ノワール小説おすすめ傑作20選 【探偵編】

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ノワール文学(小説)を知っている方も知らない方も。「ノワール文学とは」から「おすすめノワール作品」までをご紹介。読めばノワール作品に興味が出る事間違い無し。

國谷正明氏による『ノワール文学(ノワール小説)入門』はこちらから

著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。趣味は作曲と爬虫類飼育。好きな作曲家はエリック・サティ。好きな映画監督は深作欣二。好きなアニメはスポンジボブ。好きな学問は民俗学。苦手な調味料はマヨネーズ。敬愛する作家はジム・トンプスン。いいにおいのする文章を書こうと日々苦心しています。お問い合わせはこちらから
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『ノワール文学入門』目次へ  (全16ページ)

 

第3章ではノワール文学(ノワール小説)に興味を持ったという方に向けて4ページに渡りおすすめ作品を

警察編】【裏社会編】【一般市民編】【探偵編

「主人公の職業別」に分類してご紹介していきます。

このページでは、ハードボイルド小説の代名詞ともいうべき探偵稼業に従事する人物を主人公に据えたノワール作品をご紹介しています。

 

16 チェシャ・ムーン(ロバート・フェリーニョ)

タイトル(原題) チェシャ・ムーン(Cheshire Moon)
著者 ロバート・フェリーニョ(Robert Ferrigno)
発表年 1993年
著者出身国 アメリカ

※以下同様、基本的に発表年は日本語訳初版

 

本作「チェシャ・ムーン」は、1990年代のLA(ロサンゼルス)を舞台に、ピューリッツァー賞候補にも選ばれた元新聞記者クィンと日系の女性カメラマン「ジェン・タカムラ」が友人を殺した犯人を追う姿を描いたハードボイルド小説です。

エルモア・レナード(Elmore John Leonard Jr.)を思わせる魅力的な人物造形と軽妙な会話劇が、本書をハードボイルドとして非凡な作品へと押し上げています。

 

エルモア・レナードアメリカを代表する犯罪作家。男臭さを感じられる表現や饒舌な語り口は多くの読者に愛されていると言われる。

▼エルモア・レナード

by Peabody Awards – FlickrPeabodys_CM_0382 CC BY 2.0

 

シリーズ続編「ダンスは死の招き(Dead Man’s Dance)」も併せて読んでいただくことをおすすめします。

 

▼ダンスは死の招き

 

以下、「Book」データベースより引用。

 『ニューヨーク・タイムズ』をはじめ全米各紙誌絶讃の、鬼才の問題作。不吉な猫の口の形の月の下で奇怪な事件が続く。

探訪記者クィンとワサビ色の眼をした女性カメラマン=ジェン・タカムラの友人アンディーの死体が空港脇の車の中で発見され、往年ハリウッド・スターの身辺に“謎”が。

傑作ハードボイルド。

 

▼著者おすすめノワール小説を読む

 

17 快楽通りの悪魔(デイヴィッド・フルマー)

タイトル(原題) 快楽通りの悪魔(Chasing the Devil’s Tail)
著者 デイヴィッド・フルマー(David Fulmer)
発表年 2004年
著者出身国 アメリカ

 

本作「快楽通りの悪魔」は、20世紀初頭ニューオーリンズの赤線地帯「ストーリーヴィル」を舞台に、白い肌の下に黒人の血が流れる警官あがりの私立探偵「ヴァレンティン・サンシール」が連続殺人事件の犯人を追う様を描いた作品です。

 

赤線地帯

売春が公認された地区。ストーリーヴィルは1897年から1917から米国のニューオーリンズに設置されていた。

 

実在のジャズ・ミュージシャンが登場するなど音楽に関する描写も多く、ミステリファンのみならず音楽ファンにもおすすめの一冊です。

 

以下、「Book」データベースより引用。

 人種差別さめやらぬ1907年のニューオーリンズ。

外見は白人ながら黒人の血を引く異端の私立探偵ヴァレンティンは、娼婦ばかりを狙った猟奇殺人事件に巻き込まれる。

現場には黒い薔薇が遺され、被害者全員が死の直前に彼の親友のコルネット奏者バディと会っていた…。

複雑に絡み合うプロットと渇いたノスタルジーで、アメリカ私立探偵作家クラブ賞に輝いた、歴史ノワールの逸品。

 

▼著者おすすめノワール小説を読む

 

18 悪徳の街(フランク・レナード)

タイトル(原題) 悪徳の街(Box100)
著者 フランク・レナード(Frank Leonard)
発表年
著者出身国

 

本作「悪徳の街」は、セミプロ野球選手やスポーツ記者など、数えきれないほどの職を転々とした末に探偵稼業に流れ着いた「ロス・フランクリン」という主人公が、卑しき街に巣くう巨悪を追う様を描いた社会派のハードボイルド小説です。

 

ハードボイルド小説について詳しくは第1章で!(現在第3章)

 

長らくニューヨーク市でソーシャルワーカーを務めた著者ならではの視点で、1970年代のニューヨークの福祉制度の歪みに鋭く迫っています。

 

以下、カバー袖より引用。

 ロス・フランクリンの27番目の職業は探偵稼業だった。ニューヨーク市調査局ボックス100課の特別調査員である。

ボックス100課は、市政に関する市民の苦情受けつけ窓口である。

大半は「隣室の女のひとり言がうるさい」とか、「アパートにゴキブリがいっぱいいるから何とかしてほしい」といった類のものである。

だが中には、「生活保護を受けている隣りの女が、扶助料切手をなくしたとごまかし、再交付を受けている」といった犯罪の匂いのするものもある。

ロス・フランクリンの初仕事が、この小切手詐欺事件の調査だった。調査に取り掛かった彼は、やがて貧困の街に巣くう非情な悪の正体を知る――。

 

▼著者おすすめノワール小説を読む

 

19 マザーレス・ブルックリン(ジョナサン・レセム)

タイトル(原題) マザーレス・ブルックリン(Motherless Brooklyn)
著者 ジョナサン・レセム(Jonathan Lethem)
発表年 2000年
著者出身国 アメリカ

 

本作「マザーレス・ブルックリン」は、トゥーレット症候群(チック症)を患う若き探偵ライオネル・エスログが、探偵事務所のボスを殺した犯人に復讐するべく、仲間たちとともに犯人を追跡する様を描いた作品。

言葉遊びに満ちた異様ともいえる文体が、本書を唯一無二の個性的な作品へと昇華させています。

 

邦訳版が出版された2000年時点で既にエドワード・ノートン製作/主演による映画化が決定していましたが、長い製作期間を経て2019年に公開を予定しています(2018年時点)。

 

以下、Googleブックスより引用

 フランク・ミナは、ぼくらの兄貴で、父で、恩人で、ボスだった。孤児院暮らしのぼくらを雇い、稼がせ、成長させ、大人にしてくれた。

そんなミナが、ゴミ箱のなかで血にまみれ…

無免許探偵のぼくらは、殺されたミナのため、奥さんのため、仕事のため、ぼくらのため、町へ出る!

言葉の魔術師の異名を取る著者が魅力を全開させた、超個性脈ハードボイルド。

 

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20 殺しの匂う街( マーク・サヴェージ)

タイトル(原題) 殺しの匂う街(Scratch)
著者 マーク・サヴェージ(Marc Savage)
発表年 2000年
著者出身国 アメリカ

 

本作「殺しの匂う街」は、ニューヨークはクイーンズで探偵稼業を営む私立探偵レイ・ソマーの生きざまを描いたハードボイルド小説です。

1990年代に書かれたとは思えない古典的で筋金入りのハードボイルドを味わうことができます。

また、本作に登場するマフィアのドン「ジョー・スコセージ」を主人公に据えたスピンオフ作品も発表されていますが、残念ながら未だ邦訳は予定されていません(2018年時点)。

 

以下、「Book」データベースより引用。

駐車場で車を修理していた男は、いきなり立ちあがると、ショットガンをかまえた。そして、私立探偵レイ・ソマーの目のまえで、親友の息子サリーに銃弾を浴びせかけた。

無残な最期をとげたサリーは、大学を卒業したばかりで、父親のあとを継いで弁護士になろうとしていた。そんな前途有望な若者が、なぜ殺されなければならないのか?

怒りに燃えたソマーは、自分で犯人をつかまえようと独自の調査にのりだした。

サリーの車で発見されたコカインは、何を意味しているのか?殺される直前にサリーがもちこんできた娘の失踪事件は、今回の殺人事件と関係があるのか?そして、娘の行方は?

娘の姿を捜査し求めて街にくりだしたソマーは、路地裏で何者かに襲われ、意識をうしなった。

そして、気がついてみると、そばには死体が…。

退廃と暴力の街ニューヨークで生まれ育った男が、死と隣りあわせの調査に執念を燃やす本格ハードボイルド。

 

▼著者おすすめノワール小説を読む

 

以上、おすすめノワール小説でした!次のページから第4章です。第4章では映画など他メディアに潜んでいるノワール要素をご紹介。ノワール小説が好きな方や興味がある方はきっと面白いでしょう!

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著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。趣味は作曲と爬虫類飼育。好きな作曲家はエリック・サティ。好きな映画監督は深作欣二。好きなアニメはスポンジボブ。好きな学問は民俗学。苦手な調味料はマヨネーズ。敬愛する作家はジム・トンプスン。いいにおいのする文章を書こうと日々苦心しています。お問い合わせはこちらから
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ノワール文学とは③ 【ノワール文学の発展】

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ノワール文学(小説)を知っている方も知らない方も。「ノワール文学とは」から「おすすめノワール作品」までをご紹介。読めばノワール作品に興味が出る事間違い無し。

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ノワール文学の発展

 

前のページで解説したようにフランスでロマン・ノワールが隆盛をみせる裏で、ハードボイルド小説の本場アメリカは激しく揺れ動いていました。ノワール文学の発展をこのページで解説する上で少しベトナムの歴史を解説します。

ベトナムの歴史を知る事でノワール文学についての知識が深まりますので少々お付き合いいただければと思います。

 

ロマン・ノワールとは
フランスでの英米ハードボイルド小説の流入を機に書かれたフランスのミステリ小説。

 

ベトナムの歴史

 

長らくフランスの植民地であったベトナムは、第二次世界大戦の影響を受け1945年に革命家ホー・チ・ミン率いるベトナム独立同盟がインドシナ半島北部にベトナム民主共和国を樹立し、独立を宣言します。

 

革命家ホー・チ・ミン
「ベトナム建国の父」と呼ばれるベトナム独立に貢献した革命家。ベトナム民主共和国・初代国家主席。ベトナム最大都市「ホーチミン市」は革命家ホー・チ・ミンからちなんで付けられた。(ちなみにベトナムの首都は「ハノイ」)

▼ホー・チ・ミン

▼インドシナ半島

 

ベトナムの独立を容認したくないフランスは中国と協定を結び、完全独立を要求するベトナム民主共和国に対して、フランス連合の一員に留まるよう交渉を続けました。

しかし首を縦に振らないベトナムに痺れを切らしたフランスはインドシナ南部を制圧し、傀儡国家(かいらいこっか・名目上独立しているが事実上他の者に支配された国家)である「コーチシナ共和国」を樹立。

 

 

1946年、フランス・ベトナム両国は交戦状態に入ります(第一次インドシナ戦争と呼ばれています)。

 

▼コーチシナ共和国国旗

 

1953年、ラオス国境近くのディエンビエンフー盆地で展開した交戦でフランス軍が降伏。

 

▼ディエンビエンフー盆地

 

ジュネーヴ協定の成立とベトコン

 

翌年には関係国間で和平協定(ジュネーヴ協定)が成立し、ベトナム民主共和国(北ベトナム)の独立が承認されます。それは同時に、南北ベトナムの分断を意味していました。

 

ジュネーヴ協定(1954)
第一次インドシナ戦争を終結させるためにスイスのジュネーヴで開かれた休戦協定。この協定ではベトナムの南北分断やベトナム軍・フランス軍の撤退、ベトナム南北統一のための選挙をすることなどの合意が成立した。

 

▼南北に分断されたベトナム

 

ソ連と中国の援助を受けていたベトナム民主共和国(北ベトナム)が独立したことにより、東南アジアで共産主義が台頭することを恐れた資本主義国家アメリカは、傀儡国家であるベトナム共和国(南ベトナム)を建国。

東南アジアにおける反共産主義の砦としました。

 

 

しかし、ジュネーヴ協定で決められた南北統一選挙の実施をベトナム共和国(南ベトナム)政府が拒否したことで事態は悪化します。

ジュネーヴ協定での取り決めが反故(ほご・無しになること)されたことに憤ったホー・チ・ミンは1960年、南ベトナム解放民族戦線(通称ベトコン)を結成し、武力による南北の統一を図りました。

 

南ベトナム解放民族戦線(通称:ベトコン)
南ベトナムで1960年に結成された反アメリカ・反帝国主義を掲げた統一戦線。「統一戦線」とは別の軍が共同して戦う事。ベトコンとも呼ばれる。アメリカに操られているサイゴン政権からの南ベトナムの「解放」とベトナム民族の統一を活動目的とした。

▼ベトコンの旗

 

ベトナム和平協定へ

 

それに対して、1961年第35代アメリカ大統領に就任したジョン・F・ケネディは対ベトナム政策の中で、ベトナム共和国(南ベトナム・傀儡国家)への支援を決定します。

 

▼ジョン・F・ケネディ

 

そして、1964年、ベトナム沖のトンキン湾において、北ベトナム海軍がアメリカ海軍の駆逐艦(軍艦の一種)を魚雷艇(魚雷を備えた軍船)で攻撃したことをきっかけに、アメリカは本格的な武力介入に乗り出します(これをトンキン湾事件と言います)。

 

▼トンキン湾

 

アメリカが武力介入した後も事態は好転せず、泥沼の戦いが続きます。

戦争が長引くにつれてアメリカ国民の間で反戦ムードが高まり、事態をあおるようにして、1968年アメリカ陸軍の小隊が無抵抗の村人504人を無差別に虐殺するという痛ましい事件が発生します(これをソンミ村虐殺事件と言います)。

事件が報道されると反戦ムードは一気に激化し、各地で大規模なデモが頻発します。

 

 

アメリカはその後も苦しい状況を戦い続けますが、1973年には和平協定(ベトナム和平協定)が成立し、アメリカ軍の撤退が決定します。

これはアメリカにとって事実上の敗戦を意味していました。

 

ベトナム和平協定(パリ和平協定)とは(1973)
パリで調停されたベトナム戦争終結の協定。ベトナム民主共和国(北ベトナム)・南ベトナム共和臨時革命政府(南べトナム解放民族戦線・ベトコン)・ベトナム共和国(南ベトナム)・アメリカ合衆国の四者によって調印された。しかしその後もベトナムの複雑に絡み合った対立構造は解決されず衝突は続いてしまった。

 

ネオ・ハードボイルドとベトナム戦争

 

長々と(と言ってもごく簡単にですが)ベトナム戦争の概要をご説明して参りましたが、これにはもちろん理由があります。

 

アメリカを祖国とするハードボイルド小説は、時代が下るにつれて大きな変貌を遂げました。

過酷な現実に直面しても感情に流されず、己の信念を貫くために命懸けで抗う強固な意志の持ち主であったハードボイルド小説の主人公が、過去のトラウマに苦しみアルコールや薬に溺れる、傷つきやすい神経の持ち主に取って代わられるようになったのです。

こうした流れは1970年代以降顕著になり、それら一連の作品は、日本におけるハードボイルド研究の大家である小鷹信光氏によって、ネオ・ハードボイルドと命名されました。

 

このような「ネオ・ハードボイルド」誕生の影には、ベトナム戦争が大きく影響しています。

ベトナム戦争は、アメリカが敗戦を喫した初の戦争であると同時に、多くの帰還兵を生みました。

帰還兵の中には後遺症を抱えている者も少なくなく、多くの国民が身体障害や精神的なトラウマに苦しむ帰還兵の現状を目の当たりにしています。また、国内で反戦ムードが高まっていたことから、帰還兵に非難の目が向けられることさえありました。

そういった環境がネオ・ハードボイルド小説の主人公の造型に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。

 

 

2つの超有名暗殺事件

 

その他にも、ベトナム戦争が行われている間に、アメリカ人の心に大きな影を落とした事件がありました。

 

1 ケネディ大統領暗殺事件

▲ジョン・F・ケネディ

 

ひとつは、ケネディ大統領暗殺事件です。

アメリカが本格的な武力介入に乗り出す前年にあたる1963年11月22日、テキサス州ダラス市内をパレード中のジョン・F・ケネディ大統領を凶弾が襲いました

リー・ハーヴェイ・オズワルドによる犯行とされていますが、当のオズワルドが事件の二日後に警察署内でマフィアと繋がりのあるジャック・ルビーという男に射殺されるなど、いまだ多くの謎が残っています。

 

▼暗殺犯とされているリー・ハーヴェイ・オズワルド

▼オズワルドを殺害したジャック・ルビー

 

2 キング牧師暗殺事件

▲マーティン・ルーサー・キング牧師

 

もうひとつが、キング牧師暗殺事件です。

ソンミ村虐殺事件が発生した同年の1968年4月4日、テネシー州メンフィス市内で遊説を終え、モーテルのバルコニーで打ち合わせ中だったマーティン・ルーサー・キングが凶弾に斃れ(たおれ)ました。

犯人はジェイムズ・アール・レイという名の男で、強盗や詐欺・窃盗といった犯罪の常習者でした。

 

▼キング牧師を殺害したジェイムズ・アール・レイ

 

当時高い支持率を誇っていたケネディ大統領と、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者であるキング牧師の死は、多くのアメリカ国民に大きな衝撃と深い悲しみをもたらしました。

 

アフリカ系アメリカ人公民権運動とは(1973)
1950年代から1960年代にかけて、アメリカ在住のアフリカ系アメリカ人が、黒人に対する公民権の適用を訴えた大衆運動。17世紀の奴隷制度に端を発する根強い人種差別が背景にある。

 

これらの出来事がミステリのみならず、さまざまな作品の題材となっていることからも、アメリカという国に与えた影響の大きさを窺い(うかがい)知ることができます。

 

また、ベトナム戦争がハードボイルド小説のノワール文学化を促したという点でも、ベトナム戦争の概要を知ることは、ノワール文学を理解する上でとても重要であるといえます。

 

ここまで第1章ではノワール小説が誕生した経緯や発展していった背景には戦争などの時代背景が絡んでいた事を解説してきました。次のページ、第1章の終わりに現在のノワール文学について解説をしていきます。

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ノワール文学とは② 【ノワール文学の発生】

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ノワール文学の発生

 

前のページ「ノワール文学とは <ノワール文学の定義>」で述べたように、ノワールという呼称はフランス語で黒を意味する「Noir」に由来し、そのルーツはアメリカのハードボイルド小説に遡ります。

このページでは、「ハードボイルド小説」がなぜ「ノワール小説」と呼ばれるに至ったのか、その経緯をご説明していきます。

 

ハードボイルド小説はヨーロッパへ

 

本国アメリカでハードボイルド小説の人気に火がつくと、その熱波はヨーロッパにも広がりました。

それは第二次世界大戦に揺れるフランスも例外ではなく、耳聡い(みみざとい・情報を聞きつけるのが早い)一部のミステリファンがハードボイルド小説の魅力に取り憑かれていきます。

そのうちのひとりが、後にノワール文学勃興(ぼっこう:盛んになる事)の立役者となるフランス人のマルセル・デュアメルです。

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ノワール文学とは 【ノワール文学の定義】

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ノワール文学(小説)とは

 

ノワール文学(小説)の定義には諸説あり、とてもひとくちに説明できるものではありません。

そもそも「ノワール」という言葉は、フランス語で『黒』を意味する「Noir」に由来しています。

そのため古くは日本語で「暗黒小説」と訳されていましたが、現在では「ノワール小説」という呼称が一般的です。

 

 

これから詳しく述べていきますが、ノワール文学の源流は1920年代にアメリカで隆盛を誇ったハードボイルド小説に端を発しています。

つまり、広く捉えるならば、ハードボイルド小説もノワール文学に含まれると考えることができます。

 

ハードボイルド小説とは

 

「ハードボイルド」という言葉は一般に広く認知されているため、ミステリ小説に馴染みのない方でも少なからず耳にしたことがあるものと思いますが、ハードボイルド小説もまたその定義を巡ってさまざまな議論が交わされてきました。

呼称の由来にも諸説ありますが、ハードボイルド(Hard-boiled)とは「手強い」「非情な」を意味する英語の俗語表現(教養として扱われない言葉や表現)です。

そしてそのような特徴(「手強い」「非情な」特徴)を備えた主人公の生きざまを描いた作品群を指して、「ハードボイルド小説」と称するようになったという説が有力です。

さらにハードボイルド小説の定義は、物語文体のふたつに大別することができます。

 

 

物語としてのハードボイルド小説

 

物語としてのハードボイルドは、アメリカの推理小説家ダシール・ハメット(Samuel Dashiell Hammett)から始まりました。

ハメットはアメリカの大衆雑誌であるパルプ・マガジン※の一つ、「ブラックマスク誌」にいくつかの短編小説を寄稿。そして1927年に同誌上で初の長編小説「血の収穫(Red Harvest)」を発表しました。

 

パルプ・マガジンとは
1900~1950年頃にアメリカで広く流通していた大衆娯楽雑誌の総称。粗悪なパルプ紙を使用していたことからそう呼ばれた。
ハードボイルドだけでなくホラーやSFなど、さまざまなジャンル小説の発展を大きく促した。代表的なものに、ウィアード・テイルズ、アメイジング・ストーリーズ、ダイム・ディテクティヴなどがある。

▼血の収穫

 

簡潔な文体で渇いた暴力を淡々と描いたその作風は、発表から一世紀近くが経った現代でも、世界中のミステリファンの間で絶大な人気を誇っています。

 

パルプ・マガジンとは
1900~1950年頃にアメリカで広く流通していた大衆娯楽雑誌の総称。粗悪なパルプ紙を使用していたことからそう呼ばれた。
ハードボイルドだけでなくホラーやSFなど、さまざまなジャンル小説の発展を大きく促した。代表的なものに、ウィアード・テイルズ、アメイジング・ストーリーズ、ダイム・ディテクティヴなどがある。

 

ハメットの後に続くようにして現れた

・ジェイムズ・M・ケイン(James Mallahan Cain)

・レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler)

・ロス・マクドナルド(Ross Macdonald)

・ミッキー・スピレイン(Mickey Spillane)

 

などの人気作家の手によって、ハードボイルド小説はミステリのサブジャンルとしての地位を確かなものとしました。

特に、チャンドラーが生みだした「フィリップ・マーロウ」というキャラクターは、シャーロック・ホームズに次ぐ世界で二番目に有名な私立探偵として、わたしたちが抱くハードボイルド像の確立に大きく寄与しました。

 

▼フィリップ・マーロウ登場小説の例

▼実写化されたフィリップ・マーロウ

 

 

文体としてのハードボイルド小説

 

対して、文体としてのハードボイルドは、ノーベル文学賞も受賞した文豪アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway)によって確立されました。

 

▼アーネスト・ヘミングウェイ

▼アーネスト・ヘミングウェイの代表作の一つ「武器よさらば」

 

感情を排した簡潔な文章で登場人物の行動を淡々と描写し、人物の心情を浮かび上がらせるその手法は、物語としてのハードボイルド小説と高い親和性を有していました。

彼の文体は後進のハードボイルド作家たちに大きな影響を与え、ヘミングウェイが発明した文体こそがハードボイルドであると評価されるに至っています。

 

 

ハードボイルド小説とノワール文学(小説)の相違点

 

ハードボイルド小説とノワール文学(小説)は多くの共通項があると同時に、さまざまな点で異なっていることもまた事実です。

筆者の考えるハードボイルドとノワールの最大の相違点は、「主人公に感情移入ができるか否か」です。

いや、主人公が強固な意志の持ち主であるか否かと言い換えた方がわかりやすいかもしれません。

 

ハードボイルド小説の主人公は、過酷な現実に直面しても感情に流されず、己の信念を貫くために命懸けで抗います。

一方、ノワール文学の主人公の多くは、意志の弱さゆえにどこまでも転落し、破滅へとひた走ります

 

 

わたしたち人間は、理性と本能の狭間で絶えず葛藤しながら日々を生きています。生存本能に打ち克つほどの強い意志の持ち主が、わたしたちの中にどれだけいるでしょうか。

ハードボイルド小説はそういう意味で一種のファンタジーであると言えますが、ノワール文学は残酷なまでに自然主義的です。

 

自然主義文学とは
物事を美化せず、現実をありのままに描写しようとする立場から描かれた文学作品の総称。19世紀後半のフランスにおいて、小説家エミール・ゾラ(Émile François Zola)によって定義された。

日本の代表的な作家に、島崎藤村、田山花袋、永山荷風らがいる。

 

ノワールとハードボイルド、どちらに感情移入をしやすいかは火を見るよりも明らかでしょう。

 

次のページではノワール文学がどのように発生していったのかを解説していきます。

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