國谷正明氏による『ノワール文学(ノワール小説)入門』はこちらから
第1章 ノワール文学とは
第2章 各国のノワール文学
第3章 ノワール小説傑作選
第4章 ポップカルチャーに潜むノワール
『ノワール文学入門』目次へ (全16ページ)
はじめに
ミステリ・SF・ファンタジー・ホラー・純文学やライトノベルなど、世界中にはさまざまなジャンルの小説があります。
一見するとまったく異なるように思えるそれらの小説ですが、どれも人間の営みを描いているという点に変わりはありません。
稀に、動物など人間以外の対象を主軸に据えている作品もありますが、それらは大抵の場合擬人化することで人間と同列の存在として描かれています。さらに踏みこんで言うならば、人間の手によって作られている以上、好むと好まざるとに関わらず、それがどんな作品であれ「人間の心の在り様を反映しているもの」と断言できます。
複雑怪奇きわまりない人間の心をどのような視点から見つめるか――
ジャンルの違いとは、その態度の違いに他ならないのです。
「ノワール」という小説ジャンルは一般にミステリのサブジャンル(下位に位置するジャンル)として分類されます。
しかし、日本においては純文学(娯楽性ではなく芸術性を追求して創作される文芸作品)の一派とされている自然主義文学※と重なる領域もあるなど、ミステリの枠には収まりきらない奥深い魅力を備えています。
日本の代表的な作家に、島崎藤村、田山花袋、永山荷風らがいる。
このWebonでは、ノワール文学(ノワール小説)の定義や歴史・各国のノワール文学の特徴および相違点、カテゴリ別のおすすめ作品や、ノワール文学が他のポップカルチャーに与えた影響など、ノワール文学の魅力をさまざまな角度からみなさんにご紹介していきます。
文学ファンからそうでない方まで、是非ご覧になっていってください。
ノワール文学(小説)を楽しむ
これから詳しく説明していきますが、ノワール文学(ノワール小説)とは人間の内面に潜む感情を冷徹な態度で見据えた作品群を指します。
倒錯(とうさく=感情などの異常による非社会的な)した愛情や激しい怒り、狂気や絶望といった作中の登場人物が抱える心の闇は、わたしたちにとって無縁のものではありません。
いつの日か、不条理な暴力衝動に駆られた人物に襲われることがあるかもしれませんし、自分自身が加害者にならないとも限りません。
自分が知らぬ間に狂気に染まっていないと、誰が言いきることができるでしょうか。
ノワール文学は高い普遍性を有しています。ノワールの世界はファンタジーではありません。
作品の登場人物の多くは、犯罪者やそれを取り締まる警察官ですが、彼らもわたしたちと同じ人間です。時代や土地が違えど、その営みはわたしたちの暮らす街の一角で当たり前のように行われているものと何ら変わりはないのです。
登場人物の心の闇を知ることは、わたしたち自身の心を知ることに繋がり、物語の舞台である腐敗した街を知ることは、わたしたちが生きている世界を知ることを意味しています。
「ノワール」とは、決して万人受けするようなジャンルではありません。
むしろ、その暗く破滅的な世界の一端を覗くことで気分を害する方もいらっしゃるでしょう。しかしながら、前述したとおり、その暗く破滅的な世界こそ、わたしたちの生きる舞台に他ならないのです。
ノワールの世界に触れることで、わたしたちは自分自身さえ自覚していない内面の奥深くを知ることができます。それは、わたしたちに新たな視点で世界を見るきっかけをもたらし、より味わい深い人生を送るための良い手助けとなることでしょう。
長々と御託を並べて参りましたが、ノワール文学も他の小説と同じように、読者を楽しませることを目的に作られたエンターテイメント作品です。
これからノワール文学に触れてみようという方へ――
小難しいことは抜きにして、まずは作品を純粋に楽しんでみてください。きっと素敵な読書体験となるはずです。
次のページから第1章「ノワール文学とは」です。まずは「ノワール文学の定義」について解説をしていきます。
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第1章 ノワール文学とは
第2章 各国のノワール文学
第3章 ノワール小説傑作選
第4章 ポップカルチャーに潜むノワール