國谷正明氏による『ノワール文学(ノワール小説)入門』はこちらから
第1章 ノワール文学とは
第2章 各国のノワール文学
第3章 ノワール小説傑作選
第4章 ポップカルチャーに潜むノワール
『ノワール文学入門』目次へ (全16ページ)
目次
その他国々のノワール文学
フランスの「セリ・ノワール」叢書(そうしょ・シリーズという意味)でアメリカ・イギリスのハードボイルド小説が紹介され、フランスのミステリファンの心を掴むなど、英国の作家たちがノワール文学に与えた影響は非常に大きなものでした。
セリ・ノワールが与えた影響については第1章で解説しておりますのでご参照ください。(現在第2章)
まずはそんなノワール文学の原点の一つとなった国とも言えるイギリスの代表的ノワール作家をご紹介します。
イギリス
ジェイムズ・ハドリー・チェイス(James Hadley Chase)
ジェイムズ・ハドリー・チェイス(James Hadley Chase)は、1906年生まれのノワール作家です。
彼は18歳のとき書店で勤務したことを皮切りに書籍の取次や販売員・出版社など本に携わる仕事をこなす中で、アメリカのギャング小説の需要が多いことに着目しました。
アメリカの俗語辞典と裏社会の参考書を片手に、本業の傍らでなんと六週間という短期間で処女作「ミス・ブランディッシの蘭(No Orchids for Miss Blandish)」を書き上げました。
▼ミス・ブランディッシの蘭(画像クリックで書籍詳細へ)
同書は1939年に刊行されると、英国内のみならず世界中で好評を博し、瞬く間にベストセラーとなっています。
その後も、続編となる「蘭の肉体(The Flesh of Orchid)」をはじめ、「悪女イヴ(Eve)」「世界をおれのポケットに(The World in My Pocket)」など、優れた作品を数多く送り出しています。
▼世界をおれのポケットに(画像クリックで書籍詳細へ)
テッド・ルイス(Ted Lewis)
テッド・ルイス(Ted Lewis)は、1940年生まれのノワール作家です。
英語教師に美術や執筆など創作分野の才能を見出された彼は、両親の反対を押し切って美術学校に進学します。
卒業後は広告業界を経てテレビ番組や映画のアニメーション技術者に転じ、1965年に処女作「All the Way Home and All Night Through(未邦訳)」を上梓。
その後も「ゲット・カーター(Jack’s Return Home)」「Boldt(未邦訳)」「GBH(未邦訳)」など、ジェイムズ・ハドリー・チェイス(先述)の系譜に連なる優れたノワール作品を次々と発表し、英国を代表するノワール作家としての名声を欲しいままにしました。
▼ゲット・カーター(画像クリックで書籍詳細へ)
また、彼の代表作である「ゲット・カーター」は三度にわたって映画化されています。
1971年にマイク・ホッジスが監督を務めた「狙撃者(Get Carter)」というゲットカーター映画版は、イギリス映画雑誌で「イギリス映画オールタイムベスト」という特集に選出されるなど、非常に高い評価を得ています。
▼狙撃者(画像クリックでDVD詳細へ)
以上がノワール文学に影響を与えたイギリスの代表的なノワール文学作家です。
アメリカからイギリス、フランスを経由して円熟に至ったノワール文学は、その後世界中に伝播しました。以下では様々な国の代表的なノワール文学作家をご紹介していきます。
キューバ
ホセ・ラトゥール(José Latour)
ホセ・ラトゥール(José Latour)は、1940年、キューバに生まれました。
幼少時から熱心なミステリ読者だった彼は、キューバ財務省にアナリストとして務める傍ら、小説の執筆に取り掛かります。
1982年、処女作「Preludio a la Noche(未邦訳)」でデビュー。
1997年に発表された「追放者(Outcast)」以降、第一言語であるスペイン語は用いず、英語で執筆をするようになります。
▼追放者(画像クリックで書籍詳細へ)
同作は優れたミステリ小説に贈られる、エドガー賞(MWA賞)とアンソニー賞をダブル受賞するという快挙を成し遂げています。
続く「ハバナ・ミッドナイト(The Fool)」でも高い評価を受け、キューバン・ノワールの存在を世界中に知らしめました。
▼ハバナ・ミッドナイト(画像クリックで書籍詳細へ)
南アフリカ共和国
ロジャー・スミス(Roger Smith)
ロジャー・スミス(Roger Smith)は、1960年、南アフリカ共和国に生まれました。
ヨハネスブルグで育った彼は、テレビ番組や映画のプロデューサー、監督、脚本家として活躍した後、2009年、処女作「血のケープタウン(Mixed Blood)」を上梓。
▼血のケープタウン(画像クリックで書籍詳細へ)
世界最悪の犯罪都市と呼ばれるケープタウンを舞台に繰り広げられる逃げ場のない暴力を描いた同作は、ドイツ犯罪小説賞を受賞しました。
続く二作目「はいつくばって慈悲を乞え(Wake Up Dead)」では、前作と同じケープタウンを舞台に、より容赦のない狂気じみた暴力を生々しく描いています。
▼はいつくばって慈悲を乞え(画像クリックで書籍詳細へ)
ドイツ
テア・ドルン(Thea Dorn)
▲テア・ドルン by CC 表示-継承 3.0
テア・ドルン(Thea Dorn)は、1970年にドイツに生まれました。
ベルリンで哲学と声楽を学んだ後、彼女は大学で哲学科の教鞭を取ります。
1994年、同大学を舞台にしたミステリ小説「Berliner Aufklärung(未邦訳)」でデビューし、レイモンド・チャンドラー協会が創設したマーロウ賞を受賞。
※レイモンドチャンドラーはノワール文学の誕生に寄与した作家。詳しくは第1章で。(現在第2章)
1999年に発表された第三長編「殺戮の女神(Die Hirnkönigin)」ではドイツ・ミステリ大賞(先述)を受賞するなど、ドイツのミステリ界を代表する女流作家として高い評価を受けています。
▼殺戮の女神(画像クリックで書籍詳細へ)
2000年にはハノーファーの劇場の劇作家として契約を結び、また2003年にはテレビ番組のホストを務めるなど、小説家の枠に留まらない幅広い活躍をみせています。
次のページからは第3章。第3章では著者おすすめのノワール小説をご紹介。世界中のノワール作品から選んでいるのでノワール小説を読んでみたい方は必読です。次のページでは「警察」が主題のノワール小説をご紹介。
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