ファン歴30年以上が谷山浩子さんの曲世界を紹介。トラウマソングとして有名なNHK『みんなのうた』への提供曲「まっくら森の歌」をはじめ、あまりにも独特すぎる不思議な曲の世界にの数々に虜になること間違いなし!?
谷山浩子入門 ~『みんなのうた』でトラウマを与えた音楽家!?唯一無二のダークファンタジー世界~はこちらから!
はじめに
第1章 谷山浩子の曲世界
第2章 谷山浩子の軌跡
第3章 ラジオとライブ
著者:加藤千鶴
1972年生まれのライター。谷山浩子ファン歴30年以上。小学6年生の時にラジカセから流れる音楽に魅了され日本のポップス・ロックを聴き続けてきました。谷山浩子さんはみんなのうたの「恋するニワトリ」でハマりました。音楽以外では、演劇やダンスなどの舞台鑑賞と、シュノーケリングなどの旅行、FMラジオが趣味。
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この章では浩子さんの楽曲を
【『みんなのうた』~カワイイのに怖い曲~編】
【コラボ編】
【ファンタジー世界編】
に分けて3ページにわたって紹介いたします。
谷山浩子さんの曲の世界は「現実離れしたことが起きる独特なファンタジー」です。
このページでは浩子さんのファンタジーな曲を「物語を題材にした曲」「夢の世界を描いた曲」「人とつながれない喪失感を描いた曲」と3つの項目に分けて紹介していきます。
目次
① 物語を題材にした曲
浩子さんの曲には、物語を題材(モチーフ)にした組曲(=いくつかの曲を組み合わせて一つにしたもの)が複数あります。
例えばアーシュラ・K・ル=グウィン作『ゲド戦記』や、あまんきみこ作『車のいろは空のいろ』などを題材に採っています。
浩子さんはファンタジー小説も多く書いていて、自作の小説と世界を共有する組曲は特に濃厚な世界を作っています。
▼谷山浩子のファンタジー小説の例『悲しみの時計少女』
物語への愛着は音楽劇という形にもなり以下の4作品が上演されました。
アンデルセン作『雪の女王』、ルイス・キャロル作『不思議の国のアリス』、ますむらひろし作のマンガ『アタゴオルは猫の森』、尾崎翠作の小説『第七官界彷徨』を原作に、独自の解釈と想像力が発揮された舞台でした。
▼谷山浩子の幻想図書館 雪の女王(DVD):『幻想図書館』は谷山浩子の音楽劇のシリーズ。
物語を題材にしたおすすめ曲3選
「神様」「素晴らしき紅マグロの世界」「第2の夢・骨の駅」は物語に合わせて作られた組曲の中の曲です。一曲だけ聞いても物語のイメージとのシンクロ率が高く、インパクトのある曲を選びました。
▼曲名とモチーフ
曲名 | モチーフ |
神様 | 小説『神様』川上弘美 |
素晴らしき紅マグロの世界 | 漫画『アタゴオルは猫の森』ますむらひろし |
第2の夢・骨の駅 | 小説『お昼寝宮・お散歩宮』 谷山浩子 |
② 夢の世界を描いた曲
浩子さんの楽曲には物語的な場面設定がある曲も多くあります。
歌の起点が現実世界のようでも、現実離れした展開を見せることが多いです。総じて幻想的な作風です。
浩子さんは『指輪物語』などのファンタジー好き。歴史小説やマンガ、ドラマ好きでもあり、物語世界への深い愛を感じます。
また、影響を受けた本として宮城音弥著の『夢』を紹介しています。本書は夢の世界を分析した本です。この本を読んで夢の持つイメージ喚起力に引かれて、浩子さんは夢日記を付けはじめたようです。
以前は夢日記を長い期間つけていて、見た夢をなんらかの形で作品に反映させていました。
夢の世界を、緊密な空気感まで作り込んだのが、浩子さんの曲の世界といえるかもしれません。
曲の中にはダークファンタジー(悪夢の世界)も少なくありません。
世界は壊れて奇妙なことが起きたり、滅びていったりします。
前のページで触れたキテレツな生き物「まもるくん」が警察官の肩などから生えてきますし、穀物の雨が降ったり(「穀物の雨が降る」)、募る思いで世界が砂漠になったり(「不眠の力」)します。
これらのシュールな世界を描く曲は、アルバムタイトル『白と黒』にちなんで「黒」と呼ばれています。独自の想像力と幻想的な世界が魅力です。
「黒」と呼ばれる曲の一部はキッチュな魅力の明るい曲です。
キッチュな魅力の明るい曲 | 「まもるくん」「たんぽぽ食べて」「第5の夢・そっくり人形展覧会」 |
世界観に合う壮大な曲 | 「漂流楽団」「七角錐の少女」「時計館の殺人」 |
マイナーコードの曲 | 「ガラスの巨人」「人形の家」「アトカタモナイノ国」 |
ほかには世界観に合う壮大な曲やマイナーコードの曲が多く、これらの空気はゴシック・ロックに近いものがあります。形は異なりますが、ちょっとゴスロリっぽい。
ROLLY氏と共作したアルバム『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』『暴虐のからくり人形楽団』 の2枚は、ギターサウンドでそんなゴシック・ロックっぽい一面をクローズアップした作品になりました。
▼『ROLLY&谷山浩子のからくり人形楽団』発売記念ライブ映像集
浩子さんの通常のアルバムはピアノやシンセがメインのアレンジで、やさしいメロディーと声に、悪夢の世界が一層コワく染み渡ります。
夢の世界を描いたおすすめ曲3選
「穀物の雨が降る」「不眠の力」は文中で取り上げた滅亡する曲です。「仇」は人気曲です。悪夢であることが明確な曲を選びました。
▼曲名と内容
曲名 | 内容 |
穀物の雨が降る | 穀物の雨が降って、街にトカゲが出てくる。電車も車も止まり、ヒトも息をしなくなる。 |
不眠の力 | わたしが眠れぬ限り砂漠は広がる。恋する人は眠れない。いちめんの砂漠になり人は死に絶える。 |
仇 | 私の父の仇 恋人。 |
③ つながれない喪失感を描いた曲
浩子さんの(特に初期の)多くの曲のテーマは、届かない恋心や、人と交われない孤独感です。
本人は「諸行無常ソング」と書いていますが、主人公がなにかが失われたと感じている曲が非常に多いです。
視点は閉じこもった自分の殻の中にあり、世界や恋愛相手は自分の妄想として描かれているように思います。
恋愛が成立している場合にも、相手と2人で自ら隔離されています。
思春期のような、自分の気持ちだけでいっぱいになっている状態で聞くと、ハマります。
一人で思い詰めた心の先から妄想の枠を越えた壮大な幻想世界が広がっていきます。
自我のスクリーンに映された幻想に深淵を見る神曲の数々をぜひ聴いてみてください。
想像上の異性の視点から歌う癒しソングは、とってもやさしくて切なくなります。
つながれない喪失感を描いたおすすめ曲
つながれない喪失感を描いた曲は「失われた世界」「閉ざされた世界」「想像上の異性の視点から歌う癒しソング」に分けることができるでしょう。以下ではそれぞれの特徴が顕著に出ている曲を3曲ずつおすすめの曲として紹介します。
▼失われた世界のおすすめ曲
曲名 | 内容 |
電波塔の少年 | きみへと飛ぶ僕は電波。だけど、きみの受信装置は壊れていた。もう僕はどこにもいなくなる。 |
僕は帰る きっと帰る | 遊び回ってたら迷い込んだ巨大な倉庫のようなおかしな世界。それでも君のところに帰る。 |
船 | 星空に浮かぶ船に乗って、心変わりする前のやさしいあの人を探す。 |
▼閉ざされた世界のおすすめ曲
曲名 | 内容 |
王国 | 誰もいない、ふたりだけの歪んだ王国。 |
鳥籠姫 | わたしはわたしをここに閉じ込めた。帰らぬ人を待ち続けて。 |
白雪姫と七人のダイジョーブ | きみのために、家も水道も電気も作る。生活は全部僕らが守る。 |
▼想像上の異性の視点から歌う癒しソングのおすすめ曲
曲名 | 内容 |
ここにいるよ | つらいときは、あなたの愛するものすべてがあなたをきっと支える。 |
おやすみ | 遠く離れて会えない人を「おやすみ 僕の大好きな人」と思いやる。 |
うさぎ | 長い時間誰かを待って泣いている女の子。僕はきみのことを見ていた。 |
ファンタジーのおすすめアルバム・本
興味を持っていただけたら、是非曲を聴いてみてください。
おすすめ曲は筆者の好みで選んでいます。
気に入ったらほかの曲も聴いていただけると嬉しいです。
第1章では浩子さんの曲世界を紹介しましたが、第2章では、浩子さんのこれまでの軌跡を紹介します。
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