『身近な昆虫の観察入門』目次へ (全17ページ)
この章(第2章)では一歩踏み込んで、実際に自然のなかに足を運ぶことを想定して【山野】【水辺】【街なか】【夜】とフィールドのタイプ別に、比較的簡単に見つけることのできる虫の種類と観察のポイントをお伝えしていきます。
このページでは【夜】の昆虫を紹介します。
身近にいる昆虫を見つける喜びを体験し、観察することで昆虫との触れ合いを楽しんでいただければと思います。
夜行性の昆虫について
昆虫には夜行性のものも多く、中には光のある方向に近づく「正の走光性」をもっているものも少なくありません。対して、前ページでご紹介したシミのように光を嫌う性質を「負の走光性」と呼びます。
「負の走光性」をもっている生き物は全般的に観察が難しいです。
一方で「正の走光性」をもつ昆虫は街灯や懐中電灯の光に寄ってくるため、比較的容易に観察することができます。
昆虫が光に集まるメカニズムについては未だ明らかになっていない部分も多いです。ただ、夜行性の昆虫は月を目印に移動する方向を判断しているため、月と街灯の区別がつかずに引き寄せられてしまうという説があります。
※諸説あります
「種によって月の満ち引きで誘引される個体数に違いが出た」という研究結果もあるので、あながち間違ってはいないかもしれません。
言うまでもありませんが、夜の昆虫採集は昼間に比べてさまざまなリスクが格段に跳ね上がりますので、安全面に配慮して行うようにしてください。
オオミズアオ
名称 | オオミズアオ |
大きさ | 前翅長(ぜんしちょう) 50~75mm |
出現時期 | 8月~9月 |
分布 | 北海道~屋久島 |
いる場所 | 林緑・雑木林 |
備考 | 「ガ」の一種なので光に集まる習性がある。 |
オオミズアオは日本に棲息する昆虫の中で最も美しい生き物であるといっても過言ではありません。
夜の闇にぼんやりと浮かびあがる薄水色の大きな翅(はね)は幻想的ですらあり、昆虫が苦手という方でも思わず息を呑むのではないでしょうか。
▼オオミズアオが動く様子
かつて月の女神アルテミスと呼ばれた生き物
オオミズアオ Actias aliena
(旧学名 Actias artemis) pic.twitter.com/sdH1sLvLPV— FUMIHIKO HIRAI🐝TokyoBugBoys (@uta_31) 2018年8月7日
正の走光性をもつため市街地でも普通に見ることができますが、オオミズアオの魅力を堪能するには都会の喧騒を離れた自然のなかこそ適していると断言できます。
近縁(きんえん=近い種)のものにオナガミズアオがありますが、外見的な違いはほとんどないため、見分けるにはかなりの経験が必要となります。
観察のポイントなど、もはや語るまでもないでしょう。ただただオオミズアオの美しさを堪能してください。
トゲナナフシ
名称 | トゲナナフシ |
大きさ | メス 57~75mm |
出現時期 | 6月~12月 |
分布 | 本州・四国・九州・沖縄 |
いる場所 | 樹木 |
トゲナナフシは昼間じっとして木の枝に擬態(ぎたい:他のものにようすや姿を似せる事)していますが、夜になると活発に動きまわります。
樹皮(じゅひ)のような焦げ茶色の体なので樹の表面にいるとなかなか見つけられませんが、葉を食べに緑色の葉の上を歩いているときは簡単に発見することができます。
木の枝に擬態した姿形も十分に奇妙ですが、ナナフシにはさらに奇妙な生態があります。それは「単為生殖(たんいせいしょく)」です。
単為生殖とは、雌の個体が単独で繁殖する性質のことで、トゲナナフシの99%以上が雌の個体であるといわれています。
トゲナナフシの雄個体の発見例は国内にわずか1件で、2009年に京都で捕獲されました。
トゲナナフシは他のナナフシと比べると体が太く、また背中には名前の由来にもなっているトゲ状の突起が生えているので、見分けるのは容易です。
▼トゲナナフシ
By KENPEI – KENPEI’s photo, CC 表示-継承 3.0, Link
雄(オス)の個体は雌と比べてひとまわり体が小さいので、5cm前後しかない成体(=生殖ができるほど成長した状態)を発見したら、研究者に報告してみると良いでしょう。ナナフシの研究に大きく貢献できるかもしれません。
▼大体5cmのもの:クレジットカードの縦の長さ(およそ5.4cm)
セミの幼虫
昆虫の王様といえばカブトムシとクワガタムシですが、セミの幼虫こそ夜の昆虫採集の醍醐味です。
成虫は至るところで見られるセミも、幼虫は土から這い出して羽化するまでのごく短い間しか見ることができません。
運が良ければ、羽化する瞬間に立ち会う名誉に預かることもできるでしょう。
▼セミの羽化の動画
日が暮れて、そろそろ地中からセミが出てきて羽化するころ…。井の頭自然文化園のM職員がミンミンゼミの羽化を動画撮影しました。本編1分20秒は東京ズーネット最新記事をごらんください☞https://t.co/AoMUw7XCQD pic.twitter.com/8aKZ4qKQD9
— 東京ズーネット[公式] (@TokyoZooNet_PR) 2018年8月23日
ほとんどのセミ(幼虫)は日没を待って地上に現れますので、セミの羽化に立ち会いたいのであれば日が落ちる19時30分頃には探索をはじめたいところです。
樹木の根元や木製の杭など、セミが羽化をおこなう場所は限られていますので、時期と時間帯が正しければかなり高い確率で観察することができます。
ちなみに、どうしても観察したければ樹木の根元にある小さな穴のなかに潜んでいるセミの幼虫を昼間のうちに掘り返してしまうという方法もあります。
▼小さな穴の中のセミ
地面に小さな穴が空いていたので、近くで見てみると…#動物園 #豊橋 #のんほいパーク #セミ #羽化 #夏はもうすぐそこに! pic.twitter.com/YhkmfTv32K
— 豊橋総合動植物公園(豊橋のんほいパーク) (@non_hoi_park) 2017年7月2日
小さいお子様がいる家庭の場合には、このような方法で捕獲した幼虫を室内のカーテンなどに捕まらせて、羽化の様子を観察してみるのも良いかもしれません。
その際にはテレビなどの音を消し、灯りを暗くし、なるべく自然の状態に近い環境を整えるようにしてください。もちろん蚊取り線香や殺虫剤は厳禁です。
セミは1時間半ほど掛けて羽化をおこなうので、気長に観察しましょう。
この章(第2章)ではフィールド別に見つけることができる昆虫を紹介してきました。次の章では【格好いい昆虫】【可愛い昆虫】【不思議な昆虫】と昆虫の特徴別にランキング形式で紹介いたします。
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はじめに
第1章 季節から見つける
第2章 フィールドから見つける
第3章 特徴から見つける
第4章 実際に見つけに行く
番外編
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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