アメリカのノワール文学と代表的作家

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ノワール文学(小説)を知っている方も知らない方も。「ノワール文学とは」から「おすすめノワール作品」までをご紹介。読めばノワール作品に興味が出る事間違い無し。

國谷正明氏による『ノワール文学(ノワール小説)入門』はこちらから

著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。趣味は作曲と爬虫類飼育。好きな作曲家はエリック・サティ。好きな映画監督は深作欣二。好きなアニメはスポンジボブ。好きな学問は民俗学。苦手な調味料はマヨネーズ。敬愛する作家はジム・トンプスン。いいにおいのする文章を書こうと日々苦心しています。お問い合わせはこちらから
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アメリカのノワール文学

 

第1章では、ノワール文学がどのようにして生まれ、発展し、現在に至ったのかということを駆け足ながらみなさんにご紹介して参りました。

 

ノワール文学の発展
ノワール文学はハードボイルド小説を発端にしてアメリカからフランスへ文化が広まり、ベトナム戦争などの大きな出来事を通して現在の形になっていった。詳しくは当Webon「第1章 ノワール文学とは」を参照。

 

ジャンルを問わず「文学」とはその土地の文化的な背景を色濃く反映するものであるため、同じ題材をとって描かれたものであっても、その時代や地域によってまったく異なる味わいを醸(かも)します。

本章(第2章)では、各国のノワール作家の経歴と彼らの代表作を簡単にご紹介しながら、その国におけるノワール文学(ノワール小説)の特色を概観していきます。

 

第1章で述べたように、ノワール文学は1920年代にアメリカで発表されたアーネスト・ヘミングウェイ、ダシール・ハメットらの著作をその源流とします。

彼らの作品は数多くのフォロワーを生み、ハードボイルドというジャンルが開拓されました。

 

▼アーネスト・ヘミングウェイ

▼ダシール・ハメットの代表作「血の収穫」

 

ノワール文学(ノワール小説)の起源とも言えるアメリカの代表的作家を見ていきましょう。

 

アメリカノワールの代表的作家

ウィリアム・P・マッギヴァーン(Willian Peter McGivern)

 

ウィリアム・P・マッギヴァーン(Willian Peter McGivern)は、1918年生まれのハードボイルド作家です。

イギリスの大学に在学中、第二次世界大戦に参戦し、復員後は警察担当として新聞記者を務める傍ら小説の執筆を続けます。

 

 

1948年に長編小説「囁く死体(But Death Runs Faster)」でデビューした後、年に一作のペースで「最後の審判(Heaven Ran Fast)」「虚栄の女(Very Cold for May)」といったハードボイルド小説を発表。

 

▼虚栄の女(画像クリックで書籍詳細へ)

 

続く1951年に発表された「殺人のためのバッジ(Shield for Murder)」は、悪徳警官小説の先駆としてアメリカのミステリ界に大きな衝撃を与えました。

その後も、「ビッグ・ヒート(The Big Heat)」「悪徳警官(Rogue Cop)」といった悪徳警官小説を次々と発表し、戦後を代表するハードボイルド作家としての地位を固めます。

 

▼ビッグ・ヒート(画像クリックで書籍詳細へ)

▼悪徳警官(画像クリックで書籍詳細へ)

 

権力構造の腐敗を鋭く抉(えぐ)る彼の視点は、後のノワール文学に大きな影響を与えました。

 

 

チャールズ・ウィルフォード(Charles Ray Willeford)

 

チャールズ・ウィルフォード(Charles Ray Willeford)は、1919年生まれのノワール作家です。

幼くして孤児となった彼は、16歳から36歳までの20年間を軍人として過ごし、さまざまな軍功を立てます。

1953年に「High Priest of California(未邦訳)」でデビューした後、1955年、彼の代表作のひとつにも数えられるノワールの傑作「拾った女(Pick-Up)」を発表。

 

▼拾った女(画像クリックで書籍詳細へ)

 

その後も精力的に執筆を続けましたが、陽の目を浴びることはありませんでした。

しかし、1984年に発表された「マイアミ・ブルース(Miami Blues)」に始まる「ホウク・モウズリー」シリーズ(刑事であるホウク・モウズリーが活躍する小説シリーズ)が翻訳されると、ウィルフォードは本国のみならず日本でも高い支持を得ます。

 

▼マイアミ・ブルース(画像クリックで書籍詳細へ)

 

1993年に発表された「危険なやつら(The Shark-Infested Custard)」は、アメリカのノワール文学を代表する名作として、後進の作家に強い影響を与えています。

 

▼危険なやつら(画像クリックで書籍詳細へ)

 

また、ウィルフォードはアメリカを代表する犯罪作家であるエルモア・レナード(Elmore John Leonard Jr.)から「誰もウィルフォード以上の犯罪小説を書けない」と、最高の賛辞を送られています。

 

▼エルモア・レナード

by Peabody Awards – FlickrPeabodys_CM_0382 CC BY 2.0

 

 

エドワード・バンカー(Edward Bunker)

 

エドワード・バンカー(Edward Bunker)は、1933年生まれの犯罪小説家・俳優です。

彼が4歳のときに父親のアルコール中毒が原因で両親が離婚すると、経済的な理由から養護施設に預けられます。

その後、非行を繰り返しながら養護施設を転々とし、ついには少年院に送致(そうち:送り届けられること)。

16歳で少年院を出所した彼は、窃盗や麻薬の密売、銀行強盗などに手を染め、プロの犯罪者として生きるようになります。

 

 

人生の大半を刑務所の中で過ごしながらも、生来の読書家であったバンカーは、獄中で小説の執筆に着手します。

そして1973年、自伝的犯罪小説「ストレートタイム(No Beast So Fierce)」が刊行されます。

 

▼ストレートタイム(画像クリックで書籍詳細へ)

 

その後も、

 

「アニマル・ファクトリー(The Animal Factory)」

「リトル・ボーイ・ブルー(Little Boy Blue)」

「ドッグ・イート・ドッグ(Dog Eat Dog)」

 

など、自身の経験を活かしたリアリティ溢れる犯罪小説を次々と発表し、犯罪小説家としての地位を確立しました。

また、エディー・バンカー名義で俳優としてさまざまな作品に出演しており、バンカーの熱心な読者であったクエンティン・タランティーノのオファーによって、彼のデビュー作「レザボア・ドッグス」にMr.ブルー役で出演しています。

 

▼レザボア・ドッグス(画像クリックで作品詳細へ)

クエンティン・タランティーノ
アメリカの映画監督。代表作に「キル・ビル」など。

監督二作目『パルプ・フィクション』でパルム・ドール(最優秀作品賞)と米アカデミー賞脚本賞を受賞。「暴力シーンの多用」「意味のない会話が長々と続く」「自身の好きな作品へのオマージュ」などが作品・演出の特徴。

▼クエンティン・タランティーノ

by Gage Skidmore CC 表示-継承 3.0

 

 

アンドリュー・ヴァクス(Andrew Henry Vachss)

 

アンドリュー・ヴァクス(Andrew Henry Vachss)は、1942年生まれの弁護士・ノワール作家です。

青少年犯罪と幼児虐待専門の弁護士として活動する傍ら、数多くの著作を執筆しました。

彼は幼児虐待が人類・神・自然の規律を冒涜するばかりでなく、すべての悪の根源になりうる、全世界的に重大な疫病であると語っています。

また、自分のメッセージをできるかぎり広い範囲の人々に伝える手段としてミステリ作家になったとも語っており、その言葉のとおり、彼の小説には児童虐待というテーマが常に濃い影を落としています。

 

 

1985年に発表された「フラッド(Flood)」に始まる「アウトロー探偵バーク」シリーズでは、ニューヨークの裏社会の実態が生々しく描かれており、世界中のミステリファンに大きな衝撃を与えました。

 

▼フラッド(画像クリックで書籍詳細へ)

 

また、彼の数少ないノン・シリーズ作品(シリーズ化されていない作品)である「凶手(Shella)」も、ノワール文学の名作として高い支持を受けています。

 

凶手(画像クリックで書籍詳細へ)

 

以上、このページではアメリカのノワール文学と代表的なノワール小説作家をご紹介しました。次のページではフランスのノワール文学と代表的なノワール小説作家をご紹介していきます。

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著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。趣味は作曲と爬虫類飼育。好きな作曲家はエリック・サティ。好きな映画監督は深作欣二。好きなアニメはスポンジボブ。好きな学問は民俗学。苦手な調味料はマヨネーズ。敬愛する作家はジム・トンプスン。いいにおいのする文章を書こうと日々苦心しています。お問い合わせはこちらから
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