『身近な昆虫の観察入門』目次へ (全17ページ)
この章(第2章)では一歩踏み込んで、実際に自然のなかに足を運ぶことを想定して【山野】【水辺】【街なか】【夜】とフィールドのタイプ別に、比較的簡単に見つけることのできる虫の種類と観察のポイントをお伝えしていきます。
このページでは【街なか】の昆虫を紹介します。
点在する公園内に緑地や場所によってはため池が整備されている市街地では、住宅街の只中でも多様な生き物の姿を観察することができます。
身近にいる昆虫を見つける喜びを体験し、観察することで昆虫との触れ合いを楽しんでいただければと思います。
シミ
By Syonnbori – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, Link
名称 | ヤマトシミ |
大きさ | 体長 約10mm |
出現時期 | 1年中 |
分布 | 日本全土 |
いる場所 | 家・本棚 |
シミは家のなかでよく見ることのできる昆虫で、一般に害虫として扱われています。
書籍の装丁の糊付けされた部分を食す性質があり、また金属光沢のある鱗粉をまとい身をくねらせて動く姿が魚のように見えることから、漢字で「紙魚」と表されます。
書籍、特に古書を好んで食害し、また衣類やコメなどの穀物を食すこともあります。ただ、害虫として及ぼす被害はそれほど大きくはなく、どちらかというと外見や動きに起因する「不快害虫」としての側面が強いといえます。
同じく本を食べる虫として知られているのが「シバンムシ(死番虫)」です。シミと違って、トンネルを掘るように食べるので本に穴が開いてしまう可能性があります。またシバンムシは畳に穴を開けたりもします。
シミは夜行性で光を嫌う性質があるため、段ボール箱や収納の内部などで見つかるケースが多いですが、当然すべての家にシミが棲息しているはずもありませんので、長年住んでいて見たことがないのであれば発見できる確率は低いでしょう。
ゴキブリのように衛生的な問題もなく、噛む・刺すなどの攻撃を加えてくることもありませんので見つけたら、時にはぜひ手に取って観察してみてください。
シミは昆虫類のなかでも特に原始的な生き物であるといわれ、長い間その姿を変えていません。
このように性質を理解し、生物学的な分類を知ることで、一般に害虫といわれる生き物もその魅力が見えてくるのではないでしょうか。
アシナガバチ
photo by 孫鋒 林 Some rights reserved Link
名称 | キアシナガバチ |
大きさ | 体長20~26mm |
出現時期 | 4月~10月 |
分布 | 日本全土 |
いる場所 | 建物の軒先 |
アシナガバチは建物の軒先に営巣(えいそう:巣を作る事)することが多く、しばしば駆除の対象となっています。
全身に黒と黄の縞模様があることからスズメバチと混同されてしまいがちです。しかし凶暴なスズメバチと違い、アシナガバチは比較的温和な性格であるため、こちらから刺激しなければ襲われることはまずありません。
▼スズメバチ
ただ、巣を駆除されそうになると巣を守るため途端に攻撃的になります。アシナガバチに刺されるケースのほとんどが巣を駆除した際のことであるといわれています。
日本には11種のアシナガバチが棲息しており、キアシナガバチやセグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチが代表的です。なかなかじっくり観察することが難しいため、外見での判別は困難です。
▼セグロアシナガバチ
By KENPEI – KENPEI’s photo, CC 表示-継承 3.0, Link
▼フタモンアシナガバチ
巣を作っているアシナガバチを見かけたら、すこし離れたところから観察してみると良いでしょう。双眼鏡や単眼鏡があると便利ですが、スマホカメラのズーム機能でも代用することができます。
▼単眼鏡
巣作りの様子は非常に興味深く、思わず時間を忘れて見入ってしまいますが、刺されるとアナフィラキシーショック(=強いアレルギー反応でショック状態になること)で命に関わる事態にもなりかねませんので、くれぐれも注意を怠らないように気をつけてください。
▼巣を作る嬢王蜂
By Alvesgaspar – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
ハラビロカマキリ
名称 | ハラビロカマキリ |
大きさ | 体長 45~65mm |
出現時期 | 8月~11月 |
分布 | 本州・四国・九州・沖縄 |
いる場所 | 林緑・樹木 |
住宅街の至るところに昆虫が棲息しているということは、それらを捕食(ほしょく:捕まえて食べる)する生き物もまた姿を現すということを意味しています。
中でも被捕食者であり捕食者でもあるハラビロカマキリは、緑地や庭先だけでなく、ときには路上でも見かけることがあるほどのポピュラーな昆虫です。
大型で前翅(まえばね)に白い模様の入っているのが特徴です。
▼ハラビロカマキリ
カマキリの見分け方
全国的に生息するカマキリの仲間に、オオカマキリやヒナカマキリ、コカマキリ、ウスバカマキリ、チョウセンカマキリ、ヒメカマキリなどがありますが、大きさや前肢の模様などで見分けることができます。
名称/写真 | 大きさ | 見分け方 |
オオカマキリ
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体長 70~95mm | 大型。前翅に模様がなく、前肢の付け根部分が淡い黄色のもの。 |
チョウセンカマキリ
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体長 60~85mm | 大型で前翅に模様がないが、前肢の付け根部分が濃い黄色のもの。 |
コカマキリ
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体長 45~60mm | 中型で前肢の2箇所に黒い模様がある。茶色のものが多く、緑色は稀。 |
ウスバカマキリ
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体長 47~65mm | 中型だが前肢に1箇所しか黒い模様がない。 |
ヒメカマキリ
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体長 25~32mm | 小型で後翅が長く前翅からはみ出している。 |
カマキリを見つけた際には、以上の特徴を参考に細部を観察し、見分けることに挑戦してみてはいかがでしょうか。
このページでは【街なか】の昆虫を紹介いたしました。
次のページでは【夜】の昆虫を紹介します。夜行性の昆虫である「オオミズアオ」の夜の闇に浮かび上がる翅(はね)は幻想的であり昆虫が苦手な方でも思わず息を呑むのではないでしょうか。
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はじめに
第1章 季節から見つける
第2章 フィールドから見つける
第3章 特徴から見つける
第4章 実際に見つけに行く
番外編
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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