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はじめに
第1章 落語の定番
第2章 とにかく笑える落語演目集
第3章 色んなジャンルの落語演目集
第4章 落語をもっと楽しむ
著者:なかむら治彦
本業は4コマ漫画家兼イラストレーター。学生時代から筋金入りの落語ファン。1998年「第1回新作落語大賞」に落語脚本を投稿し、大賞を受賞。その後は「尾張家はじめ」のペンネームで落語作家兼ライターを副業に。現在、隔月パズル雑誌『漢字道』(イード)で落語4コマを連載中。著書は『落語まんが寄席』(新星出版社)他。
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「笑いとは感情の共有である」という分析があります。
そんな理屈っぽい表現をしなくても、今なら「あるあるネタ」と言えば伝わりますね。
落語には様々な笑いの要素がありますが、その中で最も生活感があって、ふと家族や友人の行動を頭に思い浮かべて笑ってしまうのが「あるある」の笑いです。
このページでは、数ある滑稽噺(こっけいばなし=笑いの要素が強い落語)の中から「あるある」の要素を含んだ落語の数々を紹介していきましょう。
落語の中に「あるある」を見つけて笑いたい人におすすめです。
目次
お酒と食べ物の「あるある」が登場する落語
落語における「あるある」ネタの代表といえば、お酒や食べ物が出てくる演目でしょう。
美味しそうにお酒を飲んだり何かを食べたりする時のちょっとした仕草を、落語家さんは上手に取り入れて笑いを作り出します。
お酒の出てくる落語は数え切れないほどあって、以下に紹介する代表的な演目『親子酒』『一人酒盛』『猫の災難』『試し酒』などでは、いずれも次第に酔っ払ってゆく登場人物の演技が見せ場になっています。
呂律が回らず、視線も定まらず、しまいには言葉遣いまで変化していき…という、誰もが見たことのあるリアルな酔っ払いの姿を演じて、笑いを提供するのです。
1.親子酒
~あらすじ~
あるところに酒が大好きで、酒癖が悪い親子がいた。ある日息子に向かって父親が「二人で共に酒をやめよう」と申し出た。禁酒を始めた親子だったがある日、父が我慢できず酒を飲んでしまう・・・
~概要~
十代目桂文治が得意とした。
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2.一人酒盛
3.猫の災難
4.試し酒
~あらすじ~
ある店の主人が下人(主人に仕えている人)を連れて他の店に良い酒を持ってきた。そこで「うちの下人は5升もの大量の酒が飲める」と言い放つ。すると「本当かい?じゃあ今本当かどうかここで飲んでみろ。飲めなかったらお前の負けだ」と賭けをすることになり下人は困ってしまう。なぜなら・・・
~概要~
落語の速記者(落語家の話す落語を記録する人)で研究家の今村信雄(いまむら のぶお)氏が昭和初期に作った新作落語で、原話は中国の小ばなし。現在では古典落語のような扱いになっている。
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お酒と同様、食べ物の出てくる落語も「あるある」の宝庫です。
食べる仕草が見せ場の落語演目を6つご紹介します。
5.うどん屋
6.ぜんざい公社
7.時そば
8.ふぐ鍋
9.二番煎じ
10.初天神
11.饅頭怖い
昔、昭和の名人・八代目桂文楽師匠が『明烏(あけがらす)』という落語の中で甘納豆を食べる仕草をすると、あまりにリアルで美味しそうだったため寄席の売店の甘納豆が完売になったという逸話があるそうです。
これなど究極の「あるある」かもしれません。
12.明烏(あけがらす)
日常生活の「あるある」が登場する落語
飲食に限らず、私たちの日常生活のすべてを笑いの対象にするのが落語です。
「日常生活のあるある」というのは、つまり市井(しせい:人が集まっているところ)のどこにでもある光景を描写した落語という意味で、言い換えればノンジャンルということでもあります。
「これぞ落語」というポピュラーでスタンダードな演目が多いと思いますので、落語を基礎中の基礎から知っていきたい人にはおすすめでしょう。
13.小言念仏
14.強情灸
上記2つの演目を聴いていただくと「落語では些細な事柄さえ笑いにする」という事がわかると思います。
以下では日常の風景のあるあるを笑いに変えている落語を6つ紹介します。
15.動物園
~あらすじ~
朝が弱くて力仕事もできない非力な男がいて、仕事が続かず困っていた。そこへその男にぴったりな仕事が舞い込む。朝も遅くていい、人との関わりもない、力仕事もない仕事。喜んで飛びついたがその仕事は・・・
~概要~
古典落語。別題『動物園の虎』『虎の見世物』『ライオン』『ライオンの見世物』。元々は海外で広く伝わるジョークで日本人でなくとも楽しめるので落語家が外国で口演したりすることもある演目。
この落語では虎が檻の中をうろうろする様子を両腕だけで表現する仕草があり、客席からは「動物園の虎の動きにそっくり!」と賞賛の拍手が起きます。
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16.相撲場風景
17.夜店風景
18.浮世風呂
19.くやみ
20.三十石
人間関係の「あるある」が登場する落語
落語のソフトな笑いが日常の行動や風景を描いて「あるある」を見つけることだとすれば、登場人物がぶつかり合って生まれる心理の描写に対して「そんなことあるよねー」と共感して笑うのは落語のハードな笑いと呼べるかもしれません。
日常生活のちょっとした「あるある」というのは、脳内にある自分の過去の見聞・行動記憶の確認で、それらは表層記憶(つまりソフト)にあたります。
対して人間関係の「あるある」というのは、喜怒哀楽の感情が絡みます。脳のより根幹に近い心情的な記憶(つまりハード部分)を思い出し、「この感情、あるある」と共感して湧き出る笑いです。
以前さまぁ~ず(お笑いコンビ)が持ちネタにしていた「悲しいダジャレ」のネタの一つで、
「死んだあの人の形見の椅子に、すわっていーっすか?」
というのがありました。
「椅子」と「いーっす」のダジャレ部分が表層記憶の確認で「ソフト」、これに「死んだあの人の形見の」が付くことで頭に浮かぶ世界がガラリと変わる、これがすなわち心情の確認で「ハード」ということです。
本文ではこうした理屈は省いて、「人間関係のあるある」とごく簡単に表現しました。
人間ドラマが好きな人や、ドキュメンタリー番組が好きな人などは、笑いよりもそういった人間の機微にスポットを当てて進行する筋立ての落語を導入部にしますと、はまるかもしれません。
人間関係の「あるある」を楽しめる落語演目を6つ紹介します。
21.笠碁
~あらすじ~
とある囲碁好きな二人。ある日囲碁の勝負をしようとするが片方が「今日は『待った(=相手に一度やり直してもらう事)』なしだ」と言う。相手も「わかった。なしだ」と言って勝負をするのだがすぐに片方が「今の手、戻してくれねえか」と言い出してしまい、挙句喧嘩になってしまう・・・
~概要~
元々は上方(関西)の演目だったのが江戸(東京)に伝えられた。笑える要素もあるが人情要素も強い噺。
幼馴染みが下手の横好き同士で囲碁をしている最中、「待った」をキッカケに細かい言い合いが始まって喧嘩別れするものの、最後はやはり幼馴染みらしい解決手段を見つけるお話です。おじさんしか出てこないのにストーリーがドラマチックで、聴き終えた後とてもいい気持ちになれます。
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22.締め込み
~あらすじ~
とある家に泥棒が入り込む。衣服を泥棒が風呂敷に詰めていると表から主人が帰ってくる。泥棒は慌てて床下に隠れた。主人が風呂敷に包まれた妻の衣服を見て「あいつは不倫をしようと服を包んでいた」と勘違い。妻が帰ってきて風呂敷を見て「あの人は不倫をしようと私の服を相手に渡そうとしていた」と勘違い・・・
~概要~
上方(関西)と江戸(東京)で後半部分のあらすじが異なる。上方では『盗人の仲裁』という演目名で演じられる。
「夫婦喧嘩って他愛もないことから始まって、こういう発展の仕方をするよねー」という喧嘩あるあるです。
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23.堪忍袋
~あらすじ~
ある喧嘩の絶えない夫婦を見かねた大家さんが中国に伝わる故事を言い聞かせる。その故事では喧嘩をしそうになった男が「水がめ」に向かって叫びたい事を叫ぶ、というもの。そこで夫婦は嫌な事があると「袋」に向かって相手の悪いところを叫んだ。すると気持ちが爽快になる・・・
~概要~
喜劇脚本家の益田太郎冠者氏が作った新作落語。
この演目も喧嘩あるあるなのですが、中で登場するストレス解決策が現代でも通用しそうな内容です。ただし突然やりっ放しの状態で落語が終わるため、聴き終えた時の気持ちは不安感に満ち、『笠碁』とは正反対です。
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24.意地くらべ
25.京の茶漬け
26.長短
あるある系落語を聴くベストシチュエーション
最後に、「あるある」系落語を聴くにあたっての、ベストシチュエーションをお教えしましょう。
やはり「あるある」に付き物の仕草をじっくり堪能するためにも、まずはDVDで高座映像を見てみることがオススメです。
落語を演じる場所の事を指す。客席よりも一段高くなっている事から「高座」と呼ばれている。
演者では、仕草の名手と言われた五代目 柳家小さん(やなぎや こさん)師匠(故人)がオススメで、得意ネタの『うどん屋』『試し酒』『猫の災難』はいずれも絶品です。
また、小さん門下の落語家さんは仕草が上手な人が多いと定評です。
▼五代目 柳家小さん
柳家小三治(やなぎや こさんじ)師匠、柳亭市馬(りゅうてい いちば)師匠、柳家さん喬(やなぎや さんきょう)師匠、孫弟子の柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)師匠、入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)師匠など。
上方(関西)では、日本舞踊が得意だった三代目 桂春団治(かつら はるだんじ)師匠(故人)の仕草がきれいでした。
▼三代目 桂春団治(左)
六代目 笑福亭松鶴(しょうふくてい しょかく)師匠(故人)のお酒の落語も絶品でしたが、残念ながら映像が少ししか残っていません。
▼六代目 笑福亭松鶴(右)
名人の映像で落語を知った後は、ライブの落語に出掛けて自分なりの「仕草名人」を探してみるのもいいかもしれませんね。
以上、とにかく笑える落語【あるある編】でした。
次のページから第3章。第3章では笑える落語以外の様々なジャンルの落語をご紹介していきます。まずは恋愛を題材にした落語を紹介していきます。
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はじめに
第1章 落語の定番
第2章 とにかく笑える落語演目集
第3章 色んなジャンルの落語演目集
第4章 落語をもっと楽しむ
著者:なかむら治彦
本業は4コマ漫画家兼イラストレーター。学生時代から筋金入りの落語ファン。1998年「第1回新作落語大賞」に落語脚本を投稿し、大賞を受賞。その後は「尾張家はじめ」のペンネームで落語作家兼ライターを副業に。現在、隔月パズル雑誌『漢字道』(イード)で落語4コマを連載中。著書は『落語まんが寄席』(新星出版社)他。
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