【夜】の身近な昆虫を観察してみよう

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身近な昆虫の魅力を知り、子供の頃のように昆虫を見つけることに喜びを感じられるようになれば、毎日の生活にささやかな幸せが増えることでしょう。

國谷正明氏による『身近な昆虫の観察入門』はこちらから

著者:國谷正明

北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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この章(第2章)では一歩踏み込んで、実際に自然のなかに足を運ぶことを想定して【山野】【水辺】【街なか】【】とフィールドのタイプ別に、比較的簡単に見つけることのできる虫の種類と観察のポイントをお伝えしていきます。

このページでは【夜】の昆虫を紹介します。

身近にいる昆虫を見つける喜びを体験し、観察することで昆虫との触れ合いを楽しんでいただければと思います。

 

夜行性の昆虫について

 

昆虫には夜行性のものも多く、中には光のある方向に近づく「正の走光性」をもっているものも少なくありません。対して、前ページでご紹介したシミのように光を嫌う性質を「負の走光性」と呼びます。

 

 

「負の走光性」をもっている生き物は全般的に観察が難しいです。

一方で「正の走光性」をもつ昆虫は街灯や懐中電灯の光に寄ってくるため、比較的容易に観察することができます。

昆虫が光に集まるメカニズムについては未だ明らかになっていない部分も多いです。ただ、夜行性の昆虫は月を目印に移動する方向を判断しているため、月と街灯の区別がつかずに引き寄せられてしまうという説があります。

 

※諸説あります

 

「種によって月の満ち引きで誘引される個体数に違いが出た」という研究結果もあるので、あながち間違ってはいないかもしれません。

言うまでもありませんが、夜の昆虫採集は昼間に比べてさまざまなリスクが格段に跳ね上がりますので、安全面に配慮して行うようにしてください。

 

オオミズアオ

名称 オオミズアオ
大きさ 前翅長(ぜんしちょう) 50~75mm
出現時期 8月~9月
分布 北海道~屋久島
いる場所 林緑・雑木林
備考 「ガ」の一種なので光に集まる習性がある。

 

オオミズアオは日本に棲息する昆虫の中で最も美しい生き物であるといっても過言ではありません。

夜の闇にぼんやりと浮かびあがる薄水色の大きな翅(はね)は幻想的ですらあり、昆虫が苦手という方でも思わず息を呑むのではないでしょうか。

 

▼オオミズアオが動く様子

 

正の走光性をもつため市街地でも普通に見ることができますが、オオミズアオの魅力を堪能するには都会の喧騒を離れた自然のなかこそ適していると断言できます。

近縁(きんえん=近い種)のものにオナガミズアオがありますが、外見的な違いはほとんどないため、見分けるにはかなりの経験が必要となります。

観察のポイントなど、もはや語るまでもないでしょう。ただただオオミズアオの美しさを堪能してください。

 

トゲナナフシ

名称 トゲナナフシ
大きさ メス 57~75mm
出現時期 6月~12月
分布 本州・四国・九州・沖縄
いる場所 樹木

 

トゲナナフシは昼間じっとして木の枝に擬態(ぎたい:他のものにようすや姿を似せる事)していますが、夜になると活発に動きまわります。

樹皮(じゅひ)のような焦げ茶色の体なので樹の表面にいるとなかなか見つけられませんが、葉を食べに緑色の葉の上を歩いているときは簡単に発見することができます。

 

木の枝に擬態した姿形も十分に奇妙ですが、ナナフシにはさらに奇妙な生態があります。それは「単為生殖(たんいせいしょく)」です。

単為生殖とは、雌の個体が単独で繁殖する性質のことで、トゲナナフシの99%以上が雌の個体であるといわれています。

トゲナナフシの雄個体の発見例は国内にわずか1件で、2009年に京都で捕獲されました。

 

トゲナナフシは他のナナフシと比べると体が太く、また背中には名前の由来にもなっているトゲ状の突起が生えているので、見分けるのは容易です。

 

▼トゲナナフシ


By KENPEI – KENPEI’s photo, CC 表示-継承 3.0, Link 

 

雄(オス)の個体は雌と比べてひとまわり体が小さいので、5cm前後しかない成体(=生殖ができるほど成長した状態)を発見したら、研究者に報告してみると良いでしょう。ナナフシの研究に大きく貢献できるかもしれません。

 

▼大体5cmのもの:クレジットカードの縦の長さ(およそ5.4cm)

 

 

セミの幼虫

 

昆虫の王様といえばカブトムシとクワガタムシですが、セミの幼虫こそ夜の昆虫採集の醍醐味

成虫は至るところで見られるセミも、幼虫は土から這い出して羽化するまでのごく短い間しか見ることができません。

運が良ければ、羽化する瞬間に立ち会う名誉に預かることもできるでしょう。

 

▼セミの羽化の動画

 

ほとんどのセミ(幼虫)は日没を待って地上に現れますので、セミの羽化に立ち会いたいのであれば日が落ちる19時30分頃には探索をはじめたいところです。

樹木の根元や木製の杭など、セミが羽化をおこなう場所は限られていますので、時期と時間帯が正しければかなり高い確率で観察することができます。

ちなみに、どうしても観察したければ樹木の根元にある小さな穴のなかに潜んでいるセミの幼虫を昼間のうちに掘り返してしまうという方法もあります。

 

▼小さな穴の中のセミ

 

小さいお子様がいる家庭の場合には、このような方法で捕獲した幼虫を室内のカーテンなどに捕まらせて、羽化の様子を観察してみるのも良いかもしれません。

その際にはテレビなどの音を消し、灯りを暗くし、なるべく自然の状態に近い環境を整えるようにしてください。もちろん蚊取り線香や殺虫剤は厳禁です。

セミは1時間半ほど掛けて羽化をおこなうので、気長に観察しましょう。

 

この章(第2章)ではフィールド別に見つけることができる昆虫を紹介してきました。次の章では【格好いい昆虫】【可愛い昆虫】【不思議な昆虫】と昆虫の特徴別にランキング形式で紹介いたします。

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昆虫たちの【冬】の越し方

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北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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この章(第1章)では【】【】【】【】に分けて、季節ごとに身近に棲息する昆虫たちを紹介していきます。

寒い冬は昆虫たちにとって「死の季節」であり、生き抜くために様々な方法を駆使して冬を乗り越えています。

昆虫たちの冬の乗り越え方を知り、昆虫への興味をより深めていただきたく思います。

 

冬に見られる昆虫

 

【名称】ハナアブ
【大きさ】体長 14~16mm
【出現時期】4月~12月
【分布】日本全土
【いる場所】花の上
By Andreas Thomas Hein投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link 【名称】オツネントンボ
【大きさ】体長 26~41mm
【出現時期】11月~4月
【分布】北海道~九州
【いる場所】沼・林に近い池
【名称】キタテハ
【大きさ】前翅長(ぜんしちょう) 3~8.5mm
【出現時期】4月~12月
【分布】北海道南西部~九州
【いる場所】草むら・花の上

 

冬の昆虫観察が困難な理由

 

冬は他の季節に比べて昆虫の観察が困難になります。

空気が乾燥し、気温が著しく低下する冬は多くの虫たちにとって「死の季節」であるといっても過言ではありません。昆虫の他、爬虫類や両棲類といった野生動物の観察が難しい冬の間はなんとも味気ない日々が続きます。

 

冬の観察が困難な理由は、昆虫が変温動物であるからです。

 

人間をふくむ哺乳類や鳥類は恒温動物です。恒温動物は外気温に左右されることなく一定の体温を保つことができます。

一方、昆虫などの変温動物は外部の温度によって体温が変化します。

 

 

動物が活動するには「熱」が必要です。熱がなくなれば基本的に動物は死んでしまいます。

恒温動物の場合は食料を食べるなどして自分の内から熱を生み出すことできます。

一方、変温動物である昆虫は内から熱を生み出すことができません。また、外気温により体温が変化してしまうため、気温が下がる冬を越すにはなんらかの工夫を凝らさなければ生き残ることができないのです。

 

昆虫の冬の越し方

 

昆虫が安全に冬を越すための方法は二つに大別されます。

 

① 暖かい場所を求めて移動

 

ひとつは「暖かい場所を求めて移動する」というもので、一部のチョウやトンボがこれに該当します。

日本にも棲息するウスバキトンボは「渡り」をする昆虫として有名で、近年の研究によってなんと7,100kmもの距離を移動していることが判明しました。

 

▼ウスバキトンボ

名称 ウスバキトンボ
大きさ 体長 45~55mm
出現時期 4月~9月
分布 北海道~沖縄
いる場所

 

これは生物界でも最長で、これまで最長の渡りをおこなうとされていたオオカバマダラの4,000kmを大きく上回る記録です。

 

【編集部の昆虫豆知識】オオカバマダラ

オオカバマダラは、冬の間は南へ渡りを行います。

「渡り鳥のように渡りを行う蝶」として有名な昆虫です。

 

 

夏は米国北部とカナダをすみかとし、毎年秋になるとカルフォルニア州とメキシコへ移動を行います。世代交代をしながら大移動します。

 

② 代謝を抑えた状態で寒さに耐える

 

もうひとつの方法が、代謝を抑えた状態で寒さに耐えるというものです。

 

代謝とは
代謝は生物が生命を維持するための体内で行われる化学反応のことです。人間の場合は脂肪をエネルギーに変えることで体を動かしていますが、これが代謝に該当します。

 

耐寒性の強い生物種であれば、成虫(=昆虫の最終形態)の状態でも冬を生き抜くことができます。ハチやアリ、テントウムシやカメムシがその例です。

彼らは樹皮の隙間や落ち葉の下でおしくらまんじゅうのように身を寄せ合うことで外気から身を守ります。ただ動かずに何も食べなければ飢え死にしてしまいますので、気温の高い時間には活動的になることもあります。

 

▼落ち葉の下で集まるテントウムシのイメージ

 

一方で、コオロギやカマキリといったバッタ目に属する昆虫は寒さに弱く、成虫の状態では冬を越せずに死んでしまいます。彼らは秋になると産卵して次の世代に命を託します。

代表的な例が、カマキリの卵です。

 

▼カマキリの卵

 

カマキリの卵は、泡状のタンパク質に包まれることで寒さや外敵から守られます。気温の上昇とともに休眠から覚めておびただしい数の幼虫が一斉に孵化します。

 

カブトムシやクワガタムシの幼虫が土の中や樹木の中で過ごすのも、寒さや外敵から身を守るためであるといわれています。

 

▼カブトムシの幼虫

 

また、ガやチョウの仲間は蛹(さなぎ)の状態で冬を過ごすものが多いですが、越冬できずに蛹のまま死んでしまうものも少なくありません。

 

▼蛹のアゲハチョウ

 

▼形態別、冬の越え方一覧

成虫 集団で物陰に隠れて身を寄せ合うなどして冬を越す。
成虫は死に、卵を生んで次の世代に託す。
幼虫 寒さや外敵から身を守るため、土や樹木の中で過ごす。
蛹越 蛹は食べる必要もなく厳しい冬を超すには適した状態。枝に同化していたりする。

 

寒さの厳しい冬の時期でも、比較的気温が高い日には一時的に冬眠からさめて日向ぼっこをしている生き物の姿を見ることができますので、そういう日には自然のなかに足を伸ばしてみるのも一興です。

また、樹皮の裏や土の中、落ち葉の裏をのぞいてみると休眠中の生き物と出会えることがありますが、越冬を妨げないためにも手短に観察を済ませたら速やかに元の状態に戻してやるようにしてください。

 

この章(第1章)では、四季ごとに昆虫を紹介いたしました。次の章(第2章)からは【山野】【水辺】【街なか】【】とフィールド別に見つけることができる昆虫を4ページにわたって紹介します。

次のページは【山野】で見つけることができる昆虫を紹介します。

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