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はじめに
第1章 落語の定番
第2章 とにかく笑える落語演目集
第3章 色んなジャンルの落語演目集
第4章 落語をもっと楽しむ
著者:なかむら治彦
本業は4コマ漫画家兼イラストレーター。学生時代から筋金入りの落語ファン。1998年「第1回新作落語大賞」に落語脚本を投稿し、大賞を受賞。その後は「尾張家はじめ」のペンネームで落語作家兼ライターを副業に。現在、隔月パズル雑誌『漢字道』(イード)で落語4コマを連載中。著書は『落語まんが寄席』(新星出版社)他。
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たとえ落語を聴いた経験が無い人でも、好きなドラマの1本や2本は必ずあることでしょう。
そんな人は落語を「耳で感じて、頭の中で映像を想像するドラマ」と捉えてみてください。グッと親近感が出てくるはずです。
落語にもドラマと同様、いろいろなストーリーが存在します。
このページでは、男女の「恋愛」を扱った落語の数々を、いくつかの項目に分けて紹介してまいりましょう。
目次
若い二人の恋模様が描かれた演目
古典落語の舞台となる江戸や明治の頃、男女の恋愛は今ほどオープンでなくて、恋する異性のことを考えて一人思い悩む若者も多かったようです。
その結果、ノイローゼ状態から鬱に陥り寝込んでしまうことを、昔は「恋わずらい」と呼びました。
落語で恋わずらいがストーリーの発端となる代表的なお話が『崇徳院』(すとくいん)です。
大店の若旦那が花見の名所で出会った娘に一目惚れして、その娘が短冊に百人一首の崇徳院の歌の上の句だけ書いて若旦那に渡すことから始まる、ドラマチックな内容です。
1.崇徳院
この他、恋わずらいが出てくる落語に『紺屋高尾』(こうやたかお)『幾代餅』(いくよもち)『胆潰し』『宇治の柴舟』などがあります。
2.紺屋高尾
3.幾代餅
4.胆潰し
5.宇治の柴舟
その他にこうした若い男女の恋愛がテーマの落語を探すと以下の3つの演目が有名です。
6.宮戸川
7.花見小僧
8.お若伊之助
一方では、奉公に入ったばかりの娘めがけて商家の男連中が夜這いをたくらむ『引っ越しの夢』(別題『口入屋』)や、村一番のマドンナに男が夜這いを仕掛ける『お玉牛』(おたまうし)なんて落語演目もありますが、いずれも失敗に終わるのが落語らしい所です。
9.引っ越しの夢
10.お玉牛
夫婦を描いた落語
落語では若者の恋愛ドラマだけでなく、幅広い年代の恋愛模様が描かれています。
既に紹介した『宮戸川』が10代の若い恋愛ならば、
20代の婚礼の夜を描いたのが『たらちね』、
蜜月の空気感漂う若夫婦を描いたのが『目薬』、
臨月(妊娠後期)の女房が出てくるのが『町内の若い衆』、
倦怠期の夫婦が出てくるのが『堪忍袋』、
女房が亭主を尻に敷く熟年夫婦を描いたのが『鮑のし』…と続きます。
そしてさらに、お互い年を重ねた老夫婦が登場するのも、最初に紹介した『宮戸川』なのです。
若い二人を見ながら自分たちの若き日を思い出す場面では、笑いの中に人生の深さを感じられると思います。
11.たらちね
12.目薬
13.町内の若い衆
14.堪忍袋
15.鮑のし
年代だけではありません。
酒に溺れる亭主を女房の尽力で更生させる『芝浜』
江戸時代、生活に困った夫婦が「蹴転(けころ)」という最下級の女郎屋を始める『お直し』
一度別れた夫婦が子供をキッカケによりを戻す『子別れ』(別題『子は鎹』)
など、様々なシチュエーションの夫婦愛を、落語では扱っているのです。
これらもおすすめですので一度聴いていただければと思います。
16.芝浜
17.お直し
18.子別れ
傾城(けいせい)の恋を描いた落語
※傾城(けいせい)・・・かつては美人のことをこう呼んだ。落語では花魁(おいらん)・遊女のこと。
落語で男女の関係がテーマとなるもう一つの舞台が、遊廓やお茶屋が並ぶ色街(いろまち)。今風に言うと歓楽街(かんらくがい)です。
呼び方は廓(くるわ)・遊里・遊び場・岡場所など演目によっていろいろです。
「傾城の恋はまことの恋ならで 金持ってこいが本の恋なり」
(訳:遊廓の”恋”は本当の”恋”ではなく、お金を持って”来い”が本当の意味である)
と狂歌にもあるように、本来は大人が疑似恋愛を楽しむ場所なのですが、色欲と金銭欲が渦巻く世界だけに、これまた様々な人間ドラマの溜まり場になっています。
こうした場が舞台の落語は「廓噺(くるわばなし)」と呼ばれ、名作も目白押しなのですが、その中から現代にも通じるドラマ性を含んだ演目ということで、先ほども名前の出た『紺屋高尾』を筆頭に、『たちきり』(別題『立ち切れ線香』)、『三枚起請』(さんまいきしょう)、『文違い』、『品川心中』の5作品をおすすめしておきましょう。
いずれも比較的演者の多いポピュラーな演目ですので、どんな恋愛が繰り広げられているか、試しに聴いてみてください。
19.たちきり
20.三枚起請
21.文違い
22.品川心中
こんな恋愛シチュエーションも…
恋愛をテーマにした落語は、まだまだあります。とはいえ全部挙げていくといつまでたっても終わりませんので、ここではジャンルと演目名だけ列挙します。
名前だけでも覚えて、何かの折に聴いてみてください。
・【伴侶の死】がテーマの落語
『三年目』『短命』『樟脳玉』『反魂香』(別題『高尾』)など
・【愛人・妾】がテーマの落語
『三軒長屋』『星野屋』『権助提灯』『権助魚』など
・【ジェラシー】がテーマの落語
『夢の酒』『悋気の独楽』『悋気の火の玉』『汲み立て』など
・【浮気・間男】がテーマの落語
『庖丁』『紙入れ』『風呂敷』『つづら』『駒長』など
名作恋愛落語【新作】
ここまでにご紹介したのは、すべて江戸や明治が舞台の古典落語です。
現代が舞台の新作落語の場合、感動ドラマよりもコメディ色が強くなる傾向が強いため、昭和期に生まれた落語で恋愛ドラマ仕立ての作品はほとんど存在しませんでした。
しかし平成期に入り、落語界全体で新作の創作が盛んになりだしてからは、恋愛ドラマばりに叙情的で感動を招く落語が何本も生まれたのです。
三遊亭円丈・春風亭昇太・柳家喬太郎・三遊亭白鳥・林家彦いち・立川志の輔・桂三枝(六代目桂文枝)・笑福亭仁智などにより新作落語が平成で多く作られ、ブームになった。現在もその下の世代も含めて新作落語の創作は盛んに行われている。
中でも柳家喬太郎師匠が作った『純情日記横浜篇』は、同じバイト先で働く女性をデートに誘えない男性の切ない恋愛模様が描かれた傑作です。
▼柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)
23.純情日記横浜篇
同じく喬太郎師匠の、年老いた男が昔好きだったハワイ在住の女性に会いに行く『ハワイの雪』も、名作の誉れ高い感動ストーリーです。
24.ハワイの雪
ベストシチュエーション
最後に、恋愛ドラマの落語を聴くにあたって、ベストのシチュエーションをお教えしましょう。
恋愛にまつわる落語は、できれば等身大のストーリー楽しみたいものです。自分の年齢と近い登場人物が出てくる落語なら、より一層共感できるはずですから。
特に夫婦の落語の場合、ご自身の年代とリンクする落語から聴くことをお勧めします。もし結婚間もない二人がうっかり倦怠期夫婦の落語など聴いたりしたら、どんよりした気分になりかねません。
そしてもう一点。ドラマ性のあるしっとりとした内容の落語は、なるべく音響の整った会場でじっくり腰を据えて聴きたいものです。
具体的には東京で言えば有楽町の「よみうりホール」、池袋の「東京芸術劇場」、虎ノ門の「ニッショーホール」、小さい所では中野の「なかの芸能小劇場」とか、要は演劇舞台をやる会場ですね。他にも都内および近郊では、数多くのホールが落語公演に使用されています。
逆に音響が整っていない会場というのは、地方の体育館とか、文化会館の和室とか、飲食店など、本来演劇をやる場ではない場所のことです。
ホールでの落語会は事前に演目のタイトルが発表されることが多いので、チケット販売サイトなどを検索すれば見つかる可能性が高いでしょう。できれば2枚購入して、落語デートに使ってみるとよいかもしれません。
▼チケット販売サイトの例
若い二人のデートならば演者さんは達者なベテラン落語家さんよりも、若手~中堅の落語家さんの若々しい声で聴いた方が、より共感できて強く印象に残る気がします。
もちろんベテラン落語家さんの話芸にもベテランならではの技術と妙味がありますけどね。
以上、恋愛が題材になっている落語を紹介しました。
次のページでは聴いているだけでハラハラドキドキする落語を紹介していきます。
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