『身近な昆虫の観察入門』目次へ (全17ページ)
この章(第2章)では一歩踏み込んで、実際に自然のなかに足を運ぶことを想定して【山野】【水辺】【街なか】【夜】とフィールドのタイプ別に、比較的簡単に見つけることのできる虫の種類と観察のポイントをお伝えしていきます。
身近にいる昆虫を見つける喜びを体験し、観察することで昆虫との触れ合いを楽しんでいただければと思います。
このページではため池や水田といった【水辺】で観察することのできる昆虫についてご紹介していきます。
▼ため池
カブトエビ
名称 | カブトエビ |
大きさ | 体長 200~300mm |
出現時期 | 6月~8月 |
分布 | 関東・中部地方以西 |
いる場所 | 水田 |
田植えの終わった田んぼでかならずといっていいほど見ることのできる生き物がカブトエビです。(カブトエビは甲殻類に分類されるので厳密にいうと昆虫ではありませんが、前で述べているように、ここでは一般に「虫」として認識されている節足動物を含めて取り扱います。)
▼田んぼ
カブトエビはその一生を田んぼの中で過ごします。
カブトエビの卵は乾燥状態で何年も生き延びることができるため、収穫が終わり固まった田んぼの中でも死んでしまうことはありません。
田植えの季節になって水が入れられると卵が孵化し、水中のプランクトンなどを捕食して成長していきます。
カブトエビの寿命は一ヶ月程だと言われています。カブトエビの成体(=成長して生殖ができるようになった状態の生物)は6月~8月の間だけ見ることができます。
カブトエビは一生のうちに300~1000個の卵を生むと言われています。田んぼの水が入る時期に生んだ卵のうちの3割だけが孵化します。一度に全て孵化しないのは種を絶滅させないためです。例えば、農薬をまかれて孵化したカブトエビは死んだとしても、卵は死ぬことはないのです。こうしてカブトエビは「生きた化石」と言われる程、長い間生き残ってきたのです。
餌を探して動きまわるカブトエビが水底をかきまわすことで農業の邪魔になる雑草の生育が抑えられます。それにより稲の発育を促す効果が期待できます。
成体はおよそ3cmほどに成長します。
▼約3cm:SDカードの縦の長さ
水田のなかをちょろちょろと動きまわる姿を観察することができますが、採取する際には稲を傷つけないよう慎重におこなってください。
日本にはアジアカブトエビ、アメリカカブトエビ、ヨーロッパカブトエビの三種が棲息しており、アジアカブトエビ以外は外来種(がいらいしゅ:人為的にその地域に入ってきた生物)であるとされています。顕微鏡レベルで観察する必要があるため、外見上で見分けることは困難です。
水田を眺めていれば、ちょろちょろと動きまわるカブトエビの姿を容易に見つけられるはずです。
カブトエビは「生きた化石」と呼ばれ、2億年以上の太古から変わらない姿で現存しています。
その原始的で完成された形態は、見る者に進化の霊異を感じさせることでしょう。
マツモムシ
名称 | マツモムシ |
大きさ | 体長 11.5~14mm |
出現時期 | 4月~10月 |
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
いる場所 | ため池・田んぼ |
マツモムシはため池や田んぼ、まれに水たまりなどでも見ることができる水棲昆虫(すいせい こんちゅう=主に水中で生活する昆虫)です。体長1cm前後の小さな昆虫です。
▼1cmのもの:1円玉の半径
水面に仰向けに張りついている姿にはどこか愛嬌があり、眺めていて飽きることがありません。
水に落ちた虫などを捕食する肉食性の昆虫で、長い口吻(こうふん:くちさきの意)を獲物に刺して消化液を分泌し、どろどろに溶けた肉質を吸いこみます。
小柄ながら攻撃性が高く、捕まえようとすると刺してきますので、なるべく素手では触らないようにしてください。
By コンピュータが読み取れる情報は提供されていませんが、Keisotyoだと推定されます(著作権の主張に基づく) CC 表示-継承 3.0, Link
近縁種(きんえんしゅ=生物の分類で近い存在にあたる種)にキイロマツモムシやコマツモムシなどがありますが、大きさや色味で容易に判別することができます。
マツモムシは水面を注意深く観察すれば、見つけることができるかもしれません。
仰向けで水面に貼りつくマツモムシをじっと見つめていると、まるで水中が水面という分厚い壁によって隔てられた別世界であるかのような錯覚に陥ってしまいます。
自然に対する畏怖(いふ)を思い出させてくれるという意味でも、ぜひ観察してほしい昆虫のひとつです。
ミズカマキリ
By Daiju Azuma – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, Link
名称 | ミズカマキリ |
大きさ | 体長 40~50mm |
出現時期 | 4月~10月 |
分布 | 日本全土 |
いる場所 | 水田 |
ミズカマキリはカメムシの仲間に分類される昆虫ですが、カマキリのような鎌をもっていることからその名がつけられました。……カマキリよりもむしろナナフシに似ていると思うのは筆者だけでしょうか。
▼ナナフシ
捕食の際にはマツモムシと同じように長い口吻(こうふん:くちさきの意)を獲物の体に突き刺しますが、素手で掴んでも刺されることはまずありません。
細長い茶褐色の体で枯れ草や枝と同化しているので、注意深く探さないと見つからないかもしれませんが、ため池や水田、水路やよどんだ水たまりなど、さまざまな水辺で観察することができます。
当館のゲンゴロウ先生に対抗してタガメ派の生き物の紹介をします!
ミズカマキリ
Ranatra chinensis
捕まえた獲物を消化液で溶かしながら針のような口で吸います。
プールにもよく現れるので一番馴染みのある種かもしれませんね。#ゲンゴロウvsタガメ #水生昆虫頂上決戦 #カマキリ先生への挑戦状 pic.twitter.com/ytaOd90KaP— アクアマリンいなわしろカワセミ水族館 (@InawashiroAQ) 2018年6月4日
余談ですが、筆者が小学生の頃はプールの授業中によく遭遇しました。今になって考えると、塩素殺菌された水のなかでよく生きていられたものだと思います。
近縁種(=生物の分類で近い存在にあたる種)にヒメミズカマキリとマダラアシミズカマキリがあります。
ヒメミズカマキリは体長の長さに比べて呼吸管(こきゅうかん)が明らかに短いのが特徴です。マダラアシミズカマキリは足に黒い斑点の模様があります。
目視で見つけることは難しいですが、タモ網などで水中の枯れ草などをガサガサすると捕獲できることがありますので、根気強く探してみてください。
▼タモ網
違う生き物を探していてミズカマキリが網に入ってきたときなどは、小さな感動さえおぼえます。
ネグロセンブリ
ネグロセンブリ pic.twitter.com/3p025tdU9P
— フッカーS(虫アカ) (@fukkeresu) 2016年4月29日
名称 | ネグロセンブリ |
大きさ | 前翅長 15mm |
出現時期 | 6月~7月 |
いる場所 | 水辺 |
ネグロセンブリはセンブリ科に属する生物種で、カゲロウに近い昆虫であるといえます。
▼カゲロウ
「ネグロセンブリ」は、おそらくほとんどの人は耳にしたこともない名前かと思います。それもそのはずでセンブリ科の昆虫は日本でわずか七種しか見つかっていません。
かといって珍しい昆虫なのかというとそんなこともなく、春先に水辺を散策しているとかなりの確率で遭遇することができます。
カゲロウの仲間と同じように幼虫時代を川や池沼などの水中ですごし、成虫(=昆虫の最終形態)になると地上を飛びまわるようになります。
幼虫は水中の石や堆積した落ち葉の裏などに潜んでいますが、カゲロウの幼虫はどれも似たような外見をしているため、かなりの経験を積まなければ見極めは難しいでしょう。
また、センブリの仲間は成虫になっても非常によく似た姿をしており、特に本種と近縁のクロセンブリは色味も変わらないため、外見上での見極めはほとんど困難であるといえます。
その他水辺で見られる昆虫一覧
By mojimojisan – Mojimojisan, CC 表示 3.0, Link | 【名称】ハラビロトンボ 【大きさ】体長 50mm 【出現時期】5月~10月 【分布】北海道~種子島 【いる場所】浅い池 |
【名称】オニヤンマ 【大きさ】体長 95~100mm 【出現時期】6月~10月 【分布】日本全土 【いる場所】渓流付近 |
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【名称】アキアカネ 【大きさ】体長 35~45mm 【出現時期】6月~12月 【分布】北海道~九州 【いる場所】 池・水田 【解説】【秋】の身近な昆虫5選 |
このページでは【水辺】の昆虫を紹介いたしました。
次のページでは【街なか】の昆虫を紹介します。住宅街でも様々な昆虫を見つけることができるのです。
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はじめに
第1章 季節から見つける
第2章 フィールドから見つける
第3章 特徴から見つける
第4章 実際に見つけに行く
番外編
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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