ノワール文学とは 【ノワール文学の定義】

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ノワール文学(小説)を知っている方も知らない方も。「ノワール文学とは」から「おすすめノワール作品」までをご紹介。読めばノワール作品に興味が出る事間違い無し。

國谷正明氏による『ノワール文学(ノワール小説)入門』はこちらから

著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。趣味は作曲と爬虫類飼育。好きな作曲家はエリック・サティ。好きな映画監督は深作欣二。好きなアニメはスポンジボブ。好きな学問は民俗学。苦手な調味料はマヨネーズ。敬愛する作家はジム・トンプスン。いいにおいのする文章を書こうと日々苦心しています。お問い合わせはこちらから
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ノワール文学(小説)とは

 

ノワール文学(小説)の定義には諸説あり、とてもひとくちに説明できるものではありません。

そもそも「ノワール」という言葉は、フランス語で『黒』を意味する「Noir」に由来しています。

そのため古くは日本語で「暗黒小説」と訳されていましたが、現在では「ノワール小説」という呼称が一般的です。

 

 

これから詳しく述べていきますが、ノワール文学の源流は1920年代にアメリカで隆盛を誇ったハードボイルド小説に端を発しています。

つまり、広く捉えるならば、ハードボイルド小説もノワール文学に含まれると考えることができます。

 

ハードボイルド小説とは

 

「ハードボイルド」という言葉は一般に広く認知されているため、ミステリ小説に馴染みのない方でも少なからず耳にしたことがあるものと思いますが、ハードボイルド小説もまたその定義を巡ってさまざまな議論が交わされてきました。

呼称の由来にも諸説ありますが、ハードボイルド(Hard-boiled)とは「手強い」「非情な」を意味する英語の俗語表現(教養として扱われない言葉や表現)です。

そしてそのような特徴(「手強い」「非情な」特徴)を備えた主人公の生きざまを描いた作品群を指して、「ハードボイルド小説」と称するようになったという説が有力です。

さらにハードボイルド小説の定義は、物語文体のふたつに大別することができます。

 

 

物語としてのハードボイルド小説

 

物語としてのハードボイルドは、アメリカの推理小説家ダシール・ハメット(Samuel Dashiell Hammett)から始まりました。

ハメットはアメリカの大衆雑誌であるパルプ・マガジン※の一つ、「ブラックマスク誌」にいくつかの短編小説を寄稿。そして1927年に同誌上で初の長編小説「血の収穫(Red Harvest)」を発表しました。

 

パルプ・マガジンとは
1900~1950年頃にアメリカで広く流通していた大衆娯楽雑誌の総称。粗悪なパルプ紙を使用していたことからそう呼ばれた。
ハードボイルドだけでなくホラーやSFなど、さまざまなジャンル小説の発展を大きく促した。代表的なものに、ウィアード・テイルズ、アメイジング・ストーリーズ、ダイム・ディテクティヴなどがある。

▼血の収穫

 

簡潔な文体で渇いた暴力を淡々と描いたその作風は、発表から一世紀近くが経った現代でも、世界中のミステリファンの間で絶大な人気を誇っています。

 

パルプ・マガジンとは
1900~1950年頃にアメリカで広く流通していた大衆娯楽雑誌の総称。粗悪なパルプ紙を使用していたことからそう呼ばれた。
ハードボイルドだけでなくホラーやSFなど、さまざまなジャンル小説の発展を大きく促した。代表的なものに、ウィアード・テイルズ、アメイジング・ストーリーズ、ダイム・ディテクティヴなどがある。

 

ハメットの後に続くようにして現れた

・ジェイムズ・M・ケイン(James Mallahan Cain)

・レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler)

・ロス・マクドナルド(Ross Macdonald)

・ミッキー・スピレイン(Mickey Spillane)

 

などの人気作家の手によって、ハードボイルド小説はミステリのサブジャンルとしての地位を確かなものとしました。

特に、チャンドラーが生みだした「フィリップ・マーロウ」というキャラクターは、シャーロック・ホームズに次ぐ世界で二番目に有名な私立探偵として、わたしたちが抱くハードボイルド像の確立に大きく寄与しました。

 

▼フィリップ・マーロウ登場小説の例

▼実写化されたフィリップ・マーロウ

 

 

文体としてのハードボイルド小説

 

対して、文体としてのハードボイルドは、ノーベル文学賞も受賞した文豪アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Miller Hemingway)によって確立されました。

 

▼アーネスト・ヘミングウェイ

▼アーネスト・ヘミングウェイの代表作の一つ「武器よさらば」

 

感情を排した簡潔な文章で登場人物の行動を淡々と描写し、人物の心情を浮かび上がらせるその手法は、物語としてのハードボイルド小説と高い親和性を有していました。

彼の文体は後進のハードボイルド作家たちに大きな影響を与え、ヘミングウェイが発明した文体こそがハードボイルドであると評価されるに至っています。

 

 

ハードボイルド小説とノワール文学(小説)の相違点

 

ハードボイルド小説とノワール文学(小説)は多くの共通項があると同時に、さまざまな点で異なっていることもまた事実です。

筆者の考えるハードボイルドとノワールの最大の相違点は、「主人公に感情移入ができるか否か」です。

いや、主人公が強固な意志の持ち主であるか否かと言い換えた方がわかりやすいかもしれません。

 

ハードボイルド小説の主人公は、過酷な現実に直面しても感情に流されず、己の信念を貫くために命懸けで抗います。

一方、ノワール文学の主人公の多くは、意志の弱さゆえにどこまでも転落し、破滅へとひた走ります

 

 

わたしたち人間は、理性と本能の狭間で絶えず葛藤しながら日々を生きています。生存本能に打ち克つほどの強い意志の持ち主が、わたしたちの中にどれだけいるでしょうか。

ハードボイルド小説はそういう意味で一種のファンタジーであると言えますが、ノワール文学は残酷なまでに自然主義的です。

 

自然主義文学とは
物事を美化せず、現実をありのままに描写しようとする立場から描かれた文学作品の総称。19世紀後半のフランスにおいて、小説家エミール・ゾラ(Émile François Zola)によって定義された。

日本の代表的な作家に、島崎藤村、田山花袋、永山荷風らがいる。

 

ノワールとハードボイルド、どちらに感情移入をしやすいかは火を見るよりも明らかでしょう。

 

次のページではノワール文学がどのように発生していったのかを解説していきます。

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著者:國谷正明

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