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この章(第3章)では【格好いい昆虫】【可愛い昆虫】【不思議な昆虫】について筆者が独断と偏見で選出したランキング形式でご紹介します。
いずれも日本(主に本州)に棲息する昆虫のみを対象としていますので、ぜひ観察対象などの参考にしていただければ幸いです。
このページでは【不思議な昆虫】を紹介します。
第5位:リンゴコフキハムシ
名称 | リンゴゴフキハムシ |
大きさ | 体長 6~7mm |
出現時期 | 6月~8月 |
分布 | 北海道~九州 |
いる場所 | サワグルミ(=沢などの山間に生えている木)葉上 |
リンゴコフキハムシは一見すると白い体色をしているように思えますが、本当の体色は黒みの強い褐色で、全身に白い鱗粉をまとっているために抜けるような白色に見えています。
全長1cmにも満たない小さなハムシですが、名前のとおり白く粉をふいている個体は葉の上でよく目立つため、注意深く観察せずとも見逃すことは少ないでしょう。
▼1cm:1円玉の半径
鱗片は時間が経つとだんだんと剥がれ落ちてしまいますので、成虫が現れはじめる初夏が観察に適しています。
リンゴ以外にもクヌギやクリ、ウメやクルミなどさまざまな種類の植物の葉を好んで食します。
初見のリンゴコフキハムシ。
白いのは粉で体色は黒。 pic.twitter.com/Q9xNlG6GBc— さいとー (@otias_k_1026) 2018年6月2日
よく似た名前であるリンゴコフキゾウムシも、本種と同じように鱗片で全身を覆われているのですが、リンゴコフキゾウムシの鱗片(りんぺん:表面のうろこ)は金属光沢のある緑色であるため、陽の光の下で見るとまるで宝石のように美しく輝きます。
手すりの上で金緑色に輝くリンゴコフキゾウムシかヒラズネヒゲボソゾウムシ。顔を見ると赤い牙がある!調べてみるとある種のゾウムシに見られる脱落性大顎突起と呼ばれるものらしい。羽化時の土掘りなどに使ってすぐに抜けてしまう牙だそうなので、この鱗片が美しい個体はピカピカの新成虫なのかも。 pic.twitter.com/thbFNn86Vr
— 日本野虫の会 (@panchichi3) 2017年4月18日
どちらも甲乙つけがたい美しさの持ち主で、被写体としても根強い人気を誇っています。
是非その目で観察していただきたい昆虫のひとつです。
第4位:ヒゲナガオトシブミ
名称 | ヒゲナガオトシブミ |
大きさ | 体長 7~12mm |
出現時期 | 5月~7月 |
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
いる場所 | 葉上 |
オトシブミは植物の葉を巻いて円筒形の揺籃(ようらん:ゆりかごのこと)をつくり、その中に産みつけた卵を保護するという変わった習性をもっています。
▼オトシブミのゆりかご
By Σ64 – 投稿者自身による作品, CC 表示 3.0, Link
自分の体よりも何倍も巨大な葉を揺籃に加工します。
オトシブミには長い首をもつものが多いのですが、ヒゲナガオトシブミはその中でも特に長い首をもっており、揺籃をつくる習性と奇怪な外見が相まって、なんとも不思議な雰囲気を醸しています。
ヒゲナガオトシブミは「髭長(ひげなが)」という名の通りオスは長い触覚の持ち主です。何故それ以上に特徴的な長い首にちなんだ名が付けられなかったのか、そういった意味でも不思議な昆虫です。
ちなみに、メスの触覚はいたって普通の長さです。
似たものにキイロヒゲナガオトシブミというものがありますが、体色以外に形態的な違いはほとんどないため、同種とする意見もあります。
第3位:マルアワフキ
photo by:AfroBrazilian
名称 | マルアワフキ |
大きさ | 体長 6~9mm |
出現時期 | 6月~10月 |
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
いる場所 | 草地 |
みなさんも植物に白っぽい泡の塊が付着しているところを見たことがあるのではないでしょうか。それはもしかしたら、マルアワフキの巣かもしれません。
マルアワフキはアワフキムシの一種で、他のアワフキムシと同じように幼虫は排泄物を泡立てて巣を作り、その中で安全に過ごします。
アワフキムシの幼虫がつくる泡巣は非常に丈夫で、多少の風雨ではびくともしません。外敵の侵入を防ぐことはもちろん、高い断熱効果により急激な外気の変化からも身を守ることができるとされています。
マルアワフキの幼虫は春から初夏にかけてヨモギやススキといった植物に泡巣をつくるので、機会があればじっくりと観察してみてください。
マルアワフキってかっこいいな。 pic.twitter.com/ELVvMA0J2k
— FUMIHIKO HIRAI🐝TokyoBugBoys (@uta_31) 2016年6月24日
第2位:ガロアムシ
By OpenCage – [1], CC 表示-継承 2.5, Link
名称 | ガロアムシ |
大きさ | 20mm程度 |
いる場所 | 渓流沿い・洞窟 |
いかにもエキゾチックな名前ですが。れっきとした日本在来の昆虫です。「ガロアムシ」という名前は、大正時代に中禅寺湖で発見したフランスの外交官 「E. Gallois 」にちなんで名付けられました。
▼中禅寺湖
デイリーポータルZに記事が掲載されました。
奥多摩であの「生きた化石」ガロアムシを観察しています。独特の風貌には、不思議なオーラがありました。
地味だけど。https://t.co/HBzhfP1KZ4 pic.twitter.com/MlJOmCFQZt— 平坂寛 (@hirahiroro) 2016年3月22日
ガロアムシは主に渓流沿いや洞窟といった寒冷(かんれい)で人けのない環境に棲息しているため、発見例はそれほど多くなく、その生態はいまだ謎に包まれています。
世界的にみても分布域は非常に狭く、北アメリカ北西部とアジア東部でしか棲息が確認されていません。
また、ガロアムシは氷河時代より存在している昆虫であることが知られており「生きた化石」としてマニアのあいだで静かな人気を誇っています。
一説によると孵化(ふか:卵がかえること)してから成虫になるまで7年もの月日を要するらしく、昆虫としては比較的長い寿命の持ち主であるといえるでしょう。
成虫としての寿命よりも幼虫でいる期間の方が圧倒的に長いということもあり、野生下で成虫を観察できる機会は決して多くありません。
ちなみに、筆者は数年前に実験動物の管理施設内でガロアムシの成虫を捕獲したことがあります。
仕事中だったのでじっくり観察することはできませんでしたが、貴重なガロアムシの成虫を観察する機会に恵まれたことは筆者のささやかな自慢でもあります。
第1位:ヤマトシロアリ
名称 | ヤマトシロアリ |
大きさ | 4~7mm |
出現時期 | 4月~10月 |
分布 | 北海道・本州・四国・九州 |
いる場所 | 木造の家屋 |
ヤマトシロアリは日本在来のシロアリで、木造の家屋を食害する害虫として広く駆除の対象とされています。
その一方で、シロアリは地球上でもっとも個体数の多い昆虫であるともいわれており、地球の生態系を支える重要な役割を果たしている生き物です。
シロアリはアリやハチと同じように高い社会性をもつことでも知られており、王と女王を中心に何十万匹にもおよぶ大規模なコロニー(巣)を形成します。
王シロアリの寿命は非常に長く、およそ10年の寿命をもつとされる女王シロアリの3倍も長く生きるとされています。
シロアリのコロニーは1匹の王シロアリに対して複数匹の女王シロアリを擁するハーレムを形成するという特徴があり、大規模なコロニーでは数百匹もの女王シロアリを保有します。
それらの女王シロアリも元をたどると1匹の女王シロアリ(F1)の「単為生殖(たんいせいしょく=雄と生殖することなくメスが単独で子供を作ること)」によって産み出されたものです。
コロニーの繁栄のため、自らの寿命が尽きるそのときまでF1女王の分身たちと交配を繰り返す王シロアリの一生を思うと、生き物がもつ生命への執着と自然の偉大さを実感せずにはいられません。
この章(第3章)では【格好いい昆虫】【可愛い昆虫】【不思議な昆虫】をランキング形式で紹介しました。ちなみに番外編では【気持ち悪い昆虫】も紹介しております。興味のある方はこちらも合わせてご覧ください。
次の章(第4章)からは実際に筆者が昆虫採集に行った様子をレポートします。昆虫採集しているかのような気持ちを味わい、昆虫を見つける喜びを知っていただきたいです。
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はじめに
第1章 季節から見つける
第2章 フィールドから見つける
第3章 特徴から見つける
第4章 実際に見つけに行く
番外編
著者:國谷正明
北関東在住の1児のパパ。フリーランスのライターとして、ゲームのシナリオや小説の執筆、記事作成を中心に活動しています。「ノワール文学」「エキゾチックアニマル」「東映実録映画」などのコンテンツ作成も手掛ける。お問い合わせはこちらから
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