東映実録映画入門 ~実話を元にしたヤクザ映画~はこちらから!
第1章 東映実録映画の基礎知識
第2章 東映実録映画の題材になった事件
『実録外伝 大阪電撃作戦』のモデルになった【明友会事件】解説
第3章 おすすめ実録映画7選
実録外伝 大阪電撃作戦 【おすすめ実録映画(ヤクザ映画)7選】
第4章 実録映画の魅力的な俳優6選
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」、「エキゾチックアニマル」、「昆虫」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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『東映実録映画入門』目次へ (全21ページ)
終焉に向かう東映実録映画
▼ヤクザ映画の歴史、簡易年表
1973年の「仁義なき戦い」公開からわずか四年後、実録映画はある一本の映画をめぐる出来事をきっかけに終焉へ向かいます。
その作品は当初「新・仁義なき戦い」シリーズの四作目として製作が進められていましたが、製作当初は主演を演じる予定だった菅原文太が体調不良を理由に出演を断ったため、菅原文太ありきの「新・仁義なき」という題を冠することができなくなり、タイトルの変更を余儀なくされてしまいます。
▼菅原文太氏
そのタイトルが変更された作品は「北陸代理戦争」というタイトルで1977年に公開されました。
「仁義なき戦い」の焼き直しである「新・仁義なき戦い」を別として、シリーズ二作目「新・仁義なき戦い 組長の首」および三作目「新・仁義なき戦い 組長最後の日」は実際の事件や人物に基づかない実録路線外の作品でした。
▼新シリーズ一覧(深作欣二監督作品)
公開年度 | 作品名 | 備考 |
1974 | 新・仁義なき戦い | 前作の焼き直し |
1975 | 新・仁義なき戦い 組長の首 | 実録路線外 |
1976 | 新・仁義なき戦い 組長最後の日 | 実録路線外 |
1977 | 北陸代理戦争 | 実録路線 |
しかし、「新・仁義なき戦い」シリーズに続く「北陸代理戦争」では一転して実在する人物の半生――しかも当時現在進行形だった抗争事件の経緯を描いています。
「北陸代理戦争」にまつわる一連の抗争は「三国事件」と呼ばれ、映画が現実の抗争事件に影響を及ぼした稀有な例として、東映実録路線の歴史に暗い影を落としました。(三国事件については第2章「三国事件」の項で詳しく述べています)
「仁義なき戦い」および「新・仁義なき戦い」シリーズの監督を務め、東映実録路線を牽引した深作欣二氏は本作を最後にやくざ映画の監督を切り上げ、時代劇やSF映画に主戦場を移していきます。
「北陸代理戦争」以降も東映は実録映画を数本製作しましたが、いずれも興行成績は芳しくありませんでした。
「極道の妻たち」
そんな状況の中、東映の当時のプロデューサー・日下部五郎氏が見出した血路が、極道社会に生きる女性の激しい生き様を描いた作品でした。
家田荘子(ノンフィクション作家)のルポルタージュ「極道の妻たち」を原案にとったそれらの作品は、数多くの東映実録映画の脚本を手掛けてきた名脚本家・高田宏治氏によって肉付けされ、1986年に世に送り出されます。
笠原和夫氏が降板した後の「仁義なき戦い」五部作の完結篇をはじめ、「新・仁義なき戦い」シリーズや「北陸代理戦争」「実録外伝 大阪電撃作戦」「沖縄やくざ戦争」、さらには和製ゴッドファーザーともいうべき「日本の首領」三部作など。
高田氏が脚本を手掛けた「仁義なき戦い 完結篇」では「極道社会に翻弄される女性の生き様」が描かれていました。
そのことからもわかるように、高田氏は「女性の存在がなければやくざの世界は成り立たない」と考え、彼の手がけた実録映画には強い決意をもってやくざを支える女性が頻繁に登場します。
宮尾登美子氏の同名小説を原作として1980年に公開された映画「鬼龍院花子の生涯」は、五社英雄監督の世界観と高田宏治氏の美学、俳優陣の鬼気迫る演技が高い次元で調和した傑作であると同時に、実録路線から極妻への転換を暗示していました。
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※「極妻」シリーズもルポルタージュを下敷きにしているという意味では広義の「実録路線」に含まれますが、このWebonでは「実録路線」=「ヤクザ映画の中の1ジャンル」として扱っていますので、「極妻」シリーズは実録路線とは別物と認識しております。
「極道の妻たち」は全10作の映画作品に加えて、6本のオリジナルビデオ作品が製作される人気シリーズとなります。
時代劇→任侠→実録という変遷をたどった東映の屋台骨は「極道の女たち」シリーズを最後に散逸し、以降東映が特定の路線(=シリーズ)を敷くことはなくなりました。
▼ヤクザ映画の歴史、簡易年表
任侠映画→時代劇では悪玉であったヤクザ・侠客が主人公。
実録路線→任侠映画では描かれなかったヤクザの社会悪としての側面を強調。
極妻シリーズ→実録路線では取り上げられなかったヤクザ社会に生きる女性の生き様が主題、など。
各方面への取材と膨大な資料を基に、三国事件の真相と映画「北陸代理戦争」をめぐるエピソードをまとめあげた一冊。
三国事件に関するルポルタージュだけでなく、脚本家・高田宏治氏の反省や東映の映画史、さらには実際の原稿を引用した「北陸代理戦争」のシナリオ分析が渾然一体となっているため、情報量が非常に多く、映画同様、読み終えるまでに少なからぬエネルギーが要求されます。
文庫版の補遺として巻末に収録されている川内弘氏(主人公のモデルとなった人物)の元側近のインタビューは必見です。
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はじめに
第1章 東映実録映画の基礎知識
第2章 東映実録映画の題材になった事件
『実録外伝 大阪電撃作戦』のモデルになった【明友会事件】解説
第3章 おすすめ実録映画7選
実録外伝 大阪電撃作戦 【おすすめ実録映画(ヤクザ映画)7選】
第4章 実録映画の魅力的な俳優6選
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」、「エキゾチックアニマル」、「昆虫」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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