【芝浜】あらすじや見所など落語ファン歴10年による解説!

 

落語は「噺の終わりにオチがある、おもしろおかしい落語」滑稽噺と「心温まるような人情を描いた落語」である人情噺というジャンルに分けることができます。

人情噺の中でおすすめなのが「芝浜」です。

このページでは「芝浜」のあらすじや、どの落語家の「芝浜」を聴くのがおすすめかなどを徹底解説いたします。

 

※このページは10年前に落語にはまって以来ほぼ毎日落語を聴いているミドケン氏による『落語初心者入門』の内容をWebon編集部がまとめたものです。また、このページの情報の一部は落語作家なかむら治彦氏の『読んで楽しい落語の演目と知識』を参考にしております。

▼『落語初心者入門』(全23ページ)

 

「芝浜」とは

 

人情噺(感動する落語演目)の定番中の定番。

夫婦愛がテーマの落語として最も有名なのが、暮れによく高座にかかる『芝浜』でしょう。

酒好きで仕事をしない魚屋の亭主を女房がなだめすかして市場に行かせると、亭主が大金の入った財布を拾って帰宅。こんな大金があると仕事をしないから…と、女房は「財布は夢だった」と亭主に思い込ませて働かせ、三年後の大晦日に一部始終を告白するという話。

登場人物は亭主と女房の二人だけですが、演者によってはディテールをみっちり描写して40分以上かけた迫真の高座を繰り広げます。

(解説:なかむら治彦)

 

あらすじ

 

腕はいいのに酒ばかり飲んでぜんぜん働かない魚屋の勝五郎。

いつものようにぐうたら寝ている勝五郎を女房が叩き越こし「今日こそは働いてくれ」と、魚河岸(うおがし=魚市場のある河岸のこと)へ仕入れに行かせる。

渋々出かける勝五郎。

しかし朝早すぎて一軒の問屋も開いていない。

時間を潰そうと浜に出て一服つけていると、すぐそこに革の財布が落ちている。中を見ると驚くような大金。

家に戻って女房に財布を見せ「これでもう働かなくても楽しく遊んで暮らせる」と浮かれる勝五郎。仲間を集めてさんざん飲んで、酔っぱらって寝てしまう。

 

 

翌日、女房に起こされた勝五郎は「昨日の酒代のツケをどうするんだ」と女房に言われ「例の拾った金で払えばいいだろ」と返すが、女房は「そんな財布は知らない。夢でも見たんじゃないのかい」と呆れる。

探しても財布がないものだから女房の話を信じるしかない。

自分の情けなさを恥じ「これからは酒を断って真面目に仕事をする」と女房に誓う。

もともと腕はいい魚屋のこと、3年後には自分の店を構え、若い衆を雇うまでになる。

 

 

そして大晦日、勝五郎は女房と二人で除夜の鐘を聞きながら今までの苦労話をしていると、女房が大金の入った革の財布を取り出した。

「あれは夢じゃなかったんだよ、お前さん」

「でも、あのときおめえは夢だと・・・」

女房は手をついて謝りながら、なぜ嘘をついたのか、その理由を語り始める・・・。

 

–ネタバレ–

 

女房は勝五郎が「商いをやめて遊んで暮らす」というから、どうしようかと思って大家さんに相談に行った。そこで「夢だということにした方がいい」という助言をもらう。

女房は「なまけものに戻らないように隠してきた。腹が立つならぶつ蹴るしてもいい」と言うが、夫は女房の行動に感謝する。

女房は怒られると思っていたので、機嫌直しのためにお酒を用意していた。それを振る舞おうとする女房。

上機嫌で飲もうとする勝五郎だったが「だが待てよ」と躊躇する。

女房が「どうしたの?」と伺うと

「よそう、また夢になるといけねえ」と答える

 

–ネタバレ終わり–

 

みどころ

 

人情噺といえば「芝浜」と答える人が多いほど人情噺の代表的な古典落語です。

勝五郎の女房は落語に登場する女房の中でも、これぞ「女房の鑑」という人物。

笑いどころも多く、でも最後はほろっとさせてくれる秀逸な噺です。昭和30年代には故・萬屋錦之介(よろずや・きんのすけ)主演で「江戸っ子繁昌記」というタイトルで映画化されているほど秀逸な噺です。

 

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実は落語がお芝居になることはずっと昔からあって、歌舞伎では『芝浜革財布(芝浜)』などの人気演目があります。

 

「芝浜」の誕生の経緯

▲初代三遊亭圓朝

 

「芝浜」を作ったのは「近代落語の祖」と称される初代三遊亭圓朝(1839-1900)だといわれています。

初代三笑亭可楽(さんしょうてい からく)が始めたとされる「三題噺」というものがあります。これはお客さんからお題を3つもらい、それを使った落語をその場で作って演じるというものです。

落語の名作「芝浜(しばはま)」は圓朝が三題噺で作った演目といわれています。(『笹飾り』『増上寺の鐘』『革財布』という3つのお題で作られたと言われています。

 

 

 

「芝浜」が十八番の落語家

七代目立川談志

名前 七代目 立川談志(ななだいめたてかわだんし)
生年月日 戸籍上は1936年1月2日(実際は1935年12月2日生まれ)/没年2011年11月21日
「自身が司会を務めるでラジオ番組でゲストを残して途中で帰る」「居眠りした客を追い出す」など破天荒な行動が目立ち、好き嫌いが分かれる落語家。独自の落語の型を持ち落語家としての評価は著しく高い。日本テレビ「笑点」の初代司会者を務める。また同番組は談志が企画して実現したものである。ヘアバンドやメガネを愛用し、自身のあごや頬をなでたりする癖、また「やだね~」などの口癖があるなどの個性的な振る舞いがあり、よくものまねされる対象となった。

 

談志さんの十八番として真っ先に挙がる噺が「芝浜」です。

談志さんの「芝浜」は落語史に残る傑作であり、談志さん自身こだわりを持って演じていました。

注目なのは、従来の落語からすると過剰とも思えるほどの「感情移入の凄さ」です。

登場人物に完全に入り込み、実際にそこにその人物がいて喋っているのではないかと思わせるほどの圧倒的な迫力があります。

特に2007年によみうりホールで演じた「芝浜」は、「伝説の名演」として落語界で語り継がれています。

「落語の神様が談志に乗り移って登場人物に台詞を喋らせた」といわれるほど圧倒的に凄い「芝浜」であったそうです。

「芝浜」は、落語通ではない人でも最も談志落語の「凄み」を感じやすい演目だと思います。

 

▼2007年よみうりホールで行われた「伝説の名演」の「芝浜」が収録されている作品

⚫談志CD大全 21世紀BOX

 

立川談志さんについて詳しくは「落語初心者入門」にて紹介! 立川談志さんについて詳しくは「落語初心者入門」にて紹介!

 

三代目 古今亭志ん朝

名前 三代目 古今亭志ん朝(さんだいめ ここんてんしんちょう)
生年月日 1938年3月10日/没年2001年
落語初心者が聴いてもわかりやすいのが特徴。戦後の東京落語家を代表する「落語四天王」の1人である。また「東の志ん朝、西の枝雀」と称されることもあった。「ビール」「焼きおにぎり」など数多くのCMに出演しており、高級ふりかけ「錦松梅」のCMのキャラクターとして知名度を獲得する。父は5代目古今亭志ん生。テレビ・映画にも数多く出演しフジテレビ「サンデー志ん朝」では司会をつとめる。芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

 

「江戸前のダンディズム」「粋な江戸っ子噺家」などといわれる志ん朝さんは、とにかく粋で本格的な江戸っ子落語家であったといいます。

江戸言葉を自在に操る志ん朝さんの話芸を聴いていると、そこにリアルな江戸の情景がありありと浮かび上がってきます。

なぜそうしたものが身についていたのかは、確かなことはわかりません。ただ、やはり「明治に生まれた芸人の家庭で育つ(父は落語家・五代目 古今亭志ん生)」という、宿命的な生い立ちが志ん朝さんの芸人としてのベースにあるのではないかと思います。

並みの芸人のように10代の後半から20代で弟子入りするのと、その家庭で生まれ育つのでは芸人として、そして人としての”成分”が違ってくるのではないでしょうか。

志ん朝さんの十八番「芝浜」。志ん朝さんの気持ちのいい江戸弁によって、江戸に生きた夫婦の日常をリアルに描き出しています。

 

▼志ん朝さんの江戸っ子を堪能できる「芝浜」が収録されている作品

⚫落語名人会(14)[CD]

 

古今亭志ん朝さんについて詳しくは「落語初心者入門」にて紹介! 古今亭志ん朝さんについて詳しくは「落語初心者入門」にて紹介!

 

「芝浜」を聴く方法

 

「芝浜」を聴くには、以上でおすすめしたCDを購入して聴く方法もありますが、音声の配信サービスを利用するという方法もあります。

以下では「芝浜」が聴けるサービスを紹介いたします。

 

audible

 

audibleでは「芝浜」を聴くことができます。

audibleはベストセラー小説からビジネス書、英字新聞まで、20以上の豊富なジャンルを音声で聴ける定額制サービスで、落語作品も数多く収録しています。人間国宝・五代目柳家小さん(やなぎや こさん)さんも収録。名だたるレジェンドたちの演目が手軽に聴けます。

 

▼audible公式サイト(プロナレーターの朗読配信サービス。無料お試し有)

 

Spotify

 

Spotifyでも「芝浜」を聴くことができます。

Spotifyは音楽ストリーミング配信サービスですが、落語のコンテンツも充実しているのでおすすめです。

立川志らく(たてかわ しらく)、春風亭一之輔(しゅんぷうてい いちのすけ)、三遊亭白鳥(さんゆうてい はくちょう)、など、今をときめく落語家のラインナップが豊富なのが特徴です。

 

Spotifi公式サイト (音楽ストリーミングサービス。無料。(有料版有))

 

以上「芝浜」の紹介でした。その他落語の人情噺の演目についてさらに詳しく知りたい方は下記のページをご覧くださいませ。

 

また『読んで楽しい落語の演目と知識』では落語の演目の中から、あなたの好みにピッタリと合った落語演目をご紹介いたします。

▼『読んで楽しい落語の演目と知識』(全10ページ)

 

さらに「落語のマクラって何?」「どこで落語は観れるの?」など基礎から落語を学びたい方は『落語初心者入門』をぜひご覧くださいませ。

▼『落語初心者入門』(全23ページ)

七代目 立川談志 【おすすめ落語名人9選】

Webon紹介目次著者
落語は誰が聴いてもわかりやすく面白い芸能です。落語の基本的な知識や初心者におすすめの演目の紹介、実際に落語を楽しむ方法などを通じて落語(特に古典)の魅力についてお伝えします。

落語初心者入門はこちらから!

著者:ミドケン

落語が大好きなフリーライター。10年程前に落語にはまって以来、ほぼ毎日落語を聴いている。お問い合わせはこちらから

 

『落語初心者入門』目次へ  (全23ページ)

 

この第4章では9ページにわたって落語名人を紹介しております。

このページでは、破天荒な言動や行動で好き嫌いが分かれる落語家「七代目 立川談志」を紹介します。

 

▼おすすめ落語名人9選!それぞれのページで詳しく紹介!

 

七代目立川談志とは

名前 七代目 立川談志(ななだいめたてかわだんし)
本名 松岡 克由(まつおか かつよし)
生年月日 戸籍上は1936年1月2日(実際は1935年12月2日生まれ)/没年2011年11月21日
弟子 ・立川志の輔(「ためしてガッテン」の司会)
・立川談春(エッセイ「赤めだか」がTBSでドラマ化)
・立川志らく(2017年上半期のブレイクタレント部門1位にランクイン)
「自身が司会を務めるでラジオ番組でゲストを残して途中で帰る」「居眠りした客を追い出す」など破天荒な行動が目立ち、好き嫌いが分かれる落語家。独自の落語の型を持ち落語家としての評価は著しく高い。日本テレビ「笑点」の初代司会者を務める。また同番組は談志が企画して実現したものである。ヘアバンドやメガネを愛用し、自身のあごや頬をなでたりする癖、また「やだね~」などの口癖があるなどの個性的な振る舞いがあり、よくものまねされる対象となった。

 

略歴

 

東京府東京市小石川区(現在の東京都文京区白山)に生まれた談志さん。1952年に高校を中退し、16歳で五代目柳家小さん(やなぎや こさん)に入門し「柳家小よし(やなぎや こよし)」と名乗ります。

 

▼五代目柳家小さん


▼柳家小さんについて詳しくは前ページにて!

 

1954年(18歳になる年)に二つ目昇進を果たし「柳家小ゑん(やなぎやこえん)」に改名。

▼落語家の階級

落語家の階級については第1章で詳しく解説!(現在第4章)

▼1959年柳家小ゑん時代の七代目立川談志

 

1963年(27歳の年)に「七代目 立川談志」を襲名して、真打昇進を果たします(襲名は七代目だが色々と思うところがあって、本人は五代目を自称している)。

談志さんは若手時代から「天才現る!」と騒がれ、早くからテレビなどのメディアにも進出し人気者となります。

落語家としては評価が高く「落語界の風雲児」「落語の革命家」「天才落語家」など、数々の異名を持ち多くの落語ファンから愛されました。

一方でその型破りで破天荒な言動から、好き嫌いがはっきりと分かれる落語家でもあります。

 

七代目立川談志のココが面白い!

① 政治家になる

 

押しも押されぬ人気落語家であった談志さんは、1969年(33歳の年)に衆議院議員選挙に出馬して世間を驚かせました。

前年の1968年に石原慎太郎・青島幸男・横山ノックなど、タレント候補といわれた人が全員当選しました。それを受けて談志さんは「タレント議員がブームなら、それに乗らない奴は芸人じゃない」という理由で出馬したと言います。

初めての選挙は落選しましたが、1971年(35歳の年)に参議院議員選挙に出馬して当選。

1975年(39歳の年)には沖縄開発庁政務次官になりますが、わずか1カ月で辞任します。二日酔いで記者会見に臨んだことが辞任の引き金となったようです。

記者から「公務と酒とどちらが大切なのか」と聞かれ「酒に決まってるだろ」と返したというから驚きですね。

結局、議員活動は参議院議員1期6年だけで終わりました。

 

② 落語立川流創立

 

1983年(47歳の年)真打昇進制度に不満を持ち(二つ目から真打に昇進する判断基準などがおかしいと)、落語協会会長であった師匠・柳家小さんと対立して破門となります。

同年、落語協会を脱会し「落語立川流」を創立。落語界初の家元制度(トップである家元が門下生に流儀を教えると共に免許を渡す制度)をつくり、上納金をとるようになりました。

そのことから談志さんは「家元」と呼ばれるようになったわけですが、ユニークなのは、3種類あるそのコース。

Aコースはプロの落語家(いわゆる一般的な弟子)。

Bコースは落語に興味を持っている文化人や芸能人。このBコースには、ビートたけし、高田文夫、赤塚不二夫、上岡龍太郎、山本晋也、横山ノックなど、錚々たるメンバーが顔をそろえています。ちなみに、入門すると落語を教えてもらえたり、立川○○という落語家の名前をもらうことができます。

Cコースは一般人が対象のコース。

 

立川流は「ためしてガッテン」の司会でおなじみの立川志の輔(しのすけ)「下町ロケット」などで役者としても活躍する立川談春(だんしゅん)、テレビにラジオに引っ張りだこの立川志らく(しらく)など、人気落語家を多く輩出する一門で、談志さん亡き後も、超個性派集団からは目が離せません。

 

▼立川志の輔

▼立川談春

▼立川志らく

 

談志の十八番① 『芝浜(しばはま)』

 

談志さんの十八番として真っ先に挙がる噺が『芝浜』です。

談志さんの『芝浜』は落語史に残る傑作であり、談志さん自身こだわりを持って演じていました。

 

注目なのは、従来の落語からすると過剰とも思えるほどの「感情移入の凄さ」です。

登場人物に完全に入り込み、実際にそこにその人物がいて喋っているのではないかと思わせるほどの圧倒的な迫力があります。

特に2007年によみうりホールで演じた「芝浜」は、「伝説の名演」として落語界で語り継がれています。

 

▼よみうりホールが入っている東京・有楽町駅前の「読売会館」

 

「落語の神様が談志に乗り移って登場人物に台詞を喋らせた」といわれるほど圧倒的に凄い「芝浜」であったそうです。

「芝浜」は、落語通ではない人でも最も談志落語の「凄み」を感じやすい演目だと思います。

 

▼2007年よみうりホールで行われた「伝説の名演」の「芝浜」が収録されている作品

⚫談志CD大全 21世紀BOX

「芝浜」のあらすじなど、詳しくは第2章で解説!(現在第4章)

 

談志の十八番②  『鼠穴』

 

談志さんの演者としての最大の魅力は、聴き手を噺の世界へ引きずり込む「迫真の演技力」です。

理不尽な目に遭った男の悲痛な叫びや怒りをリアルに描き出す演技力は抜群です。

その演技力は歳を重ねるごとに凄味を増し、研ぎ澄まされていきましたが、それを感じられる演目としておすすめしたいのは、談志さんの十八番「鼠穴(ねずみあな)」です。

この噺はただでさえドラマティックですが、そこに談志さんの迫真の演技力が存分に発揮されると、落語における「人情噺」の範疇を大きく飛び出し、強烈なドラマとなって聴く者の心を激しく揺さぶります。

無一文から築き上げた財産を一夜にして失い、絶望のどん底に突き落とされた男の悲痛な叫びをメリハリの効いた真に迫った演技でリアルに表現した談志さんの「鼠穴」。

落語の世界に引きずり込まれ、現実の世界に戻ってこられなくなるかもしれない。そんな一席です。

 

▼七代目立川談志「鼠穴(ねずみあな)」収録作品

⚫立川談志プレミアム・ベスト 落語CD集「饅頭怖い」「ねずみ穴」

 

次のページでは1時間を超えるスケールの大きな噺の「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」を得意とする「三代目桂米朝」を紹介します。

『落語初心者入門』目次へ  (全23ページ)
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著者:ミドケン

落語が大好きなフリーライター。10年程前に落語にはまって以来、ほぼ毎日落語を聴いている。お問い合わせはこちらから