2.5次元舞台の「映像技術」の注目するのがおすすめな理由

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2.5次元舞台は映像・照明・音響などの「裏側」に注目するのがおすすめ!刀の効果音は刀の長さや種類によって音が変えられていたり、裏側に秘められた技術や工夫に目を向けると2.5次元舞台の楽しみ方の幅が広がります!観劇後は必ず「観劇ノート」を書いている観劇マニアが解説します!

『2.5次元舞台の「裏側」の楽しみ方 ~照明・映像・音響・裏方観劇を知る~』(全8ページ)はこちらから!

著者:零音(れおん)

小学生の時に劇団四季を見てから舞台の虜になっていく。現在はブロードウェイミュージカル・2.5次元ミュージカル・ストレートの舞台を観劇。観劇後は必ずキャスト・スタッフの方々に感想のお手紙を書くため、目を引いた所などは観劇ノートに書いている。裏方に注目し独学で勉強している。

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2.5次元舞台に使用されている「映像技術」

 

2.5次元舞台を鑑賞するにあたって、原作を先に見た方は「現実世界で再現できないようなアクションやシーンを舞台でどう表現するのか?」という疑問を持たれることがあると思います。

実際に私も、何作品かは「絶対に再現は無理だろう」と思っていたものがありました。現実世界で、影分身などできるはずもないし、いきなり氷の柱を出現させたり、何の道具もなしに火をおこしたりはできません。

この物理的に再現することが難しい部分の演出方法で用いられているのが「映像技術」です。

このページでは2.5次元舞台の「映像技術」の使用方法や、映像技術を堪能する上でのおすすめ作品をご紹介します。「原作」と「再現された映像」を比較すると、映像スタッフや演出家がどういった点にこだわって映像を作っているかなどが想像でき、より楽しみ方が広がります。

 

映像技術の使用方法

 

2.5次元舞台では「プロジェクションマッピング」「スクリーン上に投影される映像」が用いられています。

まずはこれらの映像技術がどのように使用されているのかをお伝えします。

 

プロジェクションマッピング

 

プロジェクションマッピングは、プロジェクターで立体物の表面に映像を映し出す手法です。各地のイベントで建築物に投影されて用いられています。

舞台の場合は、舞台セットに直接ビル街などの町並みを投影するなど、シチュエーションを明確にするために用いられたりしています。

使用例としては、舞台「PSYCHO-PASS:virtue and Vice」があげられます。

▼舞台「PSYCHO-PASS:virtue and Vice」ゲネプロ映像

 

舞台「PSYCHO-PASS:virtue and Vice」は、「人々の精神が数値化された近未来」という世界観で、冒頭から映画マトリックスに出てくるような数字やアルファベットの羅列が背景に流れてきます。

さらに物語中盤には公園を表す精密な映像が流れたり、高層ビルが立ち並ぶ背景が映し出されたり、CGを駆使した映像がセットに映し出され、まるで実際に物語の中に入り込んだような錯覚を覚えます。

 

スクリーンに投影される映像

 

スクリーンに投影される映像は、「舞台上に投影される」という点ではプロジェクションマッピングと同じですが、キャストが映し出されたりするなど、「背景」ではなく「動画」が映し出されることが多いです。

例えば、ミュージカル「刀剣乱舞」の最初の作品である「阿津賀志山異聞」では、キャラクター紹介時に大きなスクリーンでアクションシーンが映し出され、映像と全く同じ動きで舞台上のキャストも動く演出方法が用いられています。

また、同作品で主人公が最後の敵と対峙した時に「真剣必殺」という技を出します。この時に原作のゲームと同じように、衣装に穴が開いたり、体に傷が入ったりする映像が映し出され、その後にキャストが同じ格好で舞台上に登場するという演出方法が用いられています。

▼ミュージカル「『刀剣乱舞』 ~阿津賀志山異聞~」ゲネプロ

 

映像技術を堪能する!おすすめ作品

 

「どのようなシチュエーションで映像技術が使われるているのか」という使用例にも目を向けると、より映像技術への理解が深まることでしょう。

2.5次元舞台の映像技術を堪能する上でおすすめの作品を、映像技術の使用例ごとにご紹介いたします。

 

① ストーリーの中(「NARUTO」「僕のヒーローアカデミア」)

 

アニメを原作としたストーリーを舞台で再現する上では映像技術を欠かすことができません。

ストーリーの中で映像技術が使用されている作品でおすすめなのが「NARUTO」や「僕のヒーローアカデミア」です。現実世界とはかけ離れた「技」などを映像技術によって見事に表現されています。

 

「NARUTO」では忍の技を表現するために使われています。

影分身の術や、大蛇のキャラクターの尾の部分などを舞台上のセットに投影する事によって、舞台上では表現が難しい演出を可能にしています。

舞台上での役者の動きとも合わせる必要があるため、細かい修正や打ち合わせなどが必要です。

▼舞台「NARUTO-ナルト-~暁の調べ~」公開ゲネプロ 映像技術を用いたシーン(0.30~)

 

また「僕のヒーローアカデミア」では、キャラクターそれぞれの「個性」と呼ばれる技をクリーン上に投影し、その映像に合わせて役者が技の動きをするという演出方法がされています。

▼舞台「僕のヒーローアカデミア The “Ultra” Stage」公演ダイジェスト映像

 

② 小道具(舞台「刀剣乱舞」)

 

さらに高度な演出として「小道具に映像を投影する」という方法も使われています。

例えば、舞台「刀剣乱舞」ではエンディングでキャスト全員が番傘を持って踊る場面があるのですが、その番傘に役名を投影し挨拶をする演出があります。

これはキャストの立ち位置や番傘を開く速度やタイミングなどが揃わなければ、成り立たない演出であるために、とても入念なリハーサルが繰り返されています。劇場も変わるので、舞台の幅が少しずつ違うことにも対応しなければなりません。

高度な映像技術により、現実にはない世界が舞台で表現されていること、また大きなアクシデントもなく無事に終わることができているのは、スタッフとキャストの皆さんの力あってこそです。映像技術では、そうしたスタッフさんとキャストさんの努力や技術にも目を向けると、さらに楽しみ方の幅が広がるでしょう。

▼舞台「『刀剣乱舞』慈伝 日日の葉よ散るらむ」Blu-ray/DVD CM(番傘の演出がある舞台「刀剣乱舞」)

 

映像技術を堪能するならDVDと舞台はどちらがおすすめ?

 

実際に劇場で鑑賞するとDVDと違い、舞台全体が見渡せるので、他のキャラクターが何をしているか、舞台全体で何を表現しているかを見ることができます。また、迫力や臨場感も劇場の方が感じられます。

観劇に行く際は、事前に原作を読んでから行くと「あのシーンはこんな演出の工夫がされているんだ!」「この部分の映像凄いな!」など新しい発見があると思います。

一方、DVDで鑑賞する場合は、映像を集中して見ることができるので、気になった部分を繰り返し見たり、詳細な映像技術を見ることができます。

劇場やDVDでは映像技術の楽しみ方に違いがあります。いずれにしろ、映像技術にも目を向けて映像スタッフさんの技術の結晶を楽しんでいただけたらと思います!

 

さて、ここまでは「照明」「映像技術」について解説してきましたが、次のページからは「音響効果」について解説いたします。音響効果こそ2.5次元舞台を作り上げる上で最も難しい部分だと思います。

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2.5次元舞台の音響効果の楽しみ方③ 【ミュージカルと舞台の音楽の使われ方の違い】

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これまでは音響効果の「効果音」に重きを置いて説明してきましたが、ここでは「音楽」についてもふれたいと思います。

ミュージカルでもストレートプレイ(=ミュージカルではない演劇)でも音楽は世界観を表現する場合に重要になってきますし、回想シーンや重要シーンではドラマチックな演出をすることができます。

ミュージカルとストレートプレイでは、音楽の使われ方や意味合いが異なる部分があります。

これらの違いを知ってから見ると、2.5次元舞台の楽しみ方の幅はさらに広がることでしょう。

 

「刀剣乱舞」に見るミュージカルと舞台での音楽の表現方法の違い

 

「刀剣乱舞」は、アニメ・映画と様々なメディアミックスを展開していますが、はじまりは「刀剣乱舞-ONLINE-」というゲーム。

「刀剣乱舞」というひとつの作品に対して、同時期に別の制作会社がそれぞれ舞台化しており、ミュージカル「刀剣乱舞」と舞台「刀剣乱舞」があり、キャストや内容は異なります。

ここではミュージカルと舞台の両方が作られている「刀剣乱舞」を例に、ミュージカルと舞台での音楽の使われ方の違いについて説明したいと思います。

舞台「刀剣乱舞」とミュージカル「刀剣乱舞」の音楽の使われ方の違いを知れば、その他の舞台とミュージカルの見方も変わるかと思います。

 

ミュージカル「刀剣乱舞」の音楽の使い方

 

ミュージカル「刀剣乱舞」の殺陣の場面では、登場人物の心情は歌やダンスで表現され、音楽に乗せて行われることがあります。

ミュージカル「刀剣乱舞」では重要なシーンなどで音楽が流れ、キャラクターの心情を歌やダンスで表現するという演出方法が多く使われるのです。

「刀剣乱舞 」の一番最初の作品である「阿津賀志山異聞」の本公演の前にトライアル公演(=本公演の前の試験的な公演)というものが行われていました。

「登場人物が矛盾を感じ、自分のあり方について考えていた」という重要な場面で、トライアル公演の時は台詞を言うだけの演出で、役者もどうすれば観客に伝わるのかを稽古時に試行錯誤しながら演じていました。

本公演時にはその場面が歌に変更になっており、より観客に感情が伝わりやすくなっていました。「台詞」にするか「歌(音楽)」にするかで、観客が受け取る印象は変わります。そういったことも考慮され、ミュージカルは作られているのです。

ミュージカルは、台詞で伝えなければならないこともある上に、歌やダンスも組み込まれるため「歌唱力」「音楽の解釈力」「ダンススキル」が求められます。

さらに芝居パートの後にはライブパートもあります。ゲームを原作としたそれぞれのキャラクターが「もしダンスや歌を歌ったらどうなるか」を想像して演出がされています。

「音楽」の要素に絡んで演者の技術や演出力が「ミュージカル」には要求されるのです。

▼ミュージカル「刀剣乱舞 ~阿津賀志山異聞~」ゲネプロ公開

 

舞台「刀剣乱舞」の音楽のつけかた

 

さて、ミュージカル「刀剣乱舞」の場合は、重要なシーンでは音楽が流れてキャラクターの心情をダンスや歌で伝えるということをお伝えしました。

舞台「刀剣乱舞」では重要な場面でも音楽が流れることもありますが、無音のままキャストが台詞を話すという演出方法がとられています。

また、舞台「刀剣乱舞 悲伝 結いの目の不如帰」の2人のキャラクターのそれぞれの思いがぶつかり合うラストシーンでは音楽ではなく、照明や殺陣などの演出で見せ場が作られていました。

舞台「刀剣乱舞」もミュージカル「刀剣乱舞」も演じるという部分では同じですが、舞台の方では、音楽ではなく台詞だけで観客にキャラクターの感情を伝えなければならないため演技力や物語の解釈力などが求められます。

▼舞台「刀剣乱舞 悲伝 結いの目の不如帰」ダイジェスト映像

 

重要なシーンを「音楽」で表現するシーンが多い「ミュージカル」と、「台詞」で重要なシーンを表現することが多い「舞台」。

どちらも演出家が違うため、物語の進め方や着眼点が全く違うので、違いを比較するのも面白い見方だと思います。

また、重要なシーンでの音楽の使われ方や、殺陣の場面の音楽の違いなどにも着目すると、舞台とミュージカルを比較する楽しみも感じられると思います。

「刀剣乱舞」は舞台もミュージカルもとても良い作品が多く、演出も素晴らしいので何回見直しても新しい発見ができます。

 

ここまで音響効果についてお伝えしてきましたが、次のページからは「裏方観劇」の魅力についてお伝えします。まずは、「メイク・衣装・小道具・舞台セット」で注目すべき点についてお伝えします。

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2.5次元舞台の「照明」に注目するのがおすすめな理由

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−舞台の幕が開く時、劇場の明かりが一斉に消され、舞台上の役者が明るい光の中物語を進めてゆく−

さて、演劇で欠かせない演出効果の一つが「照明」です。

特に2.5次元舞台にとっては、照明での見せ方によって原作イメージやキャラクターのイメージがガラッと変わることもあります。

ここでは、照明の劇中での使われ方や、照明に注目する上でのおすすめ作品をご紹介します。

 

2.5次元舞台の照明の注目すべきところ

 

2.5次元舞台はジャンル自体が新しいものです。さらにアニメや漫画という非現実の世界を表現するため、これまで使われてなかったような技術が組み込まれています。

実験段階のものやこれまでの技術の応用などの要素が盛り込まれており、最先端の舞台技術を堪能できる楽しさがあるのです。

2.5次元舞台の照明では

「現実世界ではありえない舞台を表現するための工夫」

「新たな舞台演出技術」

この2点に注目して観劇すると、2.5次元舞台の楽しみ方の幅が広がります。以下では実際にどのように照明が使われているのか、実例を挙げながら解説します。

 

照明を楽しむ上で注目すべき作品!照明での劇中での使われ方!

 

照明はキャストを照らすだけではなく、様々な用途で使用されています。その使い方を知ればきっと驚くことでしょう。

 

① 小道具を表現

 

照明を「小道具」を表現するために使用する舞台もあります。

その代表的な作品といえばやはり「ミュージカルテニスの王子様(通称:テニミュ)」でしょう。

試合中のボールがライトで表現されています。

▼試合中のボールをライトで表現している様子(0.08秒)

 

初めてテニミュを観劇した時に「ライトがボールになってる!」と感動した覚えがあります。

一口に「ライトでボールを表現する」といっても、簡単なことではありません。

「キャストのラケットの動き」と「ライトの動き」をうまく合わせないといけないので照明スタッフもキャストも大変だったと、これまで演じてきた方々がインタビューで答えています。

ここで使用されているライトの種類は「ピンスポットライト」。「ピンスポットライト」は主役やシーンごとの重要なキャラクターが際立つように当てられる照明です。

テニミュではライトを絞って小さくしてボールに見せています。こんな使い方があるなんて目から鱗でした。

▼一般的なピンスポットライトの使われ方のイメージ

 

ピンスポットライトは「どんな色で、どの位の明るさで、どの位の長さで」使うのかがとても難しく、高度なテクニックと入念なリハーサルが必要なのです!

もし、テニミュを見る機会があれば、ぜひ注目して見てください!

 

 

また、舞台「文豪ストレイドックス」では、登場人物が異能力という特殊能力を使いますが照明と映像により、原作に近くなるよう演出されています!

照明に模様をつけて異能力空間を再現したり、アンサンブル(=役がついていない人)の持つ布に照明を当て、うごめいている様に見せるという演出方法がされています。こちらもテニミュと合わせて注目してほしいです。

▼舞台「文豪ストレイドックス」公開ゲネプロ

 

② 様々な世界を背景で表現

 

照明は、季節の移り変わりの演出などでも活躍しています。

季節の移り変わりや場面の移り変わりは主に、舞台上の背景を変えることができる照明を使います。

例えば、森の中を表す場合は緑の照明を、海辺や青空の表現であれば青色や水色などの照明を使用します。

私がこれまで見てきた中で、最も綺麗だと感じた背景の照明は舞台「煉獄に笑う」の「村が焼け落ちるシーン」と「深い森の中のシーン」です。

「火事」「森」を表現する場合はバックスクリーンや舞台の後ろから、火事であれば「赤」、森であれば「緑」の照明を使用されることが多いのですが、この作品はに工夫が凝らされています。

火事を表現する場合、この作品では赤い照明だけでなく、炎が揺れる様や炎の大きさなどが投影された映像と連動してオレンジの照明が照らされるなどの工夫がされています。

そのため、本物の火がなくても、とても臨場感のある火事の現場が表現されているのです!

「深い森の中のシーン」を表現する場合は、この作品では緑を使うだけでなく、白色や木漏れ日や葉の濃淡なども表現されており、リアルな森の中のシーンが表現されています。

この作品では、キャラクターの登場シーンやアクションシーンなども魅力的な照明の使われ方をしていますのでおすすめです。

▼舞台「煉獄に笑う」(ゲネプロ)

 

2.5次元舞台に使用されている照明の種類

 

2.5次元舞台では様々な照明が使用されています。照明の種類の違いにも目を向けることで楽しみ方の幅が広がるでしょう。

照明はたくさんあるので、ここでは代表的な照明の中から「サスペンションライト」「バックサス」の2つの照明の使われ方について解説いたします。

 

① サスペンションライト

 

「サスペンションライト」は、舞台上部にある照明。主にスポットライトとして使用される照明です。

2.5 次元舞台では、回想シーンでの語りの人物や、違う空間にいるキャラクターが話す時によく照らされます。

「サスペンションライト」の使い方で、演出家がどこに重きを置いて演出したいと思っているかがよく分かります。

原作では軽く流されている場面でも、キャラクターの関係性を明確にするために、あえてサスペンションライトを当ててセリフを言う場面も見られたりします。

演出家の考えが垣間見えるという点だけでなく、原作との違いも見つけられるので、注目すると面白みがあると思います。

 

② バックサス

 

バックサスは、サス(=サスペンションライトの略)を客席に向けて照らす明かりです。

これは客席から見て逆光になるため舞台上が見えなくなる照明です。

バックサスは「戦いの前など素早く場面転換をしたい時」や「舞台上でキャラクターが時空移動するような内容の時」に使われています。

使用例としては、舞台「刀剣乱舞:悲伝結いの目の不如帰」です。物語終盤のシーンで、キャラクターがこれまでの時間を移動する場面がありますが、ここでバックサスが使われています。

バックサスは、注目すべきシーンの前や重要なシーンの前に使われることが多いです。バックサスの使われ方にもぜひ、注目してみてください。

 

DVDよりも現地鑑賞の方がおすすめ

 

DVDの鑑賞では、キャストメインで写るのでカメラワークによってどうしても切り取られる部分が出てきます。

そのため、演出の詳細な部分を見ようとしても見られない場合の方が多く、照明を観察する点では、DVDは劇場で鑑賞するより面白みは半減すると感じます。

劇場での鑑賞は、自分の好きな所を見ることができたり、常に舞台全体が見渡せたりするので、照明を見るのならば劇場での鑑賞をおすすめします。

 

ここまで、照明についてご紹介しました。

細かい部分かもしれませんが、少しでも原作の世界観に近づけようとたくさんの工夫がされています。

注目してみると2.5次元舞台の楽しみ方が広がると思います。

 

次のページでは2.5次元舞台の「映像技術」についてお伝えします。現実とはかけ離れた世界を舞台化するためには「映像技術」が欠かせないのです。

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2.5次元舞台の音響効果の楽しみ方① 【おすすめ作品 舞台「刀剣乱舞」】

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音響効果とは

 

音響効果とは「舞台上の演技に効果音をつけたり、映像と一緒に音楽を流したりする演出」のことです。

キャストさんたちの歌やセリフはピンマイクを通して客席に届きますが、小道具の音などは大きな舞台だと音が吸収されてしまい客席には聞こえません。

しかし、マントをバサッと翻している音がなかったり、刀で戦ってるのに、金属音がしなかったらリアル感がないですよね?

そこで用いられる演出が「音響効果」です。

「物語に合わせて音楽を流す」のも音響効果の一つですが、舞台では主に「効果音」の音響効果が用いられます。刀のつばぜり合いの音や鞘から刀を抜く音、ドアの音やマントの裾さばきの音などを流します。

 

音響効果に注目するのがおすすめな理由

 

私は2.5次元舞台を見る時はかならず音響効果に注目して観劇します。

その理由は、効果音と音楽こそ2.5次元舞台を作り上げる上で最も難しい部分であると考えているからです。

すでにアニメなどで音が作られている場合は、そこから連想したり、その音を用いて音を作り出すことは可能でしょう。

ただ、漫画や小説が原作だった場合、物語の中の「音」は想像することでしか作り出せません。

「漫画の世界の人物が武器を振り回す」などの音は、原作からヒントを得つつ「何から音を作るのか」「何と何を組み合わせて音を作るのか」「現実世界では何に近い音なのか」試行錯誤しながら探らなければなりません。しかもその音が、聞き手に伝わらなければ意味がないのです。また、舞台ではその場で役者の動きにも合わせて効果音を出す必要もあります。

このようなところは音響技術の腕の見せ所であり、注目すると面白いところであると感じています。

 

音響効果を堪能するなら!おすすめは舞台「刀剣乱舞」

私が総合的に音響効果が優れていると感じる作品は、舞台「刀剣乱舞」です。

この作品は、エンディングでキャストが番傘を持ち音楽に乗せて歌ったり踊ったりします。また、毎回担当の方が作品に沿った舞台オリジナルの曲を作曲されているので音楽でも楽しめますが、基本的にはストレートプレイ(=ミュージカルではない演劇)であるためミュージカルに比べると音楽は重要視されません。

舞台「刀剣乱舞」の音響効果で最も素晴らしいのは「効果音」です。

 

一度観劇された方はお分かりになるかと思いますが、初期の作品では出演する刀剣男子が6〜7人程度でしたが、「悲伝:結いの目の不如帰」(4作目)「慈伝:日日の葉よ散るらむ」(5作目)の2作品は出演する刀剣男子の人数が一気に増えます。

そのため、集団で行う殺陣シーンでは効果音をつけるのが大変難しいのですが、一つ一つのアクションに効果音が付いているのではないかというほど、ほぼ全ての部分に音が付いています。

▼舞台「『刀剣乱舞』悲伝 結いの目の不如帰」ダイジェスト映像

 

また、マントを被っているキャラクターのマントの音も、「翻す音」「走っている時にたなびく音」「少し払う音」など、行動によって全ての効果音が異なります。

刀に関する効果音も刀の長さや種類によって音を変えたり、刀の振り方や鞘からの出し方・収め方によっても音を変えているので、臨場感やリアル感を最大限楽しむことができます。

実際に刀剣乱舞の音響担当の方は「短刀、打刀、太刀、大太刀はシュン、ヒュン、ブゥン、ブォーンと全部イメージを変えている」とおっしゃっていました。つまり、それぞれの刀によって音を全て変えているということです。

なんとなく見ているとなかなか気づかないところかもしれませんが、「音響効果」にはこれほどまでに工夫が凝らされているのです。

もしこれから、アクションシーンのある2.5次元舞台を見る方は最初はストーリーを楽しんで、2回目は音に注目してみてはいかがでしょうか。

 

 

さて、このページでは舞台「刀剣乱舞」を例に挙げて、音響効果、特に「効果音」の工夫についてお伝えしてきました。

次のページでは「効果音の作り方」についてお伝えします。効果音の作り方を知ることで、さらに音響効果についての理解が深まり、2.5次元舞台の楽しみ方の幅が広がることでしょう。

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本当は深いaikoの歌詞 ~コアなファンが語る3つのキーワード~


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はじめに

aikoに対して「いかにも恋に恋する恋愛ソングばかり」と感じている方も少なくないかもしれません。ただそれはある種の「誤解」なのです。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当て、ファン歴20年の筆者が彼女の歌詞世界の魅力をお伝えします。

実は誤解されているaikoのイメージ ~深淵な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

この章ではaikoのこれまでの軌跡を通してaikoが「誤解される理由」「20周年を越えてもなお愛される理由」をお伝えします。

aikoはなぜ誤解されるのか?
20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

この章ではaikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説します。aikoの楽曲に対する「かわいい」「明るい」「元気」といったイメージが大きく変わことでしょう。

① 哀愁
② 渋みとエグみ
③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

「もっとaikoの曲を聴いてみたい!」と思った方に向けて隠れた名曲を紹介します。

隠れた名曲満載!カップリング曲
おすすめアルバム

著者:MAKO

1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

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実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

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第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

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aikoのラブソングの魅力とは

 

シンガーソングライターaikoの魅力って何だと思いますか?

「aiko」の名前から多くの人がイメージするのはおそらく、元気に歌う姿、年齢を重ねてもかわいらしいルックス、ファッションセンス、関西人ならではのトークセンス、そしてもちろん、切ないラブソング…などではないでしょうか。

では、無数のラブソングが日々生み出されるJ-POP界において、aikoのラブソングが20年以上にわたって広く受け入れられ、多くのファンを獲得してきた理由とは?

「花火」や「カブトムシ」は聞いたことがあるけど、最近のaikoの歌はよく知らない…という人も多いでしょう。

もしかすると「aikoのラブソングってどれも同じように聞こえる」「他のアーティストのラブソングと何が違うのかわからない」「いかにも恋に恋する恋愛ソングばかり」なんて感じている人も、少なくないかもしれません。

 

実は「誤解」されている?aikoのイメージ

 

冒頭に挙げたように「aikoならでは」の魅力はいくつもあり、どれも正解と言えます。

しかし長年aikoの楽曲に親しんできた一ファンの視点から分析すると、「ラブソング職人aiko」としての魅力は小説的ともいえる「深遠な歌詞世界」の中にこそ表れていると感じます。

「深遠」という表現を意外に感じる人もいるかもしれません。

aikoの一般的なイメージはおそらく「かわいい」「明るい」「元気」といったものが中心でしょう。

しかしその一般的なイメージこそが、aikoの幅広い人気を支えていると同時に、狭めているとも言えるのです。

このWebonがそういったある種の「誤解」を解くことで、aikoの楽曲の多面的な魅力を多くの人に「再発見」してもらうきっかけになればいいなと思います。

 

アルバム『秋 そばにいるよ』の衝撃

 

かくいう筆者も、aikoのことを「誤解」していた一人でした。

彼女のテレビ出演の機会が徐々に増えていった1999年頃は、歌番組での明るく元気な振る舞いや「花火」などのアップテンポな楽曲のイメージからか、「最近流行ってるラブソング」程度の認識だったと記憶しています。

声や音楽の種類そのものが好みだったためよく聴いてはいましたが、まさか自分が20年も追いかけ続けるコアなファンになるとは、当時は思ってもみませんでした。

比較的ライトなファンだった筆者がコアなファンへと変わったきっかけは、2002年発売のアルバム『秋 そばにいるよ』との出会いです。

▼アルバム『秋 そばにいるよ』

 

「花火」「カブトムシ」「ボーイフレンド」という怒涛のヒット連発と、それに伴う余波も落ち着きを見せた時期にリリースされたこのアルバム。

タイトル通り「秋」のような静けさと憂いを帯びた、それまでのaikoとは少し違った印象を与える一枚でした。

バラードが多いから、という単純な理由だけではありません。

歌詞に描かれている世界が、それまでより明らかに深みを増しているように感じられたのです。

というより、もともとaikoの歌詞に備わっていた小説的な深みが、「誰もが知っているヒット曲」という色眼鏡を外されたことによって、ようやく浮き彫りになったと言った方が正しいかもしれません。

 

深遠な歌詞世界との出会い

 

このアルバムとの出会いをきっかけに、それまであまり聴いてこなかったカップリング曲や、ブレイク前にリリースされたファーストアルバム『小さな丸い好日』、そしてなじみのあるヒット曲も、改めて歌詞に注目して聴いてみるようになりました。

すると、一見「かわいい」aikoの歌詞に秘められた底知れぬ魅力、「切ない」「甘い」という言葉だけでは到底カバーしきれない、まさに「深遠な歌詞世界」が目の前に立ち上ってきたのです。

aikoが描く歌詞の世界は決して「切ない」「甘い」だけではなく、「恋に恋する恋愛」だけを歌っているわけではないのだ、と気付いた瞬間でした。

 

このWebonではaikoの歌詞の特徴を3つに分け、それぞれに「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」というキーワードを与えました。

aikoの楽曲になじみのない人からすると、意外すぎるキーワードかもしれませんね。

でも読んでいただければきっと「aikoの曲をもう一度きちんと聴いてみたい!」と思ってもらえるはずです。

このWebonを読んで「aikoを聴いてみたいけど、どれから聴けばいいかわからない」「どこが魅力なの?」「歌詞をもっと深く読み解きたい」というファンや未来のファンの皆さんに「なるほど、そういう楽しみ方もあるのか」と感じてもらい、aikoを(もっと)好きになる一つのきっかけにしてもらえたなら幸いです。

 

まずは1章でaikoの歴史を振り返り、aikoの一般的なイメージと深遠な歌詞世界とのギャップが生成されてきた過程を再確認しつつ、2章では上記3つのキーワードに沿って具体例とともにaikoの歌詞を読み解きます。

3章ではこれからもっとaikoを聴いてみたい!という人に、おすすめの作品をご紹介します。

『本当は深いaikoの歌詞』目次へ  (全8ページ)

 

目次著者

はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

おすすめアルバム

著者:MAKO

1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoの軌跡を通して知る。aikoはなぜ誤解されるのか?

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

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はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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この章ではaikoのこれまでの軌跡を通してaikoが「誤解される理由」「20周年を越えてもなお愛される理由」をお伝えします。背景を知ることで、aikoの「歌詞」に切り込む意味を知っていただきたいと思います。

 

aikoの楽曲に対する「誤解」を増幅させている理由は、彼女がデビューしてからブレイクするまでの音楽界(特に女性シンガー界隈)の風潮が大きく関係していると感じております。

このページではaikoの一般的なイメージと深遠な歌詞世界とのギャップが生成されてきた過程を再確認していきましょう。

 

年表

▼このページで解説する出来事

年月 出来事
1995年5月 19歳の時にTEEN’S MUSIC FESTIVAL ’95「アイツを振り向かせる方法」でグランプリ受賞
1996年4月~ FM大阪のラジオパーソナリティとして活躍
1997年12月 インディーズアルバムリリース
1998年7月 メジャーデビュー
1999年8月 3rdシングル「花火」
1999年11月 4thシングル「カブトムシ」
2000年2月 5thシングル「桜の時」
2000年9月 6thシングル「ボーイフレンド」

 

デビューまで

 

2019年6月に発売されたシングル集『aikoの詩。』のジャケットには、ピアノに向かう4歳頃のaikoの写真が使われています。

▼シングル集『aikoの詩。』

歌手になる夢はこんなに小さな時からすでに芽生えていたとのこと。

「どうしたら歌手になれるか?」と模索する中、aikoが「シンガーソングライター」という形にたどりついたのは、意外にも高校を卒業した後のことでした。

音楽短大へと進んだaikoは19歳の時、生まれて初めて出場した音楽コンテスト、「TEEN’S MUSIC FESTIVAL」でグランプリを受賞します。ステージで歌ったのは自身が初めて作詞作曲した曲。

のちにシングル「桜の時」にカップリング曲として収録される、「アイツを振り向かせる方法」(コンテスト時の表記は「アイツをふりむかせる方法」)でした。

底抜けに明るい曲ですが、かすかに憂いのある歌詞が印象的です。まさにaikoの原点であり、すでに「ラブソング職人」としての魅力的な要素が詰まっています。

その後FM大阪のラジオパーソナリティとして活躍するようになったaikoは、1997年にはインディーズアルバム『astral box』のリリースも果たします。そして1998年、ついにメジャーデビュー。この年は、音楽業界にとっても非常にメモリアルな1年でした。

 

1998年の特異性

 

1998年は、実は「日本でCDが最も売れた年」。80年代から90年代にかけて花開いたJ-POPの、ある意味ピークとも言える時期でした。

その1998年の特異性をさらに際立たせているのが、この年にデビューしたアーティストたちの顔ぶれの豪華さ。

特徴的なのはいわゆる「歌姫」と呼ばれる女性ソロアーティストが多いことです。しかも、それぞれに抜きんでたインパクトを持っています。

「圧倒的な歌唱力」のMISIA、

「女子高生のカリスマ」浜崎あゆみ、

「エロティックで尖った表現力」の椎名林檎、

「アメリカ育ちの15歳バイリンガル、しかも2世シンガー」の宇多田ヒカル。

デビューから20年以上を経た今もなお、それぞれに活動を続けています。

そしてaikoも、1998年デビューの歌姫の一人でした。

しかしaikoの一般的なイメージは、前述の歌姫たちが武器とする「強烈な個性」や「他の追随を許さない○○」といったカテゴリーとは少し異なるのではないでしょうか。

aikoの最大の武器は、いわば「等身大の魅力」。

強烈な個性を放つ歌姫たちの中で、aikoの持つ「普通さ」や「身近さ」、「親しみやすさ」といった要素が、逆説的に「強烈な個性」として彼女の人気を不動のものにしたと言えます。

 

親しみやすさについての「誤解」

 

1999年発売の3rdシングル「花火」をきっかけにメディアへの出演が増えはじめ、「カブトムシ」「桜の時」とヒットが続きます。

▼aiko「花火」

 

2000年発売の「ボーイフレンド」はオリコン週間チャートで最高位2位を記録し、この年紅白歌合戦への初出場も果たしました。

▼aiko「ボーイフレンド」

 

こうして「ボーイフレンド」はaikoの楽曲をあまり聞いたことがない人々へも広まり、「明るいラブソングを歌う元気な女の子」としてのイメージが定着していきます。

小柄でかわいらしいルックス、関西人ならではのトークセンス、「ボーイフレンド」をはじめとするわかりやすいラブソング、その全てが「親しみやすさ」へとつながっていきます。

確かに「親しみやすさ」はaikoの大きな魅力の一つであり、個性であると言えます。しかしその大衆イメージによって、aikoの楽曲の魅力さえも「親しみやすさ」という枠の中に閉じ込められてしまったところがあります。

同期デビューのシンガーソングライターである椎名林檎や宇多田ヒカルの楽曲は、デビュー当時からその芸術性や奥深さがしばしばメディアで取り上げられてきました。

aikoも全くないわけではありませんが、そのような文脈で語られる機会は比較的少ないのが事実です。

こうした違いには、アーティストがブレイクする過程で定着してしまった「イメージ」というものが少なからず影響しているでしょう。

 

たとえばaikoの代名詞のようになっている「ボーイフレンド」ですが、実はこの曲はaikoの数ある楽曲の中でも群を抜いて明るく、歌詞の上でも「陽」の部分が全面に出ている、どちらかというと少数派の異色作です。

aikoの歌詞世界は「陰」と「陽」の絶妙なバランスが魅力であり、aikoの「陰」の表現はまさに「隠し味」として作品における重要な役割を果たしています。

※aikoの歌詞世界については第2章(現在第1章)にて解説いたします。

 

「明るさ」ももちろんaikoの魅力ですが、その「明るさ」の魅力を際立たせ根底から支えているのは、あまり表には出てこない、彼女の持つ「陰」の表現なのです。

「かわいい」「明るく元気」「共感しやすい」といったaikoの楽曲に対する「陽」のイメージは、大勢の人に受け入れられる「親しみやすさ」を育てました。

しかしそれと同時に、楽曲の奥深さに気付かせる機会を奪っている可能性があります。

ブレイクした時期が違えば、彼女が担うイメージや役割はもしかすると今とは少し違ったものになり、こういった「誤解」は生じなかったかもしれません。

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

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aikoが20周年を越えてなお愛される理由

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoの「変わらない」魅力

 

aikoの「親しみやすさ」は時にある種の「誤解」も招きますが、それが彼女の魅力であることは紛れもない事実です。

そして何よりすさまじいのは、その「親しみやすさ」がデビューから20年以上経った今でも変わらないことです。

「変わらない」というのはaikoを語る上で重要なキーワードです。

 

 

改めて振り返ってみると、メディアへの出演ペース、作品発表ペース、ライブ開催ペース、本人のビジュアルイメージ、作風、パッケージデザイン、ありとあらゆる点において、aikoにはデビュー以来大きなブランクや変化がないことに驚かされます。

具体的には、デビューからほぼ毎年シングルをリリースし続け、オリジナルアルバムも2年以上発表の間隔を空けることはほとんどなく、テレビ、ラジオをはじめとするあらゆるメディアにコンスタントに出演。

ほぼ毎年全国ツアーを行い、SNSが普及した今なお携帯会員に向けて自らメールを配信し、大幅に活動範囲を広げることもなく、いつの日も等身大のラブソングを作り、歌い続ける……。

見方によっては「マンネリ」とも捉えられかねない活動スタイルですが、aikoの「変わらなさ」は、もはやブランドの証と言っても過言ではありません。

 

一方で、同期デビューの歌姫たちの歩みは変化に富んでいます。

メディアへの出演頻度が時期によって大きく増減したり、場合によっては活動休止期間があったり、作風やビジュアルイメージがアルバムごとに大きく変化したり、活動の幅を大きく広げたり……。

20余年という月日、それも若者から大人へと成長するプロセスの中で音楽活動を行っているのですから、ある意味起きて当然の現象でしょう。

 

 

それを踏まえれば、aikoが「変わらない」のは偶然でもましてやマンネリでもなく、本人があえて変わらないことを選び、意識的に歩んできた結果だとわかります。

そして、その過程をあくまで自然に見せているところが、プロフェッショナル・aikoの真骨頂と言えるでしょう。

作風、ビジュアル、リスナーとの距離、全てが変わらずに保たれてきたという安心感は、マンネリどころか、結果としてファンとの信頼関係をますます強めています。

 

「深化する」歌詞世界の魅力

 

しかしいくらaikoが変わらないからといって、何一つ変わらないわけではありません。

その変化を最もわかりやすく実感できるのが、まさにこのWebonのテーマである彼女の「歌詞世界」なのです。

それは変化というより「深化」と呼ぶにふさわしいものです。

 

aikoの歌詞にはデビュー当初から小説的な奥行きや情緒がありますが、彼女が年齢を重ねるにつれ、また新しいアルバムが発表されるたびに、その味わいはより豊かなものになっています。

しかしこのことは、ファン以外にはあまり知られていないのが現状です。

 

前のページでご紹介した「親しみやすさ」というイメージに加え、aikoに対して「誤解」を招きやすいのが、「恋愛の曲ばかり」というやや浮ついたイメージでしょう。

事実として、aikoの歌詞は恋愛をテーマにしたものが大半です。全楽曲のうち99%以上が恋愛をテーマにしていると言ってもおおげさではありません。

aiko自身、ややネガティブなニュアンスで「恋愛の曲しか書けない」と語ることがあります。このようなイメージが先行してしまうと、リスナー層がある程度狭まってしまうのは仕方のないことです。

 

確かに、たまたま見た音楽番組で出だしの部分を聴いただけでは、aikoの「深化」を実感することはできないかもしれません。

しかし一見浮ついた「恋に恋する恋愛ソング」は、あくまでaikoの深遠な歌詞世界への入り口です。

aikoが描く本質は、「恋愛」というフィルターを通した「愛」そのものなのです。

そのことをお伝えするために、いよいよ次のページからは具体的にaikoの歌詞世界をご案内します。

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

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aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード 【① 哀愁】

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aikoの歌詞世界の魅力をファン歴20年の筆者が紹介!aikoに対して恋に恋する恋愛ソングばかりと感じているとすれば、それは誤解です。コアなファンにとってのaikoのキーワードである「哀愁」「渋み・エグみ」「普遍的な愛」に焦点を当てaikoの歌詞世界を解説!

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実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

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第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoの一般的なイメージはおそらく「かわいい」「明るい」「元気」といったものが中心でしょう。ただ、aikoの楽曲に親しんできた一ファンの視点から分析すると、「ラブソング職人aiko」としての魅力は小説的ともいえる「深遠な歌詞世界」の中にこそ表れていると感じます。

この章ではaikoのイメージに対する誤解を解くため、aikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説いたします。

このページでは「哀愁」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説します。

 

aikoの歌詞を読み解くキーワード「哀愁」

 

「aikoの歌を聴くと好きな人を思い出して胸がきゅんとする」「昔の恋を思い出して切なくなる」…そんな感想をよく耳にします。

「切なさ」を感じられるかどうかは、ラブソングの価値を測る上で重要な要素です。

一方で「切ないラブソング」の定義は幅広く、失恋や片思いをテーマとしていれば、たいてい「切ない」というキャッチコピーがついてしまうのも事実です。

そのせいか「切ないラブソング」という言葉自体に特に重みはなく、かえってありきたりな印象を与えることさえあります。

本当の切なさを感じられるラブソングと、ありきたりなラブソングとを隔てるものは何でしょうか。

 

aikoの歌詞を読み解くことで浮かび上がってくるキーワードは「哀愁」です.

aikoの歌詞は「好きな人に会えなくて寂しい」「好きすぎて苦しい」などのラブソングにありがちな場面を切り取る一方で、決して「恋している今」だけにフォーカスしないという特徴があります。

常に離れたところから客観的に「恋している今の自分」を見つめている別の視点があり、それはたいてい「終わりを知っている自分」です。

 

 

「終わりを知っている自分」は、時に「生き死にレベル」までリスナーを連れて行ってしまいます。

それはもはや「切なさ」というラブソングに多用されがちなキーワードでは伝えきれない、「哀愁」と呼ぶにふさわしい情感です。

「切なさ」を越えたこの「哀愁」こそがaikoのラブソングを真に切ないものにしていると思っています。

ここからは具体的にaikoの歌詞を分析し「哀愁」の秘密に迫りたいと思います。

 

歌詞に見る哀愁の例①「カブトムシ」

▲aiko「カブトムシ」music video short version

 

まずはaikoの代表曲の一つである「カブトムシ」の歌詞に注目してみましょう。

aikoの曲をあまり詳しく知らない人も、「少し背の高いあなたの耳に寄せたおでこ」というサビのフレーズを耳にしたことがあるでしょう。

好きな人へのまっすぐな思いを歌い上げていることから、結婚式のBGMに使用する人もいると聞きます。改めて歌詞を見てみましょう。

 

悩んでる身体が熱くて 指先は凍える程冷たい
「どうした はやく言ってしまえ」 そう言われてもあたしは弱い
あなたが死んでしまって あたしもどんどん年老いて
想像つかないくらいよ そう 今が何より大切で…

引用:aiko「カブトムシ」

 

語り手は「悩んでる身体」や「指先」の温度を通してリアルタイムの「今」を感じながらも、次の瞬間には「あなたが死んで」「あたしもどんどん年老いて」しまった「人生の終わり」へと唐突に視点を移動させます。

「想像つかないくらいよ 今が何より大切で」と一旦「今」に戻ってくるものの、2番の歌詞では季節の移り変わりの描写とともに、視点は再び未来へと移っていきます。

 

強い悲しいこと全部心に残ってしまうとしたら
それもあなたと過ごしたしるし そう 幸せに思えるだろう

引用:aiko「カブトムシ」

 

語り手は「あなた」と過ごした日々が終わる日を再び想像します。

数分間のうちに「今」の幸福感と「終わり」への不安を行ったり来たりしながら、「生涯忘れることはないでしょう」というリフレインとともに曲はエンディングを迎えます。

曲の前半に出てくる「死」というヘビーワードによって、リスナーは否応なく終わりを意識させられ、この曲が単なる幸せなラブソングではないことに気がつきます。

この曲で描かれる恋の終わりは「死」であり、「あなた」が死んだ後の「あたし」の心境にまで描写が及んでいます。「恋する今」だけにフォーカスしたラブソングとは一線を画した、ある種の切迫感が漂う作品です。

 

歌詞に見る哀愁の例②「シアワセ」

▲aiko「シアワセ」music video short version

 

もう一つ例を挙げましょう。

2007年リリースのシングル「シアワセ」の冒頭の歌詞です。

 

隣で眠ってるあなたの口が開く そして笑った
どんな夢見てるの?気になる…出来ればあたしが出てきたらいいのに

引用:aiko「シアワセ」

 

隣で眠る好きな人を見つめて幸せをかみしめている描写や「シアワセ」というタイトルのイメージからか、この曲もまた結婚式で使われることが多いようです。ところがサビの歌詞を見てみると、一筋縄ではいかないことがわかります。

 

二人何処かで廻るストーリー 生涯離れてしまっても
あなたの一歩になるならば 幸せに思える日が来るのです
(中略)
二人何処かで廻るストーリー 静かに終わりが来たとしても
最後にあなたが浮かんだら それが幸せに思える日なのです

引用:aiko「シアワセ」

 

「カブトムシ」同様、繰り返し「終わり」の予感がつづられています。むしろ覚悟はできていて、それすらも幸せに感じられるという、刹那的な恋愛感情を越えた愛情の描写です。

「最後にあなたが浮かんだら」というフレーズは、まるで「あなた」がいなくなった後の「あたし」の人生の終わりの場面を語っているようで、一気に哀愁が漂います。AメロやBメロがフワフワした幸福感に満ちているだけに、コントラストが際立っています。

 

こうした描き方はaikoの楽曲において頻繁に見られる特徴でありながら、あまり一般には認知されていません。

ともすれば重く暗くなりかねないモチーフを含んでいるにもかかわらず、あくまで親しみやすいポップスとしての形態を保っているのはなぜでしょうか。

第1章で言及した「明るく元気」など彼女の「イメージ」が関係していることはもちろんですが、親しみやすいポップスとしての形態を保っているのは、歌詞の表現が内省的であることが理由の一つでしょう。

主人公である「あたし」は未来への不安や終わりへの恐れを感じつつも、歌詞の言葉が「あなた」へ投げかけられることはありません。「マイナスな感情ほど内に秘める」というのもaikoの歌詞の特徴です。

一歩間違えれば深い情念になり得る感情の表現を内省にとどめることで、そこに「媚び」や「あざとさ」が生じるのを防ぎ、爽やかさが保たれています。

さりげない「哀愁」の表現で切なさを増幅させながらも、決して「恨み節」ではない内省的な語りをベースとすることで、受け入れられやすい「真に切ないラブソング」が完成しているのです。

 

以上、このページでは「哀愁」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説しました。

次のページではaikoの「渋みとエグみ」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説します。

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

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aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード 【② 渋みとエグみ】

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① 哀愁

② 渋みとエグみ

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1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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aikoの一般的なイメージはおそらく「かわいい」「明るい」「元気」といったものが中心でしょう。ただ、aikoの楽曲に親しんできた一ファンの視点から分析すると、「ラブソング職人aiko」としての魅力は小説的ともいえる「深遠な歌詞世界」の中にこそ表れていると感じます。

この章ではaikoのイメージに対する誤解を解くため、aikoが描く歌詞の世界を「哀愁」「渋みとエグみ」「普遍的な愛」という3つのキーワードに分けて解説いたします。

このページでは「渋みとエグみ」というキーワードからaikoの歌詞の世界の魅力を解説します。

 

aikoの歌詞を読み解くキーワード「渋みとエグみ」

 

ラブソング専門であることや小柄な外見のイメージが影響してか、aikoの楽曲は「かわいい」「甘い」といったカテゴリーに分類されがちです。

ところが実は、その歌詞世界はときにシビアで、よい意味で甘くありません。

甘くない」を通り越して「渋み」や「エグみ」を感じることさえあります。

 

 

「渋み」や「エグみ」を感じる秘密はaikoの歌詞の特徴の一つである「物語的な場面展開」にあると言えるでしょう。

具体的に言うと曲の途中でガラリと状況が変わったり、後半で種明かし(伏線を回収)する語りの手法が用いられているのです。

「最後まで聴かないとわからない」、小説のようなaikoの歌詞の魅力についてご紹介します。

 

小説のような歌詞の例① 「二人」

▲aiko「二人」music video short version

 

2008年発売のシングル曲、「二人」の冒頭の歌詞を例に挙げましょう。

 

夢中になる前に 解って良かった
もう一度だけ手が触れた後だったら
きっとダメだっただろう 怖くなってただろう
止まらぬ想いに 止まらぬ想いに

引用:aiko「二人」

 

何が「夢中になる前に 解って良かった」のか、明らかにされないまま歌詞は次のように続きます。

 

隣に座って声を聞いた
何が好きなの?何が嫌いなの?
今 こっちを向いて笑ったの?
あたしに向かって笑ったの?

引用:aiko「二人」

 

サビ以降も、恋に恋するハイテンションな歌詞のオンパレードです。

音楽番組などでこの曲の1番だけを耳にした人は、「甘ったるいラブソングか」「ありがちな片思いの曲なんだろうな」、その程度の感想で終わってしまうかもしれません。

明るい曲調も手伝って、aikoの楽曲は往々にしてそういった「早合点」をされやすい傾向にあります。

ところが2番にさしかかると、さほど甘くない物語の展開が見えてきます。

 

あたしの背中越しに見てた
その目の行き先を 香るあの子の
甘い瞳を見ていたの?
甘い仕草を見ていたの?

引用:aiko「二人」

 

好きな人に好きな人がいたことを知らないまま「あたし」が一人勝手に盛り上がっていた事実が明かされました。

これによって「夢中になる前に解って良かった」という出だしのフレーズの伏線がようやく回収されます。

ここで終わればただの失恋物語なのですが、さらにaikoはたたみかけます。

 

あなたはあたしの時を止めた 帰りの道が見えない

引用:aiko「二人」

 

「あたし」の引き返せない気持ちを綴ることによって、「夢中になる前に 解って良かった」というフレーズとの矛盾を浮き彫りにします。

恋の終わりのエピソードと見せかけて、ここからまた新たな物語が展開しそうな含みがあります。

最後に注目したいのがタイトルの「二人」です。「二人」というキーワードは曲のラスト付近でようやく登場します。

 

一緒に撮った写真の中に夢見る二人は写っていたのね

引用:aiko「二人」

 

「二人」は「あたしとあなた」とも取れますが、「あなたとあの子」を指しているという解釈もできるでしょう。

そう考えると、タイトル自体が大変皮肉な響きをもつようになります。

単純そうに見えた物語に奥行きが生まれ、最後に向かって点と点が線でつなるような感覚を聞き手に与えます。

 

このように、aikoの楽曲は大事なことが後半で語られることが多く、甘いと思っていたシチュエーションが途中からじわじわと渋みやエグみを増してくることがあるのです。

さらにタイトルさえもその渋みを増幅させる役割を担うため、物語の全容がつかめた後に改めてタイトルを見ると、これまでとは異なる余韻を味わえるというおまけもついてきます。

物語が展開するうえで重要な部分(2番の歌詞)が歌番組ではカットされてしまうため、aikoの歌詞にある繊細な物語の魅力が伝わらないまま「ありきたりなラブソング」という判断をされてしまうことが多いのです。

 

小説のような歌詞の例②「気付かれないように」

 

もう1曲ご紹介しましょう。

アルバム『彼女』に収められた「気付かれないように」の冒頭の歌詞です。

シングル曲ではありませんが、ベストアルバム『まとめⅠ』にも収録されています。

 

久しぶりに逢ったあなた 照れ隠しに髪を触った
よみがえってくる思い出が 溢れぬ様に大人ぶって

引用:aiko「気付かれないように」

 

「あなた」と「あたし」の関係はこの段階ではっきりとは描かれません。

わかるのは昔好きだった人に再会した場面らしいということだけです。

さらにタイトルの「気付かれないように」が意味するものさえ、曲の前半では明らかにされません。

再会した「あなた」になかなか近況を聞き出せない「あたし」のじれったい思いが、歌詞の緩やかな展開を通して体感できる一曲です。

種明かしは2番のサビの歌詞にあります。

 

勇気を出して笑って問いかけた 今の事 今の彼女
すごく好きだよと照れて髪を触る 昔のあなたを見た
気付かないように 気付かれないように

引用:aiko「気付かれないように」

 

「今の彼女」というフレーズによって、「あたし」が「昔の彼女」であり「あなた」に対して今も抱いている自分の気持ちに「気付かれないように」していることが明らかになります。

シングル曲「二人」と同様、物語の核心部分を後半に取っておくことで、小説のページを一枚一枚めくるような期待を聞き手に抱かせる効果があります。

こうした特徴を持つaiko作品では、最後に行きつくのはたいてい「甘くない」結末です。

入り口の「甘さ」と中身の「渋さ」「エグさ」とのギャップは、まさに恋愛体験そのものであり、そのリアルさが共感を呼ぶのでしょう。

 

このような小説的な展開はaikoの歌詞世界の主要な特徴の一つですが、テレビやラジオではいまひとつ伝わりにくいのも事実です。

一瞬のフレーズに重要な意味合いが込められているため、ぼんやりと曲を聞いているだけでは気付くことができず、歌詞を見て改めて腑に落ちるという場合が多いでしょう。

しかし一度気付いてしまうとクセになる魅力です。

 

音楽といえばダウンロードが主流となった今も、aikoはCDを出すことに強いこだわりを持っています。

「歌詞カードを見ながら聴く」という昔ながらの楽しみ方が、aikoの作品を堪能するうえで欠かせないものだから、というのもCDにこだわりを持つ理由の一つではないでしょうか。

 

以上、このページでは「渋みとエグみ」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説しました。

次のページではaikoの「普遍的な愛」というキーワードからaikoの歌詞世界の魅力を解説します。

『本当は深いaikoの歌詞』目次へ  (全8ページ)

 

目次著者

はじめに

実は誤解されているaikoのイメージ ~深遠な歌詞世界の魅力~

第1章 aikoという「存在」を理解する

aikoはなぜ誤解されるのか?

20周年を越えてなお愛される理由

第2章 aikoの歌詞世界を理解する3つのキーワード

① 哀愁

② 渋みとエグみ

③ 普遍的な愛

第3章 今聴くべきaikoおすすめ作品

隠れた名曲満載!カップリング曲

おすすめアルバム

著者:MAKO

1980年代生まれ。aikoのファン歴20年。aikoの楽曲は全曲カラオケで歌うことができる(息継ぎまで再現できる)。子供の頃から母親の影響で60~70年代の邦楽・洋楽を聴いて育つ。中学3年の時aikoと椎名林檎の楽曲に出会い、青春を捧げる勢いでのめり込む。洋邦問わず、深みのある詞を書く、艶っぽい声のシンガーソングライターが大好き。今一番気になるアーティストは吉澤嘉代子。

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