aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード 【② 渋みとエグみ】

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

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はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

おすすめアルバム

著者:MAKO

1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoの一般的なイメージはおそらく「かわいい」「明るい」「元気」といったものが中心でしょう。ただ、aikoの楽曲に親しんできた一ファンの視点から分析すると、「ラブソング職人aiko」としての魅力は小説的ともいえる「深遠な歌詞世界」の中にこそ表れていると感じます。

この章ではaikoのイメージに対する誤解を解くため、aikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説いたします。

このページでは「渋みとエグみ」というキーワードからaikoの歌詞の世界の魅力を解説します。

 

aikoの歌詞を読み解くキーワード「渋みとエグみ」

 

ラブソング専門であることや小柄な外見のイメージが影響してか、aikoの楽曲は「かわいい」「甘い」といったカテゴリーに分類されがちです。

ところが実は、その歌詞世界はときにシビアで、よい意味で甘くありません。

甘くない」を通り越して「渋み」や「エグみ」を感じることさえあります。

 

 

「渋み」や「エグみ」を感じる秘密はaikoの歌詞の特徴の一つである「物語的な場面展開」にあると言えるでしょう。

具体的に言うと曲の途中でガラリと状況が変わったり、後半で種明かし(伏線を回収)する語りの手法が用いられているのです。

「最後まで聴かないとわからない」、小説のようなaikoの歌詞の魅力についてご紹介します。

 

小説のような歌詞の例① 「二人」

▲aiko「二人」music video short version

 

2008年発売のシングル曲、「二人」の冒頭の歌詞を例に挙げましょう。

 

夢中になる前に 解って良かった
もう一度だけ手が触れた後だったら
きっとダメだっただろう 怖くなってただろう
止まらぬ想いに 止まらぬ想いに

引用:aiko「二人」

 

何が「夢中になる前に 解って良かった」のか、明らかにされないまま歌詞は次のように続きます。

 

隣に座って声を聞いた
何が好きなの?何が嫌いなの?
今 こっちを向いて笑ったの?
あたしに向かって笑ったの?

引用:aiko「二人」

 

サビ以降も、恋に恋するハイテンションな歌詞のオンパレードです。

音楽番組などでこの曲の1番だけを耳にした人は、「甘ったるいラブソングか」「ありがちな片思いの曲なんだろうな」、その程度の感想で終わってしまうかもしれません。

明るい曲調も手伝って、aikoの楽曲は往々にしてそういった「早合点」をされやすい傾向にあります。

ところが2番にさしかかると、さほど甘くない物語の展開が見えてきます。

 

あたしの背中越しに見てた
その目の行き先を 香るあの子の
甘い瞳を見ていたの?
甘い仕草を見ていたの?

引用:aiko「二人」

 

好きな人に好きな人がいたことを知らないまま「あたし」が一人勝手に盛り上がっていた事実が明かされました。

これによって「夢中になる前に解って良かった」という出だしのフレーズの伏線がようやく回収されます。

ここで終わればただの失恋物語なのですが、さらにaikoはたたみかけます。

 

あなたはあたしの時を止めた 帰りの道が見えない

引用:aiko「二人」

 

「あたし」の引き返せない気持ちを綴ることによって、「夢中になる前に 解って良かった」というフレーズとの矛盾を浮き彫りにします。

恋の終わりのエピソードと見せかけて、ここからまた新たな物語が展開しそうな含みがあります。

最後に注目したいのがタイトルの「二人」です。「二人」というキーワードは曲のラスト付近でようやく登場します。

 

一緒に撮った写真の中に夢見る二人は写っていたのね

引用:aiko「二人」

 

「二人」は「あたしとあなた」とも取れますが、「あなたとあの子」を指しているという解釈もできるでしょう。

そう考えると、タイトル自体が大変皮肉な響きをもつようになります。

単純そうに見えた物語に奥行きが生まれ、最後に向かって点と点が線でつなるような感覚を聞き手に与えます。

 

このように、aikoの楽曲は大事なことが後半で語られることが多く、甘いと思っていたシチュエーションが途中からじわじわと渋みやエグみを増してくることがあるのです。

さらにタイトルさえもその渋みを増幅させる役割を担うため、物語の全容がつかめた後に改めてタイトルを見ると、これまでとは異なる余韻を味わえるというおまけもついてきます。

物語が展開するうえで重要な部分(2番の歌詞)が歌番組ではカットされてしまうため、aikoの歌詞にある繊細な物語の魅力が伝わらないまま「ありきたりなラブソング」という判断をされてしまうことが多いのです。

 

小説のような歌詞の例②「気付かれないように」

 

もう1曲ご紹介しましょう。

アルバム『彼女』に収められた「気付かれないように」の冒頭の歌詞です。

シングル曲ではありませんが、ベストアルバム『まとめⅠ』にも収録されています。

 

久しぶりに逢ったあなた 照れ隠しに髪を触った
よみがえってくる思い出が 溢れぬ様に大人ぶって

引用:aiko「気付かれないように」

 

「あなた」と「あたし」の関係はこの段階ではっきりとは描かれません。

わかるのは昔好きだった人に再会した場面らしいということだけです。

さらにタイトルの「気付かれないように」が意味するものさえ、曲の前半では明らかにされません。

再会した「あなた」になかなか近況を聞き出せない「あたし」のじれったい思いが、歌詞の緩やかな展開を通して体感できる一曲です。

種明かしは2番のサビの歌詞にあります。

 

勇気を出して笑って問いかけた 今の事 今の彼女
すごく好きだよと照れて髪を触る 昔のあなたを見た
気付かないように 気付かれないように

引用:aiko「気付かれないように」

 

「今の彼女」というフレーズによって、「あたし」が「昔の彼女」であり「あなた」に対して今も抱いている自分の気持ちに「気付かれないように」していることが明らかになります。

シングル曲「二人」と同様、物語の核心部分を後半に取っておくことで、小説のページを一枚一枚めくるような期待を聞き手に抱かせる効果があります。

こうした特徴を持つaiko作品では、最後に行きつくのはたいてい「甘くない」結末です。

入り口の「甘さ」と中身の「渋さ」「エグさ」とのギャップは、まさに恋愛体験そのものであり、そのリアルさが共感を呼ぶのでしょう。

 

このような小説的な展開はaikoの歌詞世界の主要な特徴の一つですが、テレビやラジオではいまひとつ伝わりにくいのも事実です。

一瞬のフレーズに重要な意味合いが込められているため、ぼんやりと曲を聞いているだけでは気付くことができず、歌詞を見て改めて腑に落ちるという場合が多いでしょう。

しかし一度気付いてしまうとクセになる魅力です。

 

音楽といえばダウンロードが主流となった今も、aikoはCDを出すことに強いこだわりを持っています。

「歌詞カードを見ながら聴く」という昔ながらの楽しみ方が、aikoの作品を堪能するうえで欠かせないものだから、というのもCDにこだわりを持つ理由の一つではないでしょうか。

 

以上、このページでは「渋みとエグみ」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説しました。

次のページではaikoの「普遍的な愛」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説します。

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

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第1章 aikoという「存在」を理解する

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aikoの一般的なイメージはおそらく「かわいい」「明るい」「元気」といったものが中心でしょう。ただ、aikoの楽曲に親しんできた一ファンの視点から分析すると、「ラブソング職人aiko」としての魅力は小説的ともいえる「深遠な歌詞世界」の中にこそ表れていると感じます。

この章ではaikoのイメージに対する誤解を解くため、aikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説いたします。

このページでは恋愛だけじゃない「普遍的な愛」というキーワードからaikoの歌詞の世界の魅力を解説します。

 

aikoの歌詞を読み解くキーワード「普遍的な愛」

 

aikoと言えば「恋愛ソング」というのは誰もが抱くイメージであり、事実その通りです。

しかしそのイメージが行き過ぎると、「恋愛一辺倒」「恋愛の曲しか歌えない」というマイナスな印象を持たれることがあります。

ラブソングは幅広い層の共感を得られるカテゴリーであると同時に、「浮ついている」「軽い」と見られるデメリットもあるからです。

 

しかしこれまでにご紹介した通り、aikoの歌詞の世界はただの浮ついた恋物語ではありません。

しっかりとした重みがあり、物語のような奥行きがあります。

さらに言えば、決して「恋愛一辺倒」というわけでもないのです。

初期の曲こそ、恋愛そのものがテーマになっている作品が大半だったかもしれませんが、その表現方法は彼女が歳を重ねるごとに確実に変化してきています。

恋愛をテーマとしない作品もある、というだけではありません。

たとえ表面上は「恋愛ソング」の形式をとっていても、「普遍的な愛」がテーマとなっている楽曲がいくつも存在します。ここで言う「普遍的な愛」とは、恋愛に限らず家族愛や友情など、大切なもの全てに対して抱く感情と定義しています。

 

 

ここからはまず、「恋愛がテーマではない」aikoの楽曲を例に挙げて、aikoの愛の表現を分析していきましょう。

 

「普遍的な愛」の歌詞の例①「瞳」

 

aikoのアルバム曲の中には必ず「恋愛」というカテゴリーには収まりきらない「愛の曲」があります。

これまでで最も際立っている楽曲は、アルバム曲でありながら、CMにも起用され比較的認知度の高い「瞳」でしょう。

ベストアルバム『まとめⅠ』にも収録されています。以下は冒頭の歌詞です。

 

今頃がんばってるのかそれとも新しい光が
青白い瞳に映ってるのか
間に合うように届けようと遠慮がちに歌います
“Happy Birthday to You”
これから始まる毎日にきっと降り続けるのは
小さくて大きな生きる喜びでしょう

引用:aiko「瞳」

 

「瞳」はaikoが、友人が破水したと聞いたときに出産祝いとして作ったと言われる曲です。

前半部分は明るい祝福の言葉に満ちており、あくまで「赤ちゃんの誕生を祝う」友人の立場から語られています。

ところが、後半に進むにつれて次第に様子が変わってきます。

 

胸や体を引き裂くような別れの日も
いつかは必ず訪れる
そんな時にもきっとあたしがあなたのそばにいる

引用:aiko「瞳」

 

aikoの歌詞の特徴の一つである「死」や「終わり」を意識させるキーワードがここでも登場します。

それと同時に「友人」という語り手の立場が徐々に薄らぎ、より大きな「命を見守る存在」が表れてきます。

 

明日最後を遂げるもの明日始まり築くもの
時が過ぎて花を付けたあなたの小さな心の中に
一体何を残すだろう?

引用:aiko「瞳」

 

一つの出産エピソードから命ある全てのものへ、そしてライフサイクルや命の循環を思わせる表現にまで広がっていきます。

曲の最後は次のような歌詞で締めくくられます。

 

胸を体を頭を心をもがれるような
別れの日も来る
そんな時にもきっと愛する人がそばにいるでしょう

引用:aiko「瞳」

 

この曲は恋愛をテーマとしていないだけでなく、語り手である「あたし」が物語の当事者ですらない特殊な作品です。

言ってみれば、aikoの武器である「恋愛モノ」の枠組みが取り払われています。

これによって、「aikoが曲を通して描きたいもの」がかえって見えやすくなったと言えるでしょう。

「瞳」に描かれているのは「今の幸せ」「終わりへの不安」、そして「不安を乗り越えるほどの大きな愛」です。短く表現すると「大切なもの全てに対する愛」と言えるでしょうか。まさに「カブトムシ」や「シアワセ」で表現されていることと、根底にあるものは同じではないでしょうか。

aikoが多くの楽曲を通じて描こうとしている「大切なもの全てに対する愛」という本質的なテーマは、恋愛という設定があってもなくても、決してぶれることがないようです。

むしろ「恋愛」と「それ以外の愛」を分け隔てなく扱っている、という見方もできます。

「恋愛」というわかりやすいフィルターを通して、伝えたいテーマが繰り返し描かれているのです。この傾向は、aikoが歳を重ねるごとに増しています。

 

「普遍的な愛」の歌詞の例②「ストロー」

▲aiko「ストロー」music video short version 

 

最後に比較的新しいシングル曲「ストロー」の歌詞を見ながら、その特徴を別の角度から確認してみましょう。

 

君にいいことがあるように 今日は赤いストローさしてあげる
君にいいことがあるように あるように あるように
君にいいことがあるように 今日は赤いストローさしてあげる
君にいいことがあるように あるように あるように
初めて手が触れたこの部屋で 何でもないいつもの朝食を
喉を通らなかったこの部屋で パジャマのままでお味噌汁を

引用:aiko「ストロー」

 

ミュージックビデオの演出からもわかるように、この曲の場面設定が「同棲中のカップル」であることは確かなようです。

しかし実際に歌詞全体を見てみると、「初めて手が触れた」という歌詞以外、特別恋愛関係を匂わせるような部分が存在しないのです。

抽象的な表現が多く、二人の関係が恋人同士ではなかったとしてもそれほど違和感なく読めてしまう内容になっています。

それが意識的なものであれ無意識であれ、「恋愛」という設定があくまで形式にすぎないことの表れではないでしょうか。

言い換えれば、この曲において「恋愛」は入り口のとっつきやすさを印象付けるためのもので、本質はそこにないのです。「ストロー」を通して伝えたいことは、執拗に繰り返される「君にいいことがあるように」というフレーズに託されています。

 

こういった「相手の幸せを願う」感情はエゴを越えたものです。

「彼に会いたい」「愛されたい」といった恋愛特有のエゴを離れた、普遍的な愛情こそがこの曲のテーマとなっています。

それはaikoから聞き手に対する願いでもあります。

作り手の内側で完結する「表現」を越え、聞き手への「メッセージ」を存分に含んだ「ストロー」がシングル曲として放たれたことは、aiko史上においても重要な出来事と言えるでしょう。

これがaikoの「変わらない魅力」を支える「深化する歌詞世界」の秘密です。

 

【コラム】シングル「ストロー」がaikoにとって重要な出来事である理由
「ストロー」は恋愛ソングとしての要素よりも、aikoからリスナーへのメッセージ性が強い作品です。こうした作品はアルバム曲にはちらほらありましたが、シングル曲として発表されるのは珍しいことです。これによって「恋愛ソングのaiko」としてのコマーシャル性が最小限に抑えられ、誰もが(恋人に限らず)自分の大切な人を思って聴けるような一曲になっています。あくまで「恋愛ソング」の形式をとっているので「恋愛ソングのaiko」としてのイメージを壊すところまではいきませんが、画期的な出来事だったと思います。

 

入り口の気軽さに対する中身の奥深さのギャップこそ、aiko作品の醍醐味なのです。

「青春真っ只中」の恋愛時代だけでなく、歳を重ねても味わい続けられる魅力があります。

次の章では、そんなaikoの歌詞世界を堪能できるカップリング曲と、おすすめのオリジナルアルバムをご紹介します。

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aikoおすすめの名曲8選 ~隠れた名曲が満載のカップリング編~

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

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ここからは、このWebonを読んで「もっとaikoの曲を聴いてみたい!」と思った方、「aikoはけっこう好きだけど、シングル曲ぐらいしか知らない」という方に向けて、カップリング曲の中からぜひおすすめしたい隠れた名曲をご紹介します。

これまでにご紹介した「哀愁」「渋み・エグみ」「愛」という特徴がそれぞれわかりやすく描かれたものを選んでみました。

 

特徴別!aikoおすすめの名曲8選

切なさがいっぱい~哀愁を感じたいあなたにおすすめ

▼哀愁を感じたいあなたにおすすめの名曲3選

タイトル 収録
恋人 シングル「カブトムシ」1999
アイツを振り向かせる方法 シングル「桜の時」2000
ひまわりになったら シングル「二人」2008

 

3曲ともいわゆる「失恋ソング」です。

「恋人」は別れの場面と未練を丁寧に描き、「ひまわりになったら」は友達から恋人になった二人がまた友達へと戻って行く切なさを歌い上げています。

「アイツを振り向かせる方法」については以下で詳しく取り上げます。

 

ちょっぴり重い歌詞が魅力~渋み・エグみを感じたいあなたにおすすめ

▼渋み・エグミを感じたいあなたにおすすめの名曲3選

タイトル 収録
二時頃 シングル「ナキ・ムシ」1999
アルバム『まとめ Ⅰ』2011
こんぺいとう シングル「スター」2005
アルバム『aikoの詩。』2019
Do you think about me? シングル「戻れない明日」2010
アルバム『aikoの詩。』2019

 

3曲とも恋人に対する恨み言が歌詞になっていますが、aikoマジックにより過剰にドロドロせず、不思議とキュートに聞こえます。そのマジックの秘密については、「こんぺいとう」を例に以下で解説したいと思います。

 

落ち込んだ時元気をくれる~愛を感じたいあなたにおすすめ

▼愛を感じたいあなたにおすすめの名曲2選

タイトル 収録
テレビゲーム シングル「かばん」2004
アルバム『aikoの詩。』2019
未来を拾いに シングル「夢見る隙間」2015
アルバム『aikoの詩。』2019

 

恋愛がメインテーマではありませんが、aikoから聞き手へのメッセージが詰まった愛の曲です。

以下では「テレビゲーム」のみ取り上げますが、どちらも『aikoの詩。』に収録されているのでこの機会にぜひ聴いてみてはいかがでしょうか。

 

おすすめの曲の歌詞解説

 

ここまで紹介したおすすめの名曲のうち3曲を取り上げ、以下で歌詞の解説をさせていただきます。

 

パワフルだけど切ない「アイツを振り向かせる方法」

 

「アイツを振り向かせる方法」は第1章で少し触れましたが、aikoが初めて作詞作曲し、コンテストで披露したという重要な一曲です。

歌い出しのフレーズと元気いっぱいのボーカルは哀愁とは程遠く、非常にポジティブな失恋ソングという第一印象を受けます。

 

今の目標はただひとつ
アイツを振り向かせる事だけ
どしゃぶりの雨の中でアイツにフラれてはや二年
だけども だけれども 今でも心の隅で気になる
(中略)
けどあたしはフラれた身 だけどずっとずっと離れない
好きよ 後悔なんてダイキライ
だからやりたい事やらしてもらうわ

引用:aiko「アイツを振り向かせる方法」

 

ポジティブが過ぎて執着型になっている点が少し怖くはありますが、「この主人公は何が何でも相手を振り向かせる自信があるのだろう」という安心感があり、明るいメロディとともに聞き手を元気に鼓舞してくれます。

ところが歌詞は次のように締めくくられます。

 

本当は素直になりたい だけどなれないなれない 好きだから
(中略)
雨が止んで虹が出た時 きっと
アイツはあたしを思い出す
それまで気長に待つとしようか
十年でも二十年でも 
ずっとずっとずっと待ちましょう

引用:aiko「アイツを振り向かせる方法」

 

「今の目標」というフレーズで始まった歌詞が「十年」や「二十年」という途方もない年月に変わり、「振り向かせる」と息巻いていた語り手が「待ちましょう」と受け身に転じて幕を閉じました。

「五十年」や「百年」ではなく「十年でも二十年でも」というぎりぎり想像のつく範囲内の未来であるところに逆にリアリティがあります。

出だしは底抜けに明るく前向きだった語り手が「素直になれない」と本音を漏らし、結局最後は「待ち」の姿勢に落ち着きます。

「やりたい事やらしてもらうわ」と口では言いながらも、見込みのなさをどこかで理解しているのでしょう。

「前向きに突っ走る女の子」を描いていると見せかけて、むしろ「本当は何もできない女の子」が描かれていることがわかります。

 

「カブトムシ」で今の幸せと未来への不安を行ったり来たりしていたように、「今すぐ振り向かせるぞ!」という意気込みとあきらめの間をさまよいながら、遠すぎる未来に奇跡を祈る控えめな主人公の物語です。

ユーミンの「まちぶせ」の歌詞のような怖さもありますが、自信のなさを匂わせている点で「切なさ」が「怖さ」にやや勝っています。

しかしそんな歌詞もaikoのボーカルに乗せると暗い部分がそぎ落とされ、明るい失恋の応援歌へと姿を変えます。

聴いたときと歌詞を改めて読んだときの印象の違いが楽しめる作品です。

▼「アイツを振り向かせる方法」収録シングル『桜の時』

 

密やかな狂気に満ちた「こんぺいとう」

 

かわいらしいタイトルですが、「こんぺいとう」が意味するものに気付くと曲の印象がガラリと変わります。出だしは次の通りです。

 

白いペンで書いたから あなたはきっと気付かない
光に反射させれば見つかったかもしれない
突然かけてくる電話 こんな時間にどうかした?
いつもふりまわしてくれて どうもさようなら

引用:aiko「こんぺいとう」

 

「白いペンで書いた」という独特の表現が印象的ですが、それ以外は特に変わったところのない、恋の相手に見切りをつけた一場面です。

一体何が「こんぺいとう」なのか?二人の甘かった過去か?涙のことだろうか?と期待しながら聴いていると、次のような歌詞に出会います。

 

一緒に溺れてしまえるのなら それでもいいと思ってたの
悲しみから逃れる為に噛んだ 腕に赤いこんぺいとう

引用:aiko「こんぺいとう」

 

聴いているだけでは意味をつかみにくいですが、改めて歌詞を見てみるとずいぶんと狂気じみた内容であることがわかります。

悲しみを紛らわそうと自分の腕を噛み、その痕がこんぺいとうのようである、と何気なく歌っています。

先ほど、こんぺいとうとは「涙のことだろうか?」と予想しましたが、涙は歌詞の中で「ドロップ」と表現されています。

 

睫毛を通り堕ちるドロップ 唇に触れて味は苦い
忘れられない恋の味よ…

引用:aiko「こんぺいとう」

 

涙を「ドロップ」、傷痕を「こんぺいとう」と呼ぶことで、聞き手の頭の中を甘いアメ玉のイメージでいっぱいにする一方歌詞自体は全く甘くないという歪みがこの作品を楽しむ最大のポイントでしょう。

このようなエグみの強いタイプの曲はaikoのシングル表題曲には選ばれませんが、カップリングやアルバム曲にはさりげなく登場します。

シングル集『aikoの詩。』のDisc.4(カップリング集)に収録されているので、どうぞ味わってみてください。

▼「こんぺいとう」収録アルバム『aikoの詩。』

 

優しさであふれる「テレビゲーム」

 

「テレビゲーム」は「こんぺいとう」同様、『aikoの詩。』に収められています。

 

aikoの楽曲はその大半が「あたし」という一人称で書かれていますが、「テレビゲーム」は「僕」が語り手となる珍しい一曲です。

これによって主人公=aikoという印象が薄れ、ジェンダーレスな雰囲気に仕上がっています。

女性シンガーなら誰でも「僕」を用いれば同様の効果があるかというと、そうでもないでしょう。

「たまに“僕”という言葉を使うとより素直になれる」(2005 ソニー・マガジンズ『aikobon』p396)

とaiko自身も語っているように、普段「あたし」で語ることが当たり前になっているからこそ、まれに「僕」を使用した時の効果が大きいのではないでしょうか。

 

テレビゲームしに来ない? たまにはいいもんだよ
固くなった頭を優しく優しく解いてあげたい
(中略)
風は何も聞いてこないさ 秋の空は虚しいだけじゃない
君がどうすればいいか 多少の試練なんだ
僕はそう思うよ

引用:aiko「テレビゲーム」

 

恋する女性の切迫感を描いた楽曲とは違い、大切な誰かを受け止めようとする優しさに満ちた歌詞が印象的です。

設定は恋人に限らず、また性別も男女に限らず、年齢差も明示されていません。

あらゆる立場の聞き手が「僕」の言葉に身をゆだねリラックスできる、包容力のある作品です。

 

恋愛ソングのイメージに埋もれがちですが、実は「テレビゲーム」に限らずaikoの歌詞は優しさや愛情がベースにあります。

時に重く暗い感情を描いてもそれほど陰湿に聞こえないのは、こうした点も関係しているでしょう。

「テレビゲーム」はいつもの語り手(=あたし)という設定が解除されたことによって、それが一層わかりやすく表現されています。歌詞の後半を見てみましょう。

 

例えば僕を盾にして その大きな道を渡れるなら
裏切られても信じていられる君だからこそ
いいよいいよ

引用:aiko「テレビゲーム」

 

「盾にして」「裏切られても信じて」といったやや重みのあるフレーズを用いて、いわゆる「見返りを求めない愛」を描いています。

これがもし「あたし」によって語られると、いつもの恋愛ソングのイメージがつきまとって重く聞こえてしまうかもしれません。

「僕」が語ることによって、恋に悩むいつもの語り手=あたしのイメージがリセットされ、爽やかな印象だけが残ります。

aikoが「僕」を通して語ることで「素直になれる」のは、この「僕」という一人称の中和作用によるところが大きいでしょう。

 

▼「テレビゲーム」収録アルバム『aikoの詩。』

 

このように、aikoのカップリング曲にはシングル曲以上にユニークな表現が多く見られます。

一見明るくシンプルな曲も、じっくり歌詞を読んでみると意外な仕掛けが隠れているかもしれません。

次のページではおすすめのアルバムをピックアップしました。

さらに深くaikoの歌詞世界へ潜り込みたい方はぜひ参考にしてみてください。

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoおすすめアルバム4選

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

『本当は深いaikoの歌詞 ~コアなファンが語る3つのキーワード~』はこちらから!

はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

おすすめアルバム

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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『本当は深いaikoの歌詞』目次へ  (全8ページ)

 

このページを書いている2019年7月の時点でaikoがこれまでにリリースしたアルバムは計13枚です(ベストアルバムを除く)。

それぞれに特徴がありどれも聴きごたえのある作品ですが、今回のWebonのテーマである歌詞という点に着目して、次の4枚のおすすめアルバムを選びました。

▼歌詞に注目して選んだ!aikoおすすめアルバム4選!

リリース アルバム名
2002年 『秋 そばにいるよ』
2008年 『秘密』
2012年 『時のシルエット』
2016年 『May Dream』

 

陰陽のバランスが絶妙な『秋 そばにいるよ』(2002)

▼アルバム『秋 そばにいるよ』収録曲

曲番号 曲名
1 マント
2 赤いランプ
3 海の終わり
4 陽と陰
5 鳩になりたい
6 おやすみなさい
7 今度までには
8 クローゼット
9 あなたと握手
10 相合傘(汗かきMix)
11 それだけ
12 木星
13 心に乙女

 

アルバム『桜の木の下』『夏服』が大ヒットしたのち、声帯結節という健康上のトラブルも経て、公私ともに落ち着いた時期にリリースされたのがこの4作目『秋 そばにいるよ』です。

そうした状況も関係してか、前2作では「明るく元気なaiko」が全面に押し出されていたのに対し、このアルバムはどちらかというと「陰」の部分を感じやすい作風になっています。

このアルバムはシングル「おやすみなさい」「あなたと握手」「今度までには」の3曲を含みますが、このうち「おやすみなさい」と「今度までには」は別れの歌です。

デビュー曲「あした」からこの時点までのシングル曲を振り返ってみると、「ラブソングのaiko」であるにもかかわらず、実は「おやすみなさい」以前に一度も、明確に別れそのものを歌った曲をシングルとして発表していません。

前作『夏服』までは比較的「陽」に偏ったイメージ戦略がなされていたと言えるでしょう。

『秋 そばにいるよ』はそうした縛りからある程度解放されています。

 

『秋 そばにいるよ』の1曲目を飾る「マント」の歌詞を見てみましょう。

 

夏草に委ねてあたし今を生きる
欲しかったもの手に入れたもの全て放り投げてしまえ
グッバイ

見上げた空を黄色く塗って
あるはずないものを創り出せばいい
傘をマントに綿毛の様にあたしはゆらゆら舞い落ちる

引用:aiko「マント」

 

一応歌詞の中に「あなた」が出てくる箇所もありますが、総じて「あたし」自身の生き方について語られており、「恋愛ソング」という枠には収まりません。

歌詞の内容も潔いので、恋に恋するような「甘さ」を期待して聴き始めると肩透かしを食らうかもしれません。

アルバムを厳かに締めくくるラスト2曲の歌詞にも注目してみましょう。ともに「宇宙」というキーワードが使われています。

 

2人の時間は宇宙の中で言うチリの様なものかもしれない
引用:aiko「木星」

宇宙の隅に生きるあたしの大きな愛は
今日まで最大限に注がれて
引用:aiko「心に乙女」

 

「宇宙」はaikoの歌詞の中でよく用いられる言葉です。

「ボーイフレンド」では次のような表現がありました。

 

テトラポット登っててっぺん先睨んで宇宙に靴飛ばそう
引用:aiko「ボーイフレンド」

 

「ボーイフレンド」における「宇宙」はテンションの高さや愛情の大きさといったポジティブなエネルギーの象徴でした。

一方、「木星」と「心に乙女」では自らの存在の小ささを示すキーワードとしても使われています。

「宇宙」という言葉を通して「ボーイフレンド」で描かれた「陽」の世界を違う角度から捉え直し、補完するような趣があります。

これまでのaikoの明るいイメージを、より多面的で奥深いものに変換しています。

 

前2作(『桜の木の下』『夏服』)ではアルバム本編の後に隠しトラックがあったものの、本編はあくまでヒットしたシングルを中心にアルバムが構成されていました。

『秋 そばにいるよ』は隠しトラックを用いず、アルバム曲によって本編がスッキリと結ばれていることから、アルバム単体としてのテーマ性がより追求されていることもうかがえます。

 

▼アルバム『秋 そばにいるよ』

 

恋から愛に変わる『秘密』(2008)

▼アルバム『秘密』収録曲

曲番号 曲名
1 You & Me both
2 二人
3 学校
4 キョウモハレ
5 横顔
6 秘密
7 ハルとアキ
8 星電話
9 恋道
10 星のない世界
11 シアワセ
12 ウミウサギ
13 約束

 

前ページではaikoが恋だけでなく愛も描いているということをお伝えしてきました。

『秘密』をおすすめアルバムとして選んだ理由は、デビュー当時のaikoの作品は「恋寄り」だったと思いますが、この作品は「恋から愛へ」という微妙な表現の移り変わりを、アルバム全体を通して描いているからです。

明確に分けられるわけではありませんが、『秘密』より前のアルバムはどちらかというと「一過性の恋」に比重が置かれていました。

若者が恋をしては失くす悲しみと、それでもまた新しい恋をする喜びが繰り返し描かれ、まさに「恋したくなる音楽」だったと言えるでしょう。

『秘密』ももちろん様々な「恋」を描いていますが、6曲目の表題曲「秘密」を通過したあたりから、グラデーションのように徐々に恋から愛へと比重が移っていきます。

カギとなるのが10曲目「星のない世界」と11曲目「シアワセ」でしょう。

アルバムの中でシングル曲が続くとそこだけ浮いてしまうことがありますが、この2曲はむしろうまく溶け込み、まるで一連の物語のように「一生ものの愛」の世界を紡いでいます。

 

過去も未来も心の底はいつも一人だと思ってたから
全部我慢してやっと溢れ出した涙に
本当の恋を初めて知った
とても大事な宝物をあたしはやっと手に入れたんだ
引用:aiko「星のない世界」

二人何処かで廻るストーリー 静かに終わりが来たとしても
最後にあなたが浮かんだら それが幸せに思える日なのです
引用:aiko「シアワセ」

 

これが12曲目「ウミウサギ」、そしてラストの「約束」へと違和感のない流れを作り出していきます。

 

汗が首を歩いたゆっくりと 君の言葉にとても驚いて
「ずっと一緒にいようか?」だなんて
君が緊張しながら言うから
引用:aiko「ウミウサギ」

どんな事があっても忘れたりしない
幸せも痛みも永遠の約束
引用:aiko「約束」

 

「全編愛の歌」であっても決して浮つかない理由が、この「一生ものの愛」の表現にあります。

aikoのアルバムはしんみりとした曲で終わるのが常ですが、このアルバムも例外ではありません。

しかし、ただ単にしんみりするだけでなく、最後に温かい気持ちを残してくれます。

 

▼アルバム『秘密』

 

魅力満載の名盤『時のシルエット』(2012)

▼アルバム『時のシルエット』収録曲

曲番号 曲名
1 Aka
2 くちびる
3 白い道
4 ずっと
5 向かいあわせ
6 冷たい嘘
7 運命
8 恋のスーパーボール
9 クラスメイト
10 雨は止む
11 ドレミ
12 ホーム
13 自転車

 

初のベストアルバム『まとめ Ⅰ』『まとめ Ⅱ』(2011)を経て、翌年にリリースされたオリジナルアルバムが『時のシルエット』です。

ある意味、ベストアルバム以上にこれまでの集大成という位置付けにある作品ではないでしょうか。

期待を裏切らず、まさに集大成と呼べる内容になっています。

 

というのも、このWebonで解説してきた歌詞の3要素である「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」全てがまんべんなくバランスよく含まれ、なおかつaikoらしい明るさやかわいらしさも散りばめられているからです。

もしaikoを全く聞いたことがない人にベストアルバム以外で1枚だけおすすめするなら、おそらくこの『時のシルエット』を選ぶでしょう。

それだけ偏りのない、誤解されにくい作品です。

 

1曲目「Aka」とラスト13曲目の「自転車」の歌詞をピックアップしてご紹介します。

 

あなたがあたしの事をどう思っているのか
それはそれは毎日不安です
引用:aiko「Aka」

気持ちは昨日今日毎日変わって行く
明日あなたはあたしの事をどう思っていてくれるだろう
引用:aiko「自転車」

 

意図したわけではなくあくまで偶然とのことですが、どちらの歌詞も同じことを歌っています。

とはいえ、物語の持つ雰囲気は実は対照的です。

「Aka」は歌詞全体を通してみると、不安にさいなまれながらも幸福感に満ちた力強い一曲ですが、「自転車」は喪失について切々と歌ったものです。

幸福の中で幕を開けた物語が喪失で終わるという何とも切ないアルバム構成なのですが、歌詞がリンクすることによって両極端な2つの物語がつながり、聞き手に円環的なイメージを与えます。

数多くの曲を通して繰り返し描かれてきた、「不安と幸せは表裏一体」「始まりと終わりはセットである」というaikoの永遠のテーマをアルバム全体で体現しています。

 

「自転車」というタイトルですが、歌詞の中に「自転車」が登場するのは、やはりaikoらしく曲の終盤です。

実際にはもう見ることのできない自転車について語ることで、失ったものの鮮烈なイメージを呼び起こします。

誰かを失ったことのある人の心にまっすぐ突き刺さるラストシーンです。

その重みと愛おしさは、ぜひ実際に聴いて確かめてみてください。

 

▼アルバム『時のシルエット』

 

愛の意味を問う『May Dream』(2016)

▼アルバム『May Dream』収録曲

曲番号 曲名
1 何時何分
2 あたしの向こう
3 冷凍便
4 もっと
5 信号
6 夢見る隙間
7 愛だけは
8 好き嫌い
9 かけらの心
10 大切な今
11 合図
12 プラマイ
13 蒼い日

 

タイトルが示すように「Dream=夢」がテーマとなっているアルバムですが、通して聞いたときに耳に残るのは頻繁に繰り返される「愛」という言葉です。

そもそもaikoはラブソングライターなので「愛」や「恋」「好き」「愛してる」といったキーワードは多用される傾向にあるのですが、この『May Dream』では相対的に多いという印象を受けます。

言い換えれば、愛の表現が遠回しではなく直球なのです。

 

1曲目「何時何分」のサビ「愛してる愛してる だからね 好きだよ」に始まり、

「愛なんて知らない」(5.信号)と言い放ったかと思えば、

「あなたの愛だけで生きていたい」(6.夢見る隙間)

「変わらないこの愛だけは」(7.愛だけは)と力強く訴え、

時には「愛の形を壊してしまってよ」(11.合図)と攻めてきます。

まるで愛の定義に挑むかのようです。

「あたしの楽しみにしてるラジオ」(3.冷凍便)、

「ピアノの前に座って目をつぶって」(9.かけらの心)のように、aikoの私生活を思わせるようなフレーズもあり、

総じて「素直さ」や「距離の近さ」を感じる作品です。

そういったある種の「過剰さ」とバランスを取るかのように、最後は大きな余白を与える一曲で締めくくられます。

 

少し離れるね 元気でいようね
抱きしめてくれた熱い首に流れる優しいしるし
本当の言葉を2人だけの秘密を楽しい時を
いつかあたしもあなたに話すね あの日何を言いたかったか

また思い出すな 聞こえない 見えない 知らない ふりをただしていたね
一番星はずっと前に気付いてた そしてあたしたちだけを見ていた
いつかあたしに教えてほしい あの日何を願ったのか
引用:aiko「蒼い日」

 

大切な人との別離の歌ですが、二人の関係についてはもちろん、別れの理由も直接的な愛の言葉も語られません。

お互い核心に触れないままいつか再会することを願って離れていく様子が描かれるだけです。

アルバム全体を通して臆することなく「愛」や「恋」や「好き」というキーワードを散りばめてきたところへ、急にぽっかりと余白が生まれます。

「愛」という言葉が一切使われていないからこそ、そこに描かれる愛の形は一人ひとりの想像力にゆだねられます。静かな喪失感と余韻が残るエンディングです。

 

▼アルバム『May Dream』

 

おわりに

 

「歌詞」という観点からaikoの音楽を分析してきましたが、実際に曲を聴いたとき、または歌詞を読んだときに受け手が何を感じるかはそれぞれの自由です。

このWebonでの解釈にとらわれず、「私ならこの部分、もっと明るく感じるよ」という風に、一人ひとりの味わい方を見つけてほしいと思います。

『本当は深いaikoの歌詞』目次へ  (全8ページ)

 

目次著者

はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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本当は深いaikoの歌詞 ~コアなファンが語る3つのキーワード~


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はじめに

aikoに対して「いかにも恋に恋する恋愛ソングばかり」と感じている方も少なくないかもしれません。ただそれはある種の「誤解」なのです。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当て、ファン歴20年の筆者が彼女の歌詞世界の魅力をお伝えします。

実は誤解されているaikoのイメージ ~深淵な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

この章ではaikoのこれまでの軌跡を通してaikoが「誤解される理由」「20周年を越えてもなお愛される理由」をお伝えします。

aikoはなぜ誤解されるのか?
20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

この章ではaikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説します。aikoの楽曲に対する「かわいい」「明るい」「元気」といったイメージが大きく変わことでしょう。

① 哀愁
② 渋みとエグみ
③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

「もっとaikoの曲を聴いてみたい!」と思った方に向けて隠れた名曲を紹介します。

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90年代J-POPヒット曲おすすめ20選 【女性ボーカル編②】

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あなたにとっての“あの頃”はいつですか?著者にとってアツかった時代「90年代」のJ-popヒット曲を生粋の邦楽ファンの著者が分析します!読めば“あの曲”を聴きたくなる事間違いナシ!!

90年代J-popヒット曲入門 ~音楽で振り返る90年代!~(全11ページ)はこちらから!

著者 シン アキコ

30代前半女性。邦楽ファン歴25年。70年代、80年代、90年代の邦楽を愛しています。「歌詞」「曲が生まれた背景」「当時の流行との関連性」などを分析することが好き。

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『90年代J-popヒット曲入門』目次へ  (全11ページ)

 

前ページに引き続き90年代J-POPヒット曲おすすめ20選【女性ボーカル編】をお伝えします。

 

⑥ アジアの純真(PUFFY) ~90年代に吹き込んだ新しい風~

リリース年月 1996年5月13日
オリコン 週間3位/1996年度年間15位
収録アルバム 「amiyumi」
「The Very Best of Puffy/amiyumi jet fever」
「Hit&Fun」
キリンビバレッジ「天然育ち」CMソング。オリコンカラオケチャートで12週連続1位。発売から20年後の第67回NHK紅白歌合戦にこの楽曲で初登場した。

 

北京ベルリンダブリンリベリア
束になって輪になって
イランアフガン聴かせてバラライカ

美人アリランガムランラザニア
マウスだって キーになって
気分イレブンアクセス試そうか

引用:PUFFY「アジアの純真」作詞 井上陽水/作曲 奥田民生

 

小学校高学年の時に初めて「アジアの純真」を聴いたとき、正直言って「J-POPはここまで来てしまったか…」と少しがっかりとした気持ちになったことを覚えています。(生意気な子供ですね(笑))

美しい言葉が伝わるからこそ邦楽に魅力を感じていたので、これならばいっそ洋楽のほうが意味が解る…そんな風に思いました。

 

しかし。

クレジットを見て驚きました。井上陽水×奥田民生という、邦楽プロフェッショナルによるタッグとは。

井上陽水が作ったから、奥田民生が作ったから良い・悪いではない。

数多の名作を世に生み出してきた人たちも、常に変化をし続けている。

そこに感銘を受けました。

 

チャレンジャーがいなければ、エンターテイメントは変わらないのでしょう。

変わらないままを求めるのが人間でもあります。しかし変わらないままでは、いずれ出会うかもしれない宝物はいつまでも埋まったままです。

今でも、歌詞がわかるか、良いかと問われると答えが見つかりません。

しかし、この曲と出会ってから、私は音楽に対し柔軟に向き合えるようになった気がします。

意味があるとかないとか、伝わる伝わらないとかが大切なのではなく、いいものはいいしおもしろいものはおもしろい。その逆もまた然り。

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90年代J-POPヒット曲おすすめ20選 【男性ボーカル編②】

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前ページに引き続き90年代J-POPのおすすめの名曲【男性ボーカル編】を紹介いたします。

 

⑥ 言えないよ(郷ひろみ) ~バラード3部作!カラオケブームを彩った名曲~

リリース年月 1994年5月1日
オリコン 週間27位
収録アルバム 「THE GREATEST HITS OF HIROMI GO VOL.2 -Ballads-」
 TBS系ドラマ「お見合いの達人」主題歌。フジテレビ系バラエイティ「上岡龍太郎にはダマされないぞ!」エンディングテーマ。オリコン100位以内には39週もランクされ、郷ひろみの最高記録となる。

 

90年代の売上トップ50にこそ入っていないものの、90年代のカラオケブームを彩り、多くの人に歌われた名曲です。

郷ひろみが1992年~1995年の間にリリースした「僕がどんなに君を好きか、君は知らない(1993)」「言えないよ(1994)」「逢いたくてしかたがない(1995)」はバラード3部作と言われています。

90年代は郷ひろみや長渕剛、松田聖子など80年代やその前から活躍していた歌手も、全盛期ほどではないにしろ、いくつものヒット曲を発表し、チャートに名を連ねていた時代でした。

 

「言えないよ」はラブソングの帝王(私がそう呼んでいるだけ)康珍化作詞の名曲。

康珍化作のラブソングといえば他にも「悲しい色やね~OSAKA BAY BLUES(上田正樹)」「全部だきしめて(KinKi Kids)」「君だけに(少年隊)」「桃色吐息(高橋真梨子)」などが有名。

一方で「ギザギザハートの子守歌(チェッカーズ)」「渚のはいから人魚(小泉今日子)」などキャッチーでコミカルな歌詞も多数手がけています。

30代という、男性が最も魅力をまとうと言っても過言ではない時期。その時期の郷ひろみが歌い上げたバラード3部作のうちの1曲「言えないよ」。

 

言えないよ 好きだなんて 誰よりもきみが近すぎて

引用:郷ひろみ「言えないよ」作詞作曲 康珍化、都志見隆

 

そんな「言えない」想いを歌う。

大切な存在であるからこそ簡単には言えない気持ち。それでももう打ち明けずにはいられない、今にもあふれそうな感情を歌詞にも、歌声にも感じます。

郷ひろみがなぜこれほど長く女性ファンに愛されているのか、この曲を聴いて以降わかるようになりました。

ぜひ一度は聴いていただきたい、珠玉のバラードです。

▼「言えないよ」収録アルバム(リンク先で試聴可能)

 

⑦ もう恋なんてしない(槇原敬之) ~20年以上経っても共感され続ける究極の失恋ソング~

リリース年月 1992年5月25日
オリコン 週間2位/1992年度年間7位
収録アルバム 「君は僕の宝物」
「10.Y.O.~THE ANNIVERSARY COLLECTION~」
「EARLY 7 ALBUMS」
 日本テレビ系ドラマ「子供が寝たあとで」の主題歌。売上総数約140万枚でミリオン達成。

 

発売から20年以上経ったいまも、共感され続ける究極の失恋ソング。

槇原敬之の歌詞の魅力は“具体性”にあります。

 

紅茶のありかがわからない、いつもより眺めがいい左…

引用:槇原敬之「もう恋なんてしない」作詞作曲 槇原敬之

 

「君」がいなくなった喪失感を、具体的なエピソードをもって語ることで「いない」という世界にリスナーをぐっとひきつけます。

 

もし君に1つだけ 強がりを言えるのなら
もう恋なんてしないなんて 言わないよ 絶対

引用:槇原敬之「もう恋なんてしない」作詞作曲 槇原敬之

 

1番ではこう歌っている主人公。「もう恋なんてしないなんて言わない」のは、強がりだといいます。しかし2番以降、彼は身の回りを片付け前に進もうとし始める。

 

こんなにいっぱいの君のぬけがら集めて
ムダなものに囲まれて 暮らすのも幸せと知った

引用:槇原敬之「もう恋なんてしない」作詞作曲 槇原敬之

 

強がりなんてもうかけらもない、情けないほどに正直な、寂しさや喪失感を抱える男。そして終盤には彼女のことを心配できるまでに落ち着いた心、自分自身もちゃんと次の恋に進もうという決心が見て取れます。

 

本当に 本当に 君が大好きだったから
もう恋なんてしないなんて 言わないよ 絶対

引用:槇原敬之「もう恋なんてしない」作詞作曲 槇原敬之

 

「もう恋なんてしないなんて言わない」理由が、曲のはじめと終わりでは異なることにお気づきでしょうか。

強がりで言っているのではなく、恋っていいものだったから、それを君が教えてくれたから、だからもう恋なんてしないなんて言わない。

失恋ソングでありながら、最後には前向きな気持ちを残す。恋を失った人ならだれもが共感できる。誰もが求めたい言葉を歌う、まさに名曲です。

もし「もう恋なんてしない」とふさぎ込み、悲しみに暮れる曲であったなら、ここまでのヒットはなかったのではないでしょうか。

▼「もう恋なんてしない」(期間限定無料聴き放題有)

 

⑧ 田園(玉置浩二) ~本人主演のドラマ主題歌、苦しみの底で作った名曲~

リリース年月 1996年7月21日
オリコン 週間2位/1996年度年間25位
収録アルバム 「CAFE JAPAN」
「田園 KOJI TAMAKI BEST」
 フジテレビ系木曜劇場「コーチ」主題歌。ソロでは初のオリコントップ3入りを果たし、92万枚を売り上げる最大のヒット曲となる。

 

「田園」のPV(玉置浩二が麦わら帽子をかぶってギターを弾いている)は印象的でした。

ランキングが入れ替わりやすい現在と異なりロングセラー(飽きられない、徐々に人気が出る)であったため、歌番組のランキングで何度も何度も目にしました。

 

玉置浩二の歌唱力は天性のもの。

「曲は毎日作れる」という、身体中が音楽でできているような人。

歌うように話し、話すように歌う。彼の歌は、満員のホールにおいても“たった一人”に届くような、そんな歌だと思います。

彼が苦しみの底にいたときに作ったというこの「田園」。

 

生きていくんだ それでいいんだ ビルに飲み込まれ 街にはじかれて
それでもこの手を離さないで
僕がいるんだ みんないるんだ
愛はここにある 君はどこへも行けない

引用:玉置浩二「田園」作詞 玉置浩二・須藤晃 作曲 玉置浩二

 

何度も繰り返される「生きていくんだ それでいいんだ」という強い言葉。誰かを励ましているようであり、自分に言い聞かせているようでもあります。

そして彼がこの曲においてもっとも伝えたかったことがまさに「生きていくんだ それでいいんだ」であるといつか話していました。

 

私は個人的に、熱く励ますような曲や言葉はあまり好みません。「生きろ」だとか「がんばれ」だとか、うすっぺらい言葉を簡単に言われるのも好きではない。

ただ、玉置浩二の曲には、彼の抱える弱さや葛藤を感じます。先ほど述べたように、彼が自分自身に言い聞かせているような言葉。

でも「田園」を歌う彼はいつも笑顔です。「生きていくんだ それでいいんだ」と決めた彼が、少年のような顔でギターを鳴らし、楽しそうに歌う姿は、どんな言葉にも変えられない勇気であり希望。

あとは聴いてください。

玉置浩二の曲は私がごちゃごちゃと語るよりも一聴にしかず。

▼「田園」(期間限定無料聴き放題有)

 

【コラム】玉置浩二は最も生で歌声を聴きたいアーティスト

「玉置浩二」は私が、いま最も生でその歌声を聴きたいアーティストです。 近年になってその歌唱力が再評価されはじめていますが、表現力に優れとてつもなく歌がうまい人だと思います。

個人的な話になりますが、近年、ある程度年齢を重ねたアーティストは「見たいと思ったときに見ておく」と決めており(西城秀樹さんの急逝でそう思いました)、玉置浩二も還暦ということで「今最も見ておきたい人」(見逃すと後悔する人)と思っております。

 

⑨ BELOVED(GLAY) ~GLAYの時代のはじまりを告げた青春ソング~

リリース年月 1996年8月7日
オリコン 週間3位/1996年度年間31位
収録アルバム 「BELOVED」
「BEAT out!」
「-Ballad Best Singles- WHITE ROAD」
 TBS系ドラマ「ひと夏のプロポーズ」主題歌。GLAY初のドラマ主題歌。80万枚を超える大ヒット。

 

90年代後半はGLAYの時代であったといっても過言ではありません。

そんなGLAYの時代のはじまりを告げたのが「BELOVED」この曲ではないかと思っております。

 

全員がソングライターであるGLAYですが、90年代発表のシングル曲はリーダーであるTAKUROによるもの。

「グロリアス(1996)」「BELOVED(1996)」「SOUL LOVE(1998)」を、私はGLAY青春三部作と勝手に銘打っています。

 

やがて来るそれぞれの交差点を 迷いの中 立ち止まるけど
それでも人はまた歩き出す

引用:GLAY「BELOVED」作詞作曲 TAKURO

 

やけに青くさい、どこか堅さのある歌詞が少しむずがゆく、それがとんでもなく魅力的。

歌詞だけを見れば70年代フォークにも通ずるような、友情やイノセンス、青春の葛藤、岐路、離別、一途な愛…TAKUROの言葉を借りれば「忘れていた大切な何か」が綴られています。

ゴリゴリのロックテイスト曲でも、どこかマジメで正しいTAKURO節。

私は好きです。

そして彼がつづった美しいメロディに、HISASHIが尖りのあるリフ(繰り返し演奏される印象的なフレーズ)を乗せ、ロックンローラーJIROのベースが主張する。イントロやアウトロ(楽曲の終わり部分)まで口ずさめるような、印象深いリフの数々もGLAYの魅力です。

TERUの声の魅力は…語るまでもありませんよね。

 

当時のシングル曲はとくに正統派ロックではなかったかもしれないし、ボップスに分類する人もいると思います。しかし、ここまでくればもはや「GLAY」というジャンルと言えるでしょう。

なお「SOUL LOVE」を聴くときはぜひMVを見ていただきたいです。さらにGLAYを好きになること間違いなしです。

▼GLAY「SOUL LOVE」MV

 

【コラム】正統派ロックとGLAY

正統派ロックをざっくりと説明するならば、

◆エレクトリックギター、ベース、ドラムで構成
◆反社会的、反倫理的側面をもつ。あるいはそういったメッセージをかかげる

一方当時のGLAYのシングル曲は

◆美しいビジュアルにこだわる(いわば“ビジュアル系”と見なされていた)
◆かといってゴリゴリのビジュアル系には走らない独自のスタイル
◆日本語主体、柔和で詩的な歌詞(女性を“あなた”と表現するのも珍しい)
◆リズムギターにはときにアコースティックギターを使用
◆メロ〜分かりやすいサビ、という、むしろポップスといえる曲構成

ロックテイストを持ちつつも正統派ロックとはどこか一線を画すオンリーワンのバンドであったと思います。

 

⑩ ever free(hide with Spread Beaver) ~hideが遺した繊細な世界~

リリース年月 1998年5月27日
オリコン 週間1位/1998年6月度1位/1998年度年間23位
収録アルバム 「Ja,Zoo」
「hide BEST 〜PSYCHOMMUNITY〜」
「hide SINGLES 〜Junk Story〜」
「We Love hide 〜The Best in The World〜」
 hideが生前に完成させていた最後のシングル。CX系「ごごいち」のオープニングテーマ。

 

98年5月に33歳という若さで急逝したX JAPANのギタリストのhide。

彼はもともと楽しみの一環として、バンド時代からソロ活動を行っていました。

97年12月31日のラストライブをもってX JAPANは解散。

翌年1月1日から本格始動したソロプロジェクト「hide with Spread Beaver」で、彼は音楽を発信し続けました。これからの予定も「秒刻みで決まっている」と嬉しそうに話していたhide。

没後、予定通りに発売された「ピンクスパイダー」「ever free」。

私はこの「ever free」が大好きです。

「ROCKET DIVE」には「若いうちは失敗をおそれずにどんどん世界へ飛び出していこう」

▼「ROCKET DIVE」MV

 

「ピンクスパイダー」には「飛び出した世の中はそんなに甘くはない」

▼「ピンクスパイダー」MV

 

「ever free」には「それでも人生は何度だってやり直せる、可能性を信じて生きていこう」というメッセージが込められているそう。

hideの曲には、彼の人間らしい弱さと、ほんの少しの切なさと、寄り添うような優しさを感じます。派手な風貌で、自由に暴れまわっていたhide。

その優しい人柄は多くの人が知るところでした。

彼が紡ぎ、遺した繊細な世界は、誰にも汚されないものとして、これからも残っていくと思います。

 

デタラメと呼ばれた君の夢の 続きはまだ胸の中で震えてる

引用:hide with Spread Beaver「ever free」作詞作曲 hide

 

hideが描いていたデタラメな夢、もっともっと見せてほしかったですね。

 

以上、90年代J-POPヒット曲おすすめ20選【男性ボーカル編】でした。

続いては【女性ボーカル編】です。

 

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著者 シン アキコ

30代前半女性。邦楽ファン歴25年。70年代、80年代、90年代の邦楽を愛しています。「歌詞」「曲が生まれた背景」「当時の流行との関連性」などを分析することが好き。

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小室哲哉はなぜ天才と呼ばれたのか? 【90年代邦楽のヒットメーカー解説①】

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あなたにとっての“あの頃”はいつですか?著者にとってアツかった時代「90年代」のJ-popヒット曲を生粋の邦楽ファンの著者が分析します!読めば“あの曲”を聴きたくなる事間違いナシ!!

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この章では90年代邦楽のヒットメーカーである【小室哲哉】【つんく♂】【織田哲郎】の3人にスポットライトを当てて、当時のJ-POP界がどのようなものだったかをお伝えします。

このページでは90年代のヒットメーカーのひとりとして「小室哲哉」を紹介。

彼のプロデュース作品に着目し、2つの作品(いずれもヒット作)を例に「小室哲哉はどうスゴイのか」を伝えてまいります。

私自身、とくに90年代後半のTKブームはありありと覚えているため、そういった熱量が伝われば幸いです。

 

小室哲哉の基本情報 ~概要とヒット曲の例~


By Norio NAKAYAMAFlickr: MTV VMAJ 2014, CC 表示-継承 2.0, Link 

名前 小室哲哉(こむろ てつや)
生年月日 1958年11月27日
出身地 東京都
デビュー TM NETWORKとして1984年に「金曜日のライオン」でデビュー
1983年にTM NETWORKを結成。代表曲は「Get Wild」(売上22万枚、1987年オリコン年間22位)1993年に手掛けたtrfがきっかけでプロデューサーとしてブレイクする。その後「篠原涼子」「globe」「華原朋美」「安室奈美恵」などを手掛け、多くの曲がミリオンセラーとなる。小室哲哉が楽曲を提供した歌手は「小室ファミリー」など称された。

▼TM NETWORK「Get Wild」

▼90年代小室哲哉が手がけたヒット曲例

リリース年月 アーティスト「曲名」 備考
1993年2月 trf「EZ DO DANCE」 79万枚。『シーブリーズ ’93』CMソング。
1994年7月 篠原涼子 with t.komuro「恋しさと せつなさと 心強さと」 累計売上は202.1万枚。同曲で紅白歌合戦に出場。
1995年10月 華原朋美「I BELIEVE」 華原朋美大ブレイクのきっかけとなった曲。100万枚突破。
1995年12月 安室奈美恵「Chase the chance」 100万枚突破。日本テレビ土曜ドラマ「ザ・シェフ」の主題歌。
1996年1月 globe「DEPARTURES」 228.8万枚。globe最大のヒット曲。
1996年3月 華原朋美「I’m Proud」 「I BELIEVE」に続いて、2作連続でミリオンセヒット。
1996年3月 安室奈美恵「Don’t wanna cry」 100万枚突破。同年12月に安室奈美恵を真似を女性を指す「アムラー」が流行語大賞に選出。
1997年1月 globe「FACE」 フジテレビ系木曜劇場「彼女たちの結婚」主題歌。ミリオンヒット。
1997年2月 安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」 累計出荷枚数229.6万枚。オリコン歴代女性シングル売上1位となる。結婚式の定番曲となる。

▼TRF「EZ DO DANCE」

▼安室奈美恵「CAN YOU CELEBRATE?」

 

小室哲哉の功績

 

もしも90年代の日本に“小室哲哉”の存在がなければ、J-POPはまるで違う道をたどったかもしれません。それほど、小室哲哉が日本の音楽業界に残した功績はとてつもなく大きいものだと思っています。

 

彼は、私たちの知らなかった世界を運んできた人。

知らなかった文化の種をまき、知らなかった景色を「ほらね」と見せてみた人。

昨日まで知らなかったものを今日の“当たり前”にした人。

私は彼を、そう認識しています。

彼がいなければ知ることのなかった音楽、生まれなかった音楽がたくさんあったかもしれないと気づくたび、やはり彼は天才なのだと感じます。

 

当時まだ日本にはなじみがなかったダンスミュージックやR&B、ブラックミュージックを持ち込み、シンセサイザーをはじめとした電子機材を多用した彼の音楽。

当時の“大人たち”からは

「日本の音楽の良さがなくなった」
「あれは音楽じゃない」

といった声が聞かれることもありました。

しかし、若者からの支持は絶大。

 

90年代後半には、小室サウンドはJ-POPのマジョリティとなっていきます。

新たな文化や新たな風を吹き込みながらも、彼の音楽には「日本人に愛されるアレンジ」「日本人が好むメロディライン」がありました。

特に90年代の曲には「分かりやすいサビ」「繰り返すフレーズ」「口ずさみやすく、響きを重視した和製英語の多用」といった工夫が隠されています。

独りよがりではなく、大衆に向けた音楽。

それが小室サウンドの根底であると思います。だからこそ街じゅうに小室サウンドが流れ、TVやCMで使用され、カラオケで歌われた。そして、20年以上の時を経た今も愛され続けているのでしょう。

 

プロデュース能力と歌詞の魅力

 

彼の才能において作詞作曲の技術はもちろんのこと、特筆すべきはそのプロデュース能力。

タイトルを「小室哲哉」としていながら、このページでは彼のプロデュース作品の話が主になりますが“作品”こそ彼の代名詞的存在という敬意をこめて。

あえてプロデュース作品の話をしたいと思います。誰に、どのような曲を、どのような言葉を歌わせると“良い”のか。

そのメッセージを誰に向けるのか。どの世代にヒットするのか。彼はそういった選定能力に非常に長けた人であると思います。

 

また、彼の書く歌詞も注目していただきたい魅力のひとつ。

共感される歌詞というのは、普遍的なテーマ(愛とは、平和とは、等)を扱っているか、あるいは一人称で語られるものがほとんど。

しかし彼の歌詞は、そのどちらとも当てはまらないことが多くあります。また、一人称にしてみたって、それは彼の言葉でもなく、シンガーの言葉でもない。

この世界にいる“誰か”の代弁。

“誰か”のストーリー。

日本は何を求めているのか?若者は?女子高生は?渋谷でたたずむひとりの女の子は?

 

【コラム】“誰か”のストーリーの例

「女子高生」=「Body feel EXIT」「Don’t wanna cry」など休養前の安室奈美恵の楽曲には女子高生世代の感情を投影しているように感じます。「渋谷でたたずむひとりの女の子」=「FACE(globe)」「Hate tell a lie(華原朋美)」「I’m Proud(華原朋美)」は華原朋美、globeの楽曲に多いイメージです。また「いろんな顔と心って世界じゅうに溢れているね 敵味方に分かれ 殺し合いをしているね」(安室奈美恵「Don’t wanna cry」)「世紀末の10年いろいろあるよね 君は未来へとどう伝えていくんだろう?」(TK presents こねっと「you are the one」)など、不意に大きな視点で物事を語るというのは、小室氏の作品にはよく見る手法だと思います。

 

焦点をどこに絞っても照準が合うような、それでいて“たったひとり”に向けてもいるような、彼の歌詞の世界には不思議な奥行きと共感性がある。

若者に支持されたのはこの点も大きいと思います。

小室氏が紡ぐ言葉、シンガーが歌うストーリーは“私の物語”。

そう思わせることのできる、非常によく考えられた歌詞であると思います。

 

小室哲哉の作品

 

ここまでは小室氏の功績などについてお伝えしてきましたが、以下では2つの作品(いずれもヒット作)を例に「小室哲哉はどうスゴイのか」をお伝えいたします。

 

WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント(H jungle with T)

 

「この曲知ってる?」と誰かに尋ねたとします。

おそらく大概の人は「Hey Hey Hey 時には起こせよムーヴメント がっかりさせない期待に応えて…」と歌うでしょう。

それがこの楽曲のおもしろいところ。

実はその歌詞、そのメロディは、楽曲中にたった1度しか登場しないのです。

それほどこのフレーズがキャッチ―で、印象を残したということ。

 

プロデュースのきっかけとなった番組タイトルである「Hey Hey Hey」というワード、楽曲サブタイトルが組み込まれた部分をきっちりと、一番歌われるフレーズにする。

まさに技ありといったところでしょう。

もちろんCM等の露出でこの部分が多く使用されたということもあるでしょうが、それも込みで彼の戦略なのかもしれませんね。

「待ってました」というタイミングで、聴きたいフレーズ・耳に残るフレーズを持ってくるところに小室氏のセンス、高い技術を感じます。

 

この曲の魅力は“等身大”。

仕事帰りの疲れた身体で電車かバスかに揺られ、日々の多忙と虚しさに追われながら、学生のころに戻りたいとふと考えたりする。そんなどこにでもいる男がこの曲の主人公。

 

流れる景色を必ず毎晩みている 家に帰ったらひたすら眠るだけだから
ほんのひとときでも 自分がどれだけやったか 窓に映ってる素顔を誉めろ

引用:「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント」H Jungle with t 作詞作曲小室哲哉

 

私自身、学生時代にはこの曲を「ノリの良い曲」程度にしか感じていませんでした。

でも大人になり、仕事をし、毎日くたくたの身体でどうにか家に帰る、そんな生活を送っていたある日の仕事帰り。

バスに揺られながら、ふいにこの曲、このフレーズが耳に飛び込んできました。

涙が出そうになりました。

疲れて、疲れ果てて、それでも明日も頑張らなくてはならなくて、明日頑張るためだけに今日を生きて今夜を眠る。

そんな日々の繰り返しの中にいた当時の私には、心にぐっと突き刺さるものがありました。

そしてこのフレーズを小室哲哉が書くということに、彼のすごさを感じるのです。

 

彼は当時すでにヒットメーカー。時代の頂点にいたと言っても過言ではありません。

それまでにも、TM NETWORKの活動や他アーティストへの楽曲提供などを含め、早くからエンタメ業界で活躍してきた小室氏。

私たちとは異なる世界を生きてきた彼が、なぜこれほどまで共感できる歌詞を書けるのか。

 

彼にも同じように、疲れて苦しくてたまらない日があったかもしれない。

けれど満員のバスや電車に揺られることはきっとなかったでしょう。

どれほどの想像力をもってすれば、こんな歌詞が書けるのでしょうか。

それが、私にとってまだまだ底知れない小室哲哉の魅力なのです。

 

SWEET 19 BLUES(安室奈美恵)

▲「SWEET 19 BLUES」MV

 

「SWEET 19 BLUES」を聴くと、当時まさに19歳だった安室ちゃん(愛着を込めこう呼ばせていただきます)が泣きながら歌っているシーンを思い出します。

 

世の中かっこつけてて それよりかっこよくなきゃいけない もし飛び出るんだったら…

昨日はあの子が私の 明日は私があの子の 傷をいやして

SWEET SWEET 19 BLUES だけど私もほんとはすごくないから
SWEET SWEET 19 BLUES 誰も見たことのない顔 誰かに見せるかもしれない

引用:『SWEET 19 BLUES』安室奈美恵/作詞作曲TETSUYA KOMURO

 

当時の女の子がみな憧れた長い茶髪をかきあげ涙をごまかしながら、それでもこらえきれずこのフレーズでついにこぼれ落ちた涙。

若者の最先端、憧れ…とはいえ、いま思えばまだ19歳の女の子。

どれほどのプレッシャーがその小さな身体にのしかかっていたでしょう。

 

「今どきの若いモンは」という言葉は、いつの時代にも聞かれますよね。

安室ちゃんが活躍した90年代後半にも、例にもれずその言葉が飛び交いました。

たしかに少し、荒んでいた時代だったかもしれません。

長引く不況や、凄惨さを増す少年事件の数々、もしかしたら訪れるかもしれない世界の終わりへの言い知れぬ不安。

不安や不満でざわついていた当時の日本で「若者」のシンボルであった安室ちゃん。きっと、良いことばかりではなかったかもしれません。

 

安室ちゃん自身も当時、

「なんで小室さんは私のことがわかるんだろうと思った」と語っていました。

もともとR&Bが好きだった彼女にこの曲を贈っているという点も、小室氏の才能であり優しさであるような気がします。

当時はまだ、ブラックミュージックやブルースが邦楽ヒットチャートにのぼることはめずらしい時代。

「SWEET 19 BLUES」は、小室氏も語るように日本人にとって心地よいブラックテイスト。

若者の憧れである安室奈美恵が歌うことによって、幅広い世代に受け入れられました。

 

ここまで語っておきながらも、私が小室哲哉の熱狂的ファンでとても詳しいかといえばそうでもないのです。

ここに書いたことはあくまで主観であり、私はファン未満のいちリスナーにすぎません。

ただ、私の青春である90年代に小室哲哉がいてくれたことはこの上なく嬉しい奇跡。

彼の楽曲がいまも私の人生を彩り続けてくれていることは、まぎれもない真実なのです。

 

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つんく♂は何がすごかったのか? 【90年代邦楽のヒットメーカー解説②】

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この章では90年代邦楽のヒットメーカーである【小室哲哉】【つんく♂】【織田哲郎】の3人にスポットライトを当てて、当時のJ-POP界がどのようなものだったかをお伝えします。

ある時は人気バンドのボーカリスト、ある時は女性シンガーのプロデューサーという2つの顔をもち、その両方で大成功をおさめたつんく♂。

記録にも記憶にも残る人物、そしてヒットメーカーとして、90年代のJ-POPを語る上で欠かせない人物のひとりです。

このページではつんく♂の魅力をお伝えする中で「シャ乱Qがなぜ人気を得たのか」「ボーカリストつんく♂の魅力」「つんく♂の作詞の魅力と特徴」という点にも迫りたいと思います。

 

つんく♂の基本情報

名前 つんく♂
生年月日 1968年10月29日
出身地 大阪府
職業 音楽家、総合エンターテインメントプロデューサー
デビュー 1992年シャ乱Qシングル「18ヶ月」 
1988年シャ乱Qを結成。最大のヒット曲は145万枚売上の「ズルい女」。同曲を含め4曲でミリオンセラーを記録。プロデュースしたアイドルグループ「モーニング娘。」の「LOVEマシーン」(1999年)は売上176万枚以上を記録。

▼シャ乱Q「ズルい女」

▼モーニング娘。「LOVEマシーン」

 

つんく♂の魅力

①ボーカリストを務める「シャ乱Q」

唯一無二のボーカリスト「つんく♂」

 

骨太のパワーサウンド、センセーショナルな外見、派手なパフォーマンス。男女問わず愛され、90年代のヒットチャートを駆け上った人気バンド「シャ乱Q」。

ボーカリスト・つんく♂の歌声はまさに唯一無二のものでした。

鼻にかかった甘い声、クセのある発音、安定した歌唱力。繊細なラブソングもコミックソングも、彼が歌えば耳に残って離れない。

🎤つんく♂の歌声を堪能するなら以下の曲がおすすめ🎤

【ラブソング】
・シングルベッド
・My Babe 君が眠るまで
・涙の影 など

【コミックソング、あるいはインパクトのある曲】
・ラーメン大好き小池さんの唄
・ズルい女
・とってもメリーゴーランド(つんく♂が中学生のころに作ったとか。つんく♂らしいコミカルでポップな曲です) など

 

彼の当時のトレードマークといえば細い眉とアイシャドウ。

 

▼写真中央でカメラ目線がつんく♂

 

バンドマンにおいて、派手なメイクやカラフルな髪色など、さほど珍しくはなくなっていた時代。

その中にいてもつんく♂は、ひときわ目を引く存在でした。

中性的で華奢な出で立ちから放たれる、圧倒的なオス感。

トーク場面で見せる顔や現在の穏やかな表情とは違う、見るものを射貫くような挑発的な視線も彼の魅力でした。

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ビーイングブームの立役者 織田哲郎の功績 【90年代邦楽のヒットメーカー解説③】

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この章では90年代邦楽のヒットメーカーである【小室哲哉】【つんく♂】【織田哲郎】の3人にスポットライトを当てて、当時のJ-POP界がどのようなものだったかをお伝えします。

このページでは90年代J-POPブームの立役者「織田哲郎」について紹介。

ビーイング系アーティスト、そして織田哲郎氏の作品がいかに90年代において愛されたのかが伝われば幸いです。

 

ビーイング系アーティストとは

ビーイングは1978年に設立した音楽制作やアーティストのマネージメントを行う会社です。現在は大手音楽プロダクションとして知られています。ビーイングに所属、あるいはビーイングに関わっているアーティストは「ビーイング系アーティスト」と称されます。

90年代のJ-POPを語る上で外せないトピックといえば“ビーイング系アーティストの台頭”。もはや社会現象にもなりました。

 

🎤ビーイング系とくくられるおもなアーティスト🎤

ZARD/WANDS/大黒摩季/T-BOLAN/DEEN/ MANISH/B`z

 

彼らこそ、CDバブル時代を作った存在ともいえます。団塊ジュニア世代の就職や進学、カラオケブームの波に乗り、オリコンシングルチャートの上位に次々とランクイン。

 

CDバブル時代

カラオケ・タイアップ戦略などにより若者を中心に音楽需要が高まった時代。1997年には、シングルの年間販売数が1億6782万7000枚を記録。1998年にはCDアルバムの年間販売数が3億291万3000枚とピークを記録。

 

ついには、1992年12月28日から93年7月26日までの31週間中、27週にわたってビーイング系アーティストが首位を獲得するという快挙を成し遂げます。

ドラマやCMのタイアップに多数起用され、ビーイング系アーティストの曲を耳にしない日はないと言っても過言ではなかった時代。

▼ビーイング系アーティストのタイアップの例

リリース年月 アーティスト「曲名」 タイアップ
1992年9月 大黒摩季「DA・KA・RA」 「マルちゃん・ホットヌードル」CM
1993年3月 B’z「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」 日本テレビ系ドラマ『西遊記』
1993年5月 ZARD「揺れる想い」 大塚製薬「ポカリスエット」CM
1995年2月 大黒摩季「ら・ら・ら」 テレビ朝日系ドラマ『味いちもんめ』主題歌

 

TV露出を極力抑えるという戦略で、さらに世間の関心を集めました。

このページでは、そんなビーイング系アーティスト大躍進の立役者である「織田哲郎」についてお話します。

「シンセサイザーを操りダンスミュージックを日本に定着させた」のが小室哲哉であるならば、織田哲郎は「ロック」を大衆のものにしたアーティスト、プロデューサーであるといえます。

 

【筆者に聞いてみました】当時のビーイング系アーティストの印象

Q.(Webon編集部)当時ビーイング系のアーティストがテレビに出ないことをどのように感じていましたか?

A.(筆者 シン)ビーイング系アーティストは「顔がわからないこと」をよく取り上げられていた思い出があります。 ZARDの坂井泉水、大黒摩季など、みな総じて美人でもあったので、ちらっと横顔が映るくらいのことでも歌番組では話題になっていました。 ライブをした時には大きくニュースとして取り上げられていました。 不思議にも思っていましたが、アーティストのビジュアル面も重視されていた時代だったので、イメージを守るためかな?くらいには思っていました。 あくまで小学生当時の印象なのであてになりませんが、顔を見せない=同じ事務所の人、くらいの認識はあったように思います。

 

織田哲郎の基本情報

名前 織田 哲郎(おだ てつろう)
生年月日 1958年3月11日
出身地 東京都
職業 シンガーソングライター/作曲家/プロデューサー
累計4000万枚以上のシングルセールスを記録。日本音楽史上歴代作曲家売上げランキング第3位。相川七瀬「夢見る少女じゃいられない」ZARD「負けないで」TUBE「シーズン・イン・ザ・サン」中山美穂&WANDS 「世界中の誰よりきっと」B.B.クイーンズ「おどるポンポコリン」DEEN「このまま君だけを奪い去りたい」WANDS「世界が終わるまでは…」KinKi Kids「ボクの背中には羽根がある」など数多くのヒット曲を生み出している。

 

織田哲郎の楽曲の魅力・特徴

 

以下では1990年代J-POPにおけるヒット請負人であり、今も愛され続ける「織田哲郎」の魅力と、そのサウンドの特徴を5つの項目に分けて考察してみたいと思います。

以下の曲あたりを聴いていただくと、いわゆる“織田哲郎サウンド”のつかみはOKといったところでしょう。この項目で説明する5つの特徴を、以下の曲は全て兼ね備えています。

◆FEELD OF VIEW「突然」
◆ZARD「心を開いて」
◆WANDS「世界が終るまでは…」
◆DEEN「このまま君だけを奪い去りたい」

 

① 心地よいロックサウンド

 

生音にこだわった「心地よいロックサウンド」。それが織田哲郎の持ち味。

ちなみに最近見つけた“ザ・織田サウンド”は人気アイドルデュオKinKi Kidsのアルバム曲「ヒマラヤ・ブルー」。

あくまで私が思う織田哲郎節ではありますが、久しぶりに全開の織田サウンドを聴いたな、という満足感がありました。

 

意外にも彼は、プロデュース作以外の、提供した曲に関しては「曲を渡したあとはおまかせ」というスタイルだそう。

それゆえ一般のリスナーと同じタイミングで完成形を耳にすると聞いたときには衝撃を受けました。

世界観も密に共有しているのではと思うような、歌詞や声との絶妙なマッチングを数々目の当たりにしてきたからです。

 

② 清涼感のある夏っぽさ

 

織田哲郎サウンドをざっくりとした言葉で表現してみると、

「なんかCMで聴いた!」
「どこか夏っぽい」

とでも言いましょうか。

 

「夏っぽい」と言っても暑苦しいとは程遠い“清涼感”に近いものを感じませんか。

清涼飲料水のCMに起用されることが多かったのはそのせいかとも思うほど、透き通ったサウンドが特徴的です。(ちなみに彼自身のヒット曲「いつまでも変わらぬ愛を」も清涼飲料水のCMソングに採用されています。)

青春を思わせる爽快感や疾走感も彼の楽曲の持ち味といえます。

 

③ サビの場所がわかりやすい

 

織田哲郎の作る楽曲は「ここがサビ」だと分かりやすいのも特徴のひとつ。

サビのメロディがキャッチーなのはもちろん、サビまでの展開(盛り上がり)の作りかたが絶妙なのです。

ヒットの典型であるカノン方式(日本のヒット曲でよく使われるコード進行)を使うにしても、微妙な転調を使いながらサビへ向かうことで、明らかな盛り上がりを作る。

これは計算なのか、果たして天才なのか…きっといずれも当てはまることでしょう。

 

④ 日本語が映える

 

さらに織田氏の曲には日本語が乗りやすく、日本語が映えるという特徴もあります。こればかりは共同制作者との合わせ技、あるいは戦略かもしれませんが。

日本人が好きそうな、ある意味では歌謡曲的なロック。

複雑すぎず、きちんと耳に入り、繰り返し歌える。

歌謡曲とロックの出会いというのは、70年代にグループサウンズらによってすでに生まれた形ではあります。

それを90年代、当時の若者向けにブラッシュアップしたのが織田哲郎の功績かもしれません。

 

グループサウンズ

1960年代後半に活動したロックグループ。主にボーカル・エレクトリックギター・エレクトリックベース・ドラムという編成がされていた。初期人気グループには「ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」「ザ・スパイダース」がいた。

▼ジャッキー吉川とブルー・コメッツの代表曲。1967年発売。レコード売上150万枚。

 

⑤ 歌いやすい

 

彼の曲は、キーがちょうど歌いやすいところにある、というのもヒットの秘訣であると考えます。

女性曲もさほど高いキーは使用せず、男性曲も低すぎるキーは使用しない。

言い方を変えれば、女性リスナーでも男性アーティストの曲を歌うことができる、逆もまたしかりということ。

時代はまさにカラオケブームに突入したころ。

歌いやすいヒット曲となれば、愛されるのは必然です。

 

メロディとは音の高低や緩急で成り立ちますから、使える音域は広ければ広いほうが、生まれる曲のバリエーションも広がります。

しかし彼はミドルの音域のなかで、絶妙に変調を使いながら、とびぬけて美しいメロディを作ってしまう。

加えてイントロや間奏、アウトロ(楽曲の終わり部分)にちりばめられた、鍵盤やギターによる特徴的で美しいリフ。

まさに曲のはじまりから終わりまで「織田哲郎の曲だ」と感じさせる要素がいくつも含まれています。

 

織田哲郎はオンリーワン

 

オンリーワンのアーティストであり、ヒットメーカー。

どれほどの数の青春を彼の曲が彩ったのか、私には想像もつきません。

 

ここまで書いても、そして調べても、織田哲郎サウンドを詳しく分かりやすく、音楽的にも直感的にも納得のいく分析に、私はまだ出会っていません。

なぜなら織田哲郎の曲はとにかく幅が広く、底が知れない。ハードロックからポピュラー、ボサノヴァまで、あらゆる音楽を生み出し、世に定着させてしまう。

そこには進化はもちろん、先ほど述べた「ヒマラヤ・ブルー」のような原点回帰を感じさせる曲もあります。

いつの時代にあっても、誰が歌おうとも揺るがない織田哲郎サウンド。

一度、頭のなかをのぞいてみたい。

彼になって美しいメロディを生み出してみたい。

そう思わずにいられないアーティストです。

 

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