東映実録映画入門 ~実話を元にしたヤクザ映画~はこちらから!
第1章 東映実録映画の基礎知識
第2章 東映実録映画の題材になった事件
『実録外伝 大阪電撃作戦』のモデルになった【明友会事件】解説
第3章 おすすめ実録映画7選
実録外伝 大阪電撃作戦 【おすすめ実録映画(ヤクザ映画)7選】
第4章 実録映画の魅力的な俳優6選
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」、「エキゾチックアニマル」、「昆虫」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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『東映実録映画入門』目次へ (全21ページ)
東映実録映画は、実際の事件に基づいて製作されたヤクザ映画です。そのため、複雑な人間模様を含んでおり、一見しただけでは全体像を把握することが難しい作品も多いです。
実際の事件の大まかな流れを掴んでおくことは、作品の全体像を理解する手助けとなるでしょう。
この章では東映実録映画の題材となった実際の抗争事件である【広島抗争】【明友会事件】【沖縄抗争】【三国事件】をご紹介していきます。
三国事件は厳密にいうと実録映画の題材となってはいないのですが、実録映画を語る上で重要な位置づけにある事件ですので、このページで詳しくご紹介していきます。
三国事件とは
三国事件とは映画「北陸代理戦争」の主人公のモデルとなった川内氏が昭和52年4月13日に、行きつけの喫茶店で襲撃を受け射殺された事件です。
映画「北陸代理戦争」がこの事件に影響を及ぼしたとされており、映画が現実の抗争事件に影響を及ぼした稀有な例として、東映実録路線の歴史に暗い影を落としました。
三国事件の流れ
昭和51年、脚本家・高田宏治氏は人気シリーズ「新・仁義なき戦い」の新作の題材になるネタを探していました。
そんな折に、東映の進行主任(映像作品の制作管理に携わる役割)である並河正夫氏から「すごいヤクザがいる」として、川内組々長・川内弘氏を紹介されます。(ちなみに、並河氏は東映に入社する以前、京都七条の侠客(やくざ者に対する美称)中島源之介氏の舎弟分でした。)
川内氏に取材をした高田氏は確かな手応えを感じとり、川内氏をモデルに新作の脚本を執筆します。
※文中に挿入されるイラストは理解しやすくすることを目的としております。実際の人物とはビジュアル等は異なります。
当初この作品は菅原文太氏を主演に据えて「新・仁義なき戦い」の四作目として製作が進められていましたが、菅原氏が急遽降板したことから「仁義なき戦い」の看板を掲げることが不可能となり「北陸代理戦争」と名を改めて公開される運びとなりました。
本作では川内氏をモデルとした主人公・川田登と浅田組幹部・岡野信安の対立が描かれています。
クライマックスでは川田が岡野に宣戦布告して激しい抗争の幕開けを仄(ほの)めかす形で終劇するのですが、岡野のモデルである山口組幹部・菅谷政雄氏と川内氏は現実に対立状態にありました。
(ちなみに、菅谷氏は当時の東映のプロデューサー俊藤浩滋氏とは同郷の幼馴染でした。俊藤氏は正式な構成員ではなかったものの裏社会との縁が深かったらしく、彼が東映実録路線の確立に多大な貢献をしたことは言うまでもありません。)
脚本の内容に激怒した菅谷氏と川内氏の対立は深まり、「北陸代理戦争」のクランクイン当日、菅谷氏は山口組から川内氏を破門に処します。
脚本の内容で激怒した理由は、菅谷氏は川内氏を主人公に映画を撮影すること自体よく思っていなかったようですが、川内氏が菅谷氏をはじめ山口組に宣戦布告をするかのようなエンディングが特にカンに障ったのではないかと推測されます。
映画の撮影に乗り気だった川内氏は組を上げて「北陸代理戦争」の撮影を強力にバックアップし、数え切れないほどのトラブルに見舞われながらも映画は無事に公開されましたが、客入りは期待を大きく下回る結果に終わりました。
・渡瀬恒彦氏が撮影中の事故で重傷を負い、急遽伊吹吾郎を代役に立てた。
・暴力団を主題にしたことで作品の舞台である福井県警の反感を買い、ロケ地を大幅に制限された。
・そもそも「新仁義なき戦い」シリーズとして製作を予定したが、主演の菅原文太が降板したためシリーズ外作品とせざるを得なくなった。など
「北陸代理戦争」が公開されて間もなく、菅谷氏は坪川三彦氏と盃を交わします。
坪川氏は川内組副組長を務めた人物で、川内氏とは愚連隊時代からの盟友でしたが、内部紛争を起こしたことが原因で川内氏に絶縁されていました。
坪川氏は菅谷氏の支援を受けて共進会を組織し、川内組の縄張りに侵攻します。(共進会を組織した理由は「他の組と合併してより強くなってから川内組に侵攻しよう」という意図があったと推測できますが、実際のところはわかりかねます。)
一方、川内組は共進会に対抗するように菅谷政雄暗殺部隊である広進会を編成し、両者は血みどろの抗争を繰り広げます。
そして昭和52年4月13日、川内氏は行きつけの喫茶店である「喫茶ハワイ」で共進会の刺客らの襲撃を受け、射殺されてしまいます。
映画「北陸代理戦争」の劇中に、主人公・川田登が喫茶店にいるところを襲撃されて命からがら逃げおおせるという場面がありますが、その喫茶店こそ他でもない喫茶ハワイをモデルにしたものでした。
襲撃の実行犯らは後に、喫茶ハワイを襲撃場所に選んだ理由を
「(映画の模倣ではなく)ハワイを訪れる川内氏の護衛が手薄になるから」
であると語っています。
しかし、映画が現実の事件を引き起こしたとも受け取れる一連の出来事は当時の関係者に大きな衝撃を与え、本作の監督を務めた深作欣二氏は「北陸代理戦争」を最後に実録路線から離れることとなります。
▼深作欣二氏
東映はその後も「日本の仁義」「仁義と抗争」「日本の黒幕」「総長の首」などの実録映画を製作しましたが、いずれも高い評価を受けることなく、実録路線は終焉を迎えました。
組長を失った川内組は瓦解の一途をたどることになるのですが、同年、菅谷氏が山口組から絶縁処分を下されるなど、事件の余波は川内組、菅谷組、そして映画界に広く差響く結果となりました。
「三国事件」が題材の作品・観る方法
●1977年公開「北陸代理戦争」
・Amazon Prime Video
・Hulu (2週間無料期間有り。月額933円税別で動画見放題)
・U-NEXT(31日間無料のお試し期間有り。月額利用料1990円税別で見放題。)
・TSUTAYA TV (新規登録30日間0円。月額費933円税別で見放題)
・DVD
次章(こちら)にて「北陸代理戦争」の作品解説をしております!
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はじめに
第1章 東映実録映画の基礎知識
第2章 東映実録映画の題材になった事件
『実録外伝 大阪電撃作戦』のモデルになった【明友会事件】解説
第3章 おすすめ実録映画7選
実録外伝 大阪電撃作戦 【おすすめ実録映画(ヤクザ映画)7選】
第4章 実録映画の魅力的な俳優6選
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」、「エキゾチックアニマル」、「昆虫」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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