落語(関西)では『骨釣り(こつつり)』と呼ばれる。骨釣りは野ざらしを元に構成されており、根本は同じだが少し話が異なる。
▼視聴アプリ・サービス
audible | 〇 | spotify | 〇 | 落語のすゝめ | – |
▼amazon/楽天で視聴(検索結果へ)
amazonで探す 楽天で探す
著者のおすすめ!
Q. リズムネタ系滑稽噺の中で初心者におすすめするとしたらどの演目ですか?
A. 落語初心者に勧めることを考えれば『21.がまの油』でしょうか。
大道芸の口上のすごさと、ストーリー構造のわかりやすさ(後半が前半のパロディになっている)は、初心者にも楽しんでもらえると思います。
▼がまの油を聴く
amazonで探す 楽天で探す
滑稽噺を聴くベストシチュエーション
最後に、ギャグ系落語を聴くにあたって、ベストのシチュエーションをお教えしましょう。
最もオススメなのは、寄席やホールの落語会で、大勢の人と一緒にライブで聴くことです。
生の落語に慣れない人は、始めこそ緊張が勝ってしまいがちですが、それでも生の落語を聴いて他の客と一斉に笑う気持ちよさは、動画サイトを見て一人で笑うのとは比較になりません。
特にリズムネタ系はライブの方が余計に楽しめるはずです。
なぜなら同じリズムに乗るにしても「集中力の度合」が違うのです。
映画や演劇を見る時、小さい画面で見るのと、目の前に広がる大空間を大音量で見るのとでは、見る側の「集中力」に大きな違いが出ます。
落語もそれと同様で、集中力が違えば高揚感も変わりますから、生でリズムとテンポのよいしゃべりを聴くと一層気持ちよくなってくるわけです。
おすすめ落語家【爆笑編】
現役で「爆笑派」と呼ばれる落語家さんを順不同で紹介しますと、まずマシンガン系の横綱格が2019年3月に四代目を襲名した三遊亭円歌(さんゆうてい えんか)師匠(旧名・三遊亭歌之介)。
▼四代目 三遊亭円歌
他にも爆笑派のおすすめ落語家さんは柳家権太楼師匠、三遊亭小遊三師匠、柳家喬太郎師匠、三遊亭白鳥師匠、三遊亭兼好師匠、笑福亭鶴光師匠、笑福亭福笑師匠、桂雀々師匠等々、ここには書き切れないほどいます。
もしあなたの家の近所の市民会館やホールに、ここで挙げた落語家さんが出演する落語会がありましたら、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
以上、笑えるおすすめ落語演目【爆笑編】でした。
次のページでは笑えるおすすめ落語演目【あるある編】を紹介します。
『落語の演目と知識』目次へ (全10ページ)
スポンサーリンク
はじめに
第1章 落語の定番
第2章 とにかく笑える落語演目集
第3章 色んなジャンルの落語演目集
第4章 落語をもっと楽しむ
著者:なかむら治彦
本業は4コマ漫画家兼イラストレーター。学生時代から筋金入りの落語ファン。1998年「第1回新作落語大賞」に落語脚本を投稿し、大賞を受賞。その後は「尾張家はじめ」のペンネームで落語作家兼ライターを副業に。現在、隔月パズル雑誌『漢字道』(イード)で落語4コマを連載中。著書は『落語まんが寄席』(新星出版社)他。
お問い合わせはこちらから