江戸落語と上方落語の5つの違い

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落語は誰が聴いてもわかりやすく面白い芸能です。落語の基本的な知識や初心者におすすめの演目の紹介、実際に落語を楽しむ方法などを通じて落語(特に古典)の魅力についてお伝えします。

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著者:ミドケン

落語が大好きなフリーライター。10年程前に落語にはまって以来、ほぼ毎日落語を聴いている。お問い合わせはこちらから

 

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落語は「江戸落語」「上方落語」で分けることができます。

両者の違いを知ることで「言葉遣い」や「演出の違い」を比較して楽しんだりすることができます。

例えば同じ内容の演目でもタイトルが違ったりします。

江戸落語では「時そば」と呼ばれる演目も、上方落語では「時うどん」になります。そして、落語中に行う「そば」と「うどん」のすすり方の動作が違うのです。

 

▼江戸と上方の違い一覧

江戸落語 上方落語
発祥地 江戸 関西(上方)
階級制度 見習い→前座→二つ目→真打ち なし
言葉 江戸弁 関西弁
道具 扇子・手ぬぐい 扇子・手ぬぐい・見台・ひざ隠し・小拍子
噺の演出の特徴 特になし ハメモノが入る演目が多い

 

江戸落語と上方落語の5つの違い

① 生まれ

 

江戸落語は、その名の通り江戸で生まれた落語です。

上方落語は、主に大阪で生まれた落語です。

 

上方落語は元禄期(1688年~1704年)頃に、京に露の五郎兵衛(つゆのごろべえ)、大坂に米沢彦八(よねざわひこはち)という人が現れ、神社の境内などで滑稽な話を披露するなどして活躍したのが始まりといわれています。

 

 

現在は京都の落語が衰退しています。

そのため、主に大阪で上演される落語のことを「上方落語」と呼ぶのです。

昔は「大阪落語」や「京都落語」と呼ばれていて、地域によって名称が違っていたようです。

 

上方落語は明治期に隆盛を迎えますが、昭和初期にはお笑い事務所である吉本興業の影響もあり演芸界が漫才中心となり落語人気にかげりが見え始めます。

戦後は上方落語を支えた人気落語家が相次いで亡くなると、落語の衰退が顕著になり「上方落語は滅んだ」ともいわれました。

しかし昭和末頃になると「六代目笑福亭松鶴」「三代目桂春團治」「三代目桂米朝」「五代目桂文枝」の4人が「上方落語の四天王」と呼ばれるようになり、上方落語の人気を復活させます。

 

▼六代目笑福亭松鶴

▼三代目桂春團治

▼三代目桂米朝

▼五代目桂文枝

現代の上方落語で主力を担うのは「桂一門」と「笑福亭一門」で、この2つの一門からは寄席だけでなくテレビでも活躍する多くの人気落語家たちが輩出されています。

 

② 階級制度

 

前ページの“落語家の階級”でも紹介しましたが、落語家には「真打」「二ツ目」「前座」という階級があります。

 

▼落語家の階級

 

ただしこれは江戸落語界だけの制度で、上方落語にはありません。

以前は上方落語にも「真打制度」はあったようですが、上方落語ブームが起こった昭和40年代に、その機能が事実上ストップしてしまいました。

現在は落語家内部の序列を表す「香盤」という仕組みが真打制度の代わりとなっており、基本的には芸歴によってそのランクが決まっているようです。

 

③ 言葉

 

基本的に江戸落語では江戸弁、上方落語では関西弁が使用されます。

ただ上方落語では登場人物によって「大阪言葉」や「京言葉」を使い分けることがあるといいます。

江戸落語では関西の言葉を喋る人物が登場する噺も多いため、江戸落語の落語家が関西弁を喋る機会もありますが、上方落語では江戸弁を喋る機会は多くはないようです。

そのため、関西出身ではない落語家が上方落語を覚えようとすると、関西弁から学ぶ必要があるため、苦労する人も多いといわれています。

 

④ 使用する道具

 

江戸落語も上方落語も、共通して使用する道具は、扇子と手ぬぐいです。

 

 

江戸落語では基本的にその二つの道具を使いながら、身振り手振りで描写をします。

 

ただ、上方落語には江戸落語で使用しない道具があります。

上方落語の場合は、まず落語家の前には「見台(けんだい)」と呼ばれる小さな机があります。見台の前には「ひざ隠し」と呼ばれる、落語家のひざを隠すための小さな衝立を置きます。

現代では、見台とひざ隠しの間にマイクを置いているそうです。

 

▼見台、および膝隠し。真ん中に黒い模様が書いてある方がひざ隠し。


photo by MASA CC 表示-継承 3.0

 

見台の上には「小拍子(こびょうし)」という道具が置いてあり、これで見台を叩いて音を鳴らして、場面転換を表現したり、戸を叩くときなどの効果音として使います。

 

 

⑤ 噺の特徴

 

江戸落語と違って上方落語では「ハメモノ」が入る演目が多くあります。

ハメモノとは「三味線や太鼓などの鳴り物を使用し、派手で陽気な雰囲気を出す演出方法」のことです。

旅の落語や歌舞伎を題材にした落語に入ることが多いです。

旅の落語「地獄八景亡者ノ戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」 では「その道中の陽気なこと」という台詞をきっかけに囃子(はやし)が入り、楽しくウキウキした気分を表現します。

歌舞伎が題材の落語「七段目」では、「やぁやぁ若旦那」というのが囃子のきっかけ台詞になります。しかし、人によって台詞が違ったり、噺によっても違うので、旅の落語の「その道中の~」のように定番の台詞はありません。

 

【編集部コラム①】関西の方が笑いに貪欲?
江戸落語は「しっかりと噺を聴かせる」スタイルで、人情の機微を描いた笑いを求める傾向にあると言われています。上方落語の方が、ストーリーが奇想天外であり派手で陽気、「笑わせる意識が強い」と言われています。ただ、現在は東西のボーダーレス化が進んでいるため両者の違いはないと言われています。

江戸落語 しっかりと噺を聴かせる。人情の機微を描いた笑い。
関西落語 派手で陽気。爆笑を取りに行く。
【編集部コラム②】演目の違い
冒頭でもお話した通り、同じ噺でも江戸と上方では少し違うケースがあります。

江戸では「時そば」で上方では「時うどん」になります。

「時そば」はタイトルが違うだけでなく、江戸の場合だとある男が勘定をごまかしてそれを見ていた他の人が真似して失敗するという流れになり、上方の場合だと兄貴分が勘定をうまくごまかしたのを見て弟分が真似して失敗するという流れになります。

また「たちぎれ」という噺は元々は上方落語ですが、今では東京に定着している演目です。江戸発祥の「酢豆腐」という噺は上方では「ちりとてちん」となっています。

 

東西のボーダーレス化

 

30年ほど前までは東京で上方落語を聴こうと思ったら、大物落語家が出演するホール落語や特別な落語会くらいしかなく、江戸落語を関西で聴く機会にいたってはほとんどありませんでした。

しかし今では、東京の寄席でも上方の落語家による高座を観られる機会も増え、東京の落語ファンも上方落語を楽しめるようになっています。

現代では、言葉の違いと落語に出てくる地名の違いくらいしかなく江戸落語と上方落語のボーダーレス化が進んでいるといえます。

 

以上、この章(第1章)では基礎知識についてお伝えしてきました。大分イメージが掴めてきたのではないでしょうか。

次の章(第2章)からは「初心者におすすめ古典落語11選」を紹介します。実際に古典落語の噺に触れて、聴きたい演目を見つけていただきたいと思います。

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落語の演目の基礎知識 【古典落語と新作落語の違い】

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落語の演目は「古典落語」「新作落語」に分けられる

 

落語の演目の種類は「古典落語」と「新作落語」に分けることができます。

古典落語と新作落語の違いは何を基準に区別するのかというと、一言でいえば「年代」です。

「古典落語」は江戸中期から明治にかけて作られた演目で、「新作落語」は大正時代以降に作られた演目のことを指します。

 

 

以下では、古典落語と新作落語の特徴について詳しく解説していきます。

 

古典落語とは

 

古典落語とは「江戸中期から明治にかけて作られた演目」を指します。

 

古典落語は、決まった同じネタを色々な落語家さんが何度も行います。

ネタは、昔の落語家さんから新しい落語家さんへと引き継がれていきます。

長い年月をかけて師匠から弟子に受け継がれていくなかで、それぞれの時代の落語家によって練り上げられ、洗練されていくので、現代人の心にも響く名作が多いのです。

 

【編集部コラム】古典落語の進化
古典落語は先代から受け継がれてきた噺を全く同じに演じるという訳ではありません。ストーリーの大まかな流れは変わらなくても自分なりのアレンジを加え、登場人物の言葉遣いが変わったり、オチが変わったりすることがあります。そうして練り上げられているからこそ、現代人の心に響く名作が多いのです。

 

古典落語の演目の多くは江戸時代が舞台で、江戸庶民の暮らしぶりや江戸の文化、風俗を取り扱っているものが多くあります。

 

 

古典落語の数

 

演目の数ははっきりとはわかりませんが現在寄席で演じられているのは200~300くらいと言われており、やる人がほとんどいないものも全部合わせると、その数は500とも800とも言われています。

古典落語の多くは作者不明で、一部の演目を除いてそのほとんどは誰が作ったのかわかりません。

 

古典落語の種類

 

古典落語をジャンル分けすると、「滑稽噺」と「人情噺」の2種類があります。

 

滑稽噺

 

滑稽噺は「噺の終わりにオチがある、おもしろおかしい落語」のことです。

間抜けでドジな与太郎や、口が達者な江戸っ子、ぐうたらな若旦那などが活躍する噺でそのユニークな言動におかしみが滲み出て笑えます。

 

与太郎
落語に登場する架空の人物。楽天的な性格で失敗ばかり。「愚か者」の代名詞となっている。

 

一般的に落語と聞いてイメージするのはこの滑稽噺のほうでしょう。

 

滑稽噺のおすすめの演目は「天狗裁き」「粗忽長屋(そこつながや)」「代書屋(だいしょや)」です。こちらの演目については次の章(第2章)で解説いたします。

 

人情噺

 

人情噺は「ストーリー性を重視し、心温まる人情を描いた落語」のことをいいます。

扱うテーマは、夫婦愛や親子愛、友情がメインです。

オチはあるものとないものがありますが、あったとしても、取ってつけたような地口オチ(じぐちおち:ダジャレ)になっていることが多いです。

人情噺でおすすめの演目は「芝浜」「子別れ」「藪入り(やぶいり)」です。

こちらの演目についても次の章で解説しています。

 

古典落語の魅力

 

はじめに」でもお伝えしましたが「古典」と名前に付いていますが、特別な知識なく楽しめます。

江戸や明治、古典落語の世界に生きる人々の、のんびりとした日常に触れるのは「情報過多でストレスが多い現代人だからこそ価値がある」と考えています。

心が楽しいときでも寂しいときでも、古典落語がそばにあるだけでちょっとラクになれる、そんな不思議な力が古典落語にはあると私は思っています。

 

古典落語の魅力は「はじめに」のページで詳しく解説!

 

新作落語とは

 

「新作落語」は大正時代以降に作られた演目のこと」を指します。また「創作落語」ともいいます。

落語家自身による創作が多いですが、落語作家が作ったものもあります。次々に作られるので、数を把握することは不可能です。

 

落語作家
落語の脚本を作る人のこと。昭和のラジオやテレビの時代に演芸番組に携わり、台本を提供していた。現在で言う放送作家のような立ち位置。「玉川一郎」「古城一兵」らが活躍した。

 

新作落語はその時代の旬のトピックや時事ネタを取り入れて作られることが多いので、古典に比べて内容がわかりやすく、落語初心者でも爆笑できるという特徴があります。

 

 

新作落語の楽しみ方

 

また、作者である落語家独自の世界観が色濃く反映されるので、バラエティ豊かな噺を楽しむことができます。

基本的に噺の舞台は現代ですが、未来を描いたり、異次元の世界を描いたものなどもたくさんあり、「とにかくおもしろければいい!」といった感じで次々と生み出されています。

現代を描くだけが新作ではなく、稀ではありますが、江戸を舞台にした作品もあり、これを「まげもの新作」と呼びます。

落語家には、古典しかやらない人もいれば、新作専門の人もいますし、古典も新作も両方やるという人もいます。最近では古典と新作のボーダーがあまりなくなり、両方やるという落語家も増えてきています。

 

古典と新作両方やる落語家
柳家喬太郎(やなぎや きょうたろう)さんは、古典と新作どちらも行います。新作落語では独自の世界観で楽しませてくれる爆笑必至です。また、古典落語にも定評があり喬太郎さんならではの解釈や演出を加え「喬太郎の古典」にしてしまうところがあります。喬太郎さんの魅力の解説は第3章にて!(現在第1章)

 

新作落語はどちらかというと、肩の力を抜いて聴ける爆笑ネタが多いですが、落語である以上は、やはりそこには普遍的なテーマやストーリー(夫婦愛、親子愛、友情、生と死、出世劇、逆転劇、転落人生など)があります。

 

時代を選ばないテーマやストーリーであるからこそ、演じられるたびに洗練されていき、将来的にはそれが古典と呼ばれる演目になり、後世までずっと残り続けていく可能性もあります。

新作落語を演じる落語家は、それが古典になることを目指しているというわけではありませんが、そうなる可能性があるという意識で聴いてみるというのも、新作落語の楽しみ方のひとつだと思います。

 

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次のページでは「江戸落語」と「上方落語」の違いについてお伝えします。内容は同じでも、江戸落語では「時そば」上方落語では「時うどん」と演目のタイトルが違ったりするのです。

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