落語初心者入門はこちらから!
著者:ミドケン
落語が大好きなフリーライター。10年程前に落語にはまって以来、ほぼ毎日落語を聴いている。お問い合わせはこちらから
『落語初心者入門』目次へ (全23ページ)
ここまでの第1章では落語の基本的な情報をお伝えしてきました。
この第2章では【定番編】【滑稽噺編】【人情噺編】に分けて3ページにわたって初心者におすすめの11の古典落語をご紹介します。このページでは【定番編】と題して「定番の落語」と「個人的におすすめしたい落語」を紹介します。
古典落語の演目の数は現在寄席で演じられているのは200~300くらいと言われており、やる人がほとんどいないものも全部合わせると、その数は500とも800とも言われています。その中から厳選しておすすめします。
定番落語
まずは誰でも演目名だけは聞いたことがあるであろう有名な定番古典落語をご紹介します。とてもわかりやすくて短い噺ばかりなので、古典落語初心者でも楽しめますよ!
1 寿限無(じゅげむ)
あらすじ
とある若夫婦に男の子が生まれる。
息子に長生きしてほしいから縁起の良い名前をつけたいと、父親の八五郎は寺の和尚に相談しに行く。
和尚はいくつもの名前を候補として提案。
八五郎は「どれもおめでたいから全部つけちゃえ」ということで、息子はとんでもなく長い名前になってしまいます。
▼つけられた名前(一例)
縁起の良い名前のおかげか息子はすくすくと成長するが、両親や友達など周りの人たちは長い名前をいちいち呼ばなければならない。
–ネタバレ–
大きくなってわんぱくになった息子。ある日「八五郎の息子になぐられてこぶができた」と八五郎の家にいいつけにきた子がいた。
「あーん、あーん、あのねぇ、おばさんのところの寿限無寿限無、五劫のすりきれ・・・(中略)・・・長久命の長助が、あたいのあたまをぶって、こんな大きなこぶができたよ」
「あらまあ金ちゃんすまなかったね。あんたきいたかい、うちの寿限無寿限無、五劫のすりきれ・・・(中略)・・・長久命の長助が金ちゃんのあたまにこぶをこしらえたんだって」
「じゃあなにかい、うちのうちの限無寿限無、五劫のすりきれ・・・(中略)・・・長久命の長助がこぶをこしらえたっていうのか。どれ金坊見せてみろ。こぶなんかないじゃないか」
「あんまり名前が長いから、こぶがひっこんじゃった」
–ネタバレ終わり–
みどころ
長い名前が引き起こしてしまうドタバタがシンプルで面白い噺です。
この噺を聴けばあなたも必ず「じゅげむじゅげむ~」と口にしたくなるはずです!
2 まんじゅうこわい
あらすじ
町内の若い男たちが集まって嫌いなものや怖いものについて話をしている。
ずっと黙っている辰さんに、どんなものが怖いかと聞いたら
「こわいものなんかない」
と答える。
腹が立った男たちが本当にないのかとしつこく聞くと、辰さんは「まんじゅうが怖い」と打ち明ける。
それを聞いた男たちは「ちょいといたずらをしてやろう」と計略を練る。
辰さんを脅かしてやろうと菓子屋から大量に饅頭(まんじゅう)を買ってきて、まんじゅう攻めにするが・・・。
–ネタバレ–
饅頭と聞いただけで震えだす辰さんは、布団をかぶって寝てしまう。
男たちは辰さんを怖がらせようと「気付け薬だよ」と言って枕もとに大量の饅頭を置く。
男たちが辰さんを見てみると「まんじゅうが怖い」と言いながら辰さんは饅頭を食べている。
してやられた男たちは辰さんに問う「オイ!食うのをやめろ!本当は何が怖いんだ!?」
「ここらで渋いお茶が一番怖い」と辰さんは答える。
–ネタバレ終わり–
みどころ
自分を酷い目に遭わそうとしていることを知ってか知らずかわかりませんが、まんまと連中を騙してしまう辰さんの頭の良さに思わず感心してしまいます。
小学校に呼ばれた落語家が子供たちの前で演じることも多い、万人を楽しませる秀逸な落語です。
「まんじゅうこわい」は桂文珍さんがおすすめです。
桂文珍さんは、1980年代以降「ニューウェーブ落語」と称したパフォーマンスがヒットしテレビ17本のレギュラーを持つようになりました。
独演会のチケットは入手困難と言われています。そんな文珍さんの「まんじゅうこわい」を是非お聴きくださいませ。
▼桂文珍(15)「宿替え」/「饅頭こわい」-「朝日名人会」ライヴシリーズ28 Live
3 時そば
あらすじ
天秤棒をかついで歩くそば屋を、ある男が呼び止める。
▼天秤棒をかつぐ人
男はそばを注文。男は、割り箸・どんぶり・つゆ・麺、とにかく何でもかんでも褒めまくりながらそばを食べる。
男は食べ終わり、勘定を支払う時になって
「細かい銭で払う。手の上の銭を置くから手を出してくれ」
と言い、一枚一枚銭を店主の手の上に置いていく。
「十六文だったね。ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー、なな、やー」
と8まで数えたタイミングでそば屋の店主に「今何時だい?」と尋ねる。
「9時」と店主が答えると、9を飛ばして「とお、じゅういち、じゅうに・・・」と数えはじめて勘定をごまかす。
その様子を陰からこっそり見ていた男がいた。
翌晩、男は小銭を用意し、昨晩見たの男の真似をしようとそばを食べに出かける。
昨晩の男のと同じように振る舞おうとするが、どうにもうまくいかない。
そして勘定を支払う段になって・・・。
–ネタバレ–
「じゃあいいかい、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、やっつ、いまなんどきだい?」
「へえ、四刻(よっつ)で」
「いつつ、むっつ、ななつ、やっつ・・・」
–ネタバレ終わり–
みどころ
「時そば」は上方落語の「時うどん」が東京に移植されてできた噺で、内容はほぼ同じです。そばをすするリアルな描写も楽しめます。
「時そば」は柳家小三治(やなぎや こさんじ)さんの作品がおすすめです。
小三治さんは存命する唯一の人間国宝の落語家であり「最後の名人」とも称されています。飄々とした表情でぶっきら棒にしゃべる語り口や、芸に厳しい姿勢などもあり「孤高の落語家」とも呼ばれています。
▼落語名人会(37)~柳家小三治13 初天神/時そば(CD)
▼柳家小三治さんについては第4章で詳しく紹介しています!(現在第2章)
個人的におすすめな古典落語
ここからは私が初心者の人に個人的におすすめしたい古典落語をご紹介します。
4 はてなの茶碗
あらすじ
京都清水のとある茶店で、京都一の目利きと言われる「茶金」という男が茶を飲んでいた。
茶金はふと茶碗に目を止め、不思議そうにひねくり回しながら「はてな?」とつぶやく。
これを見ていた油屋(油を売る商売人)の男。
あの茶金が注目するなら値打ちがあるものに違いないと、半ば強引に茶店の主人から茶碗を買い取る。
その後、油屋は茶金の店に茶碗を持って行き、茶碗を見てもらうが「値打ちがない」と言われてしまう。
油屋は茶店で「茶金さんが不思議そうに茶碗を見ていたところを見ていた」と伝えると、茶金は「この茶碗はどこも割れていないのに水が漏れるのが不思議だった」と言い、油屋はがっかりする。
気の毒に思った茶金は茶碗を買い取る。
そしてこの茶碗のことを周囲の人間に話すと「割れていないのに漏れる茶碗の話」があっという間に広がる。関白という地位の高い人の耳に入り、この茶碗についての句を詠み上げるなどをして茶碗の価値が上がる。そして最終的に千両で売れてしまう。
–ネタバレ–
茶金さんは千両の半分を油屋に渡す。喜ぶ油屋。
数日後、茶金さんの店を訪れる油屋。
そして「十万八千両の儲けや!」と言う油屋。茶金さんが「なんやて?」と驚くと「水瓶の漏れるやつ。見つけて来た」と油屋。
–ネタバレ終わり–
みどころ
価値のないはずの安い茶碗にどんどん値がついていく過程が面白い。
最後にまた油屋が現れる、楽しいオチ(サゲ)にも注目です。
「はてなの茶碗」は桂米朝さんの作品がおすすめです。
上方落語界初の人間国宝の米朝さん。巧みな話術とギャグセンスに溢れた米朝さんの「はてなの茶碗」を是非堪能ください。
▼特選!!米朝落語全集 第四集(DVD)
5 松山鏡
あらすじ
鏡のない松山村に、「正直正助」という男が住んでいた。
親孝行な正助の評判が領主に届き、ごほうびがもらえることに。
望みを聞かれた正助は、死んだ父親にもう一度会いたいと言う。
すると領主は、箱に入れた鏡を取り出す。
正助が箱の中を覗くと中の鏡に正助の顔が映る。
鏡を知らない正助は、父親に会えて大感動。
領主は他人には見せないようにと申しつけ、箱に入った鏡をほうびとして与える。
正助は納屋(=物置小屋)のつづらの中に箱を隠し、毎朝、毎晩、そこへ足を運び、鏡に向かって話しかける。
▼つづら
By Ocdp – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
それを不審に思った女房のお光が、正助の留守に納屋へ行き、つづらのふたを取って鏡に映った自分の顔を見る。
同じく鏡を見たことがないお光は、正助が女をかこっていると思いこみ、帰って来た正助を問い詰め、夫婦ゲンカに発展してしまう。
–ネタバレ–
ちょうど表を通りかかった尼さんが夫婦喧嘩の仲裁に入る。
事情を聴く尼さん。女房のお光は「あれは女だ」と言い、正助は「あれは父だと」言う。尼さんが「自分が会ってよく言い聞かせる」と鏡を覗く。
そして尼さんが「ふふふ、お光よ、正さんよ、喧嘩せねえがええよ。おめえらがあんまりえれえ喧嘩したで、中の女ぁ、尼になって詫びている」と言う。
–ネタバレ終わり–
みどころ
鏡が珍しい時代ならではの噺です。
出てくる人物がすべて善人で、ほのぼのとした世界観が味わえます。
次のページでは、ただただ笑えるおもしろい落語である「滑稽噺」を3つ紹介したいと思います。
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